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訴える付添人

タイトル変更しました。

(旧)憑依王子~悪役令嬢とヒロイン、王子の私~




「……突然、どうしたんだい?」


 真剣な様子に気圧けおされ、罪悪感も手伝って、曖昧な笑みを浮かべて問う。

 対して、彼女は真剣な顔のままで、話しを続けた。


「恐れながら申し上げますが、殿下はカティナベルのことを誤解している……いえ、故意に曲解して、悪者に仕立て上げているのではないですか?」


 私は記憶の中の王子の言動を思い出し、黙り込む。

 こんな婚約は嫌だと不満を漏らし、チマチマとあれがおかしい、これもおかしい、誰々はもっとこうするべきだ、と影でコソコソ批判していた王子。

 表立って声を上げれば、論破されることを心のどこかで知っていたのだろうか。正面切って戦うことは避け、不当な扱いを受ける自分は可愛そうだ、と心を慰めていたのだ、彼は。

 彼女は私が図星をさされて沈黙している、と思ったのだろう。悲しそうな、不満そうな、否、理不尽への苦悶をこらえるように唇をキュッと引き結ぶ。


「彼女だって、殿下と立場は同じです。家の決めた結婚で、彼女の意見は通らない。いえ、殿下より、なお悪い。婚約に不満を持った相手に冷遇され、それでも縁を切ることもできない。将来のため、関係を修復するために、自分を嫌っている相手に声をかけ続けなければならない。……たとえ、相手に媚びている、とさげすまれても」


 悔しさと悲しみ、苛立ちが滲んだ声は震えている。今にも爆発しそうな感情を、必死に押さえつけているのだろう。

 彼女に伸ばしそうになった手を、そっと下ろす。この王子の身体で慰めようとしても、拒絶されるだけだ。もどかしい気持ちで、彼女を見つめる。


「貴方に国王になるものとしての責任を持って欲しい、と彼女は何度も言いました。それが、どれほどの心労を彼女に与えていたことか……」


 彼女は一体、今までどんな気持ちでカティナベルの隣にいたのだろう。どれほど、悩み、苦しんだのだろう。


「どうせ、嫌われている自分が何を言おうが、殿下は聞き入れようとはしない。むしろ、さらに嫌われるだろう。そう思いながらも、言わなければいけない。諫言かんげんする義務が自分にはある、と自分を追い詰めていた彼女の気も知らないでっ!」


 彼女の押さえつけていた感情が、今までに飲み込んできた言葉が、溢れ出す。


「彼女があなたに対して不満を持っているから、小言を言っているとでも思っているのでしょうけれど、それは違います」


 彼女はキッ、とこちらを睨みつける。


「貴方の行動が噂になっていたから、貴方の評判が悪くなることを、臣下の忠誠が揺らぐことを危惧して、言っていたんです。貴方に直接言えない者たちの苦情が、婚約者である彼女に殺到するから、彼女が代弁しているんです。そうでなければ、関係が良くない彼女が貴方に意見なんてするものですかっ!」


 泣き叫ぶような糾弾に胸が痛くなる。どうして、自分は彼女の隣で手を握れる立場じゃないのだろう。抱きしめて、慰める立場にないのだろう。


「たしかに、彼女は物言いはキツイし、優しい人、と言われるような性格じゃありません。でも、だからといって、彼女の高潔さも、責任感の強さも。辛い立場でも気丈に顔を上げ続けられる強さも、なくなるわけじゃない」


 私を見つめる潤んだ瞳に浮かぶのは、理不尽な世界への強い憤り。


「現実から逃げるばかりの貴方あなたが、あの子を知らない貴方の愛人が、彼女を悪者扱いして、浮気と略奪愛を正当化するなんて、絶対に許さないっ!」


 私は魅入られたように彼女をただただ見つめた。

 セラフィオーネは漆黒の髪を首の上でまとめた、ほっそりとした女性だ。

 彼女はいつも、カティナベルの後ろで静かに、目を伏せて立つだけの存在だった。

 王子の記憶の中では、愛想のない、寡黙な女性で。

 私から見ても、冷ややかな態度は変わらない。ただ、凛とした空気と気品をまとい、冬の早朝の空気のような清浄な美しさを感じさせる人だとは思っていた。

 そんな彼女が、こんなにも感情を顕にするのは初めてのはずだ。

 よく見れば、アイスブルーだと思っていた薄い色の瞳は、紫がかっていたことに気づく。まるで、あの日、月明かりにかざした石のような……。


「……もし、私がフィルメリアじゃない、と言ったら、君は信じる?」


 考える前に言葉がこぼれ落ち、セラフィオーネは目を瞬く。

 言った瞬間、自分でも驚いた。

 どう考えても、相談相手として彼女は間違った人選だ。

 彼女は婚約者であるカティナベル側の人間なのだから。

 それなのに私は彼女に聞いて欲しいと、そう望んでいた。


「今後、私は貴方を苦しめるようなことをしないと誓おう。だから、これから話す、突拍子もない話を聞いてくれないか?」


 セラフィオーネは目を丸くし、私は苦笑した。

 彼女がおかしかった訳じゃない。

 滑稽だったのは、自分自身だ。

 胸に湧き上がる想いに、呆れてしまう。


 ――彼女に誠実でありたい。

 ――あの瞳に滲む涙を拭いたい。


 この気持をどうしたものか。

 今はまだ、分からない。


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