浮気者のクズ王子
どうやら、この王太子はどうしようもないクズ、浮気男だったようだ。
親であり上司である陛下。
そして、城で政治を動かす上層部の貴族たち。
彼らによって決められた、公爵家の駒としてしか動かない婚約者。
王太子としての生活に疲れていた彼は癒しを求めた。
身分の低い、力のない弱者である、幼い少女に。
王太子としての立場もわきまえず、少女を誑かし、恋に溺れさせ、現実が分かっていない彼女の優しさにつけ込んだ。
彼は癒しを求めていただけだった。
現実から逃げられる場所が欲しかった。
そんな男が陛下や婚約者とその家族――つまり、現実だ――と戦い、勝利を勝ち取り、浮気相手――失礼、間違えた――真実の愛を世間に認めさせる、なんてことをするわけがない。
二度の人生の記憶と知識がある私に言わせれば、そんなものは金を払って、夢を売って生きている女性のところに通って手に入れればよかったのだ。
彼女たちなら不甲斐ない王子を内心あざ笑いながらも、ちやほやして彼の望む癒しだけを与えてくれただろうに。
現状、王子は癒しを求めた結果、針のむしろにいるようだ。
片方には浮気を責められて、もう片方からは、結婚はまだか、と期待と催促の猛攻撃を受けている。
王子の記憶によれば、癒しを感じられなくなった男爵令嬢には近々、別れを切り出すつもりだったらしい。
だが、とてもとても厄介なことに、このクズ王子、男爵令嬢の方とだけ身体の関係を持っていたようだ。
婚約者の公爵令嬢カティナベルは守りが硬かった。
必ず付き添う、目つきの鋭いお目付け役。
公爵家の血筋の若き未亡人で、かなり手強かった。
それ以前に、婚約者はこの関係をビジネスとして捉えていたため、契約を締結するまでは王子に何も渡すつもりはなかったのだろう。このクズ具合からすれば、彼女は正しい。
対して、男爵令嬢ルルリアナ。
彼女はなんとも危うい少女で、なんというか――重い娘だった。
恋愛至上主義というか、永遠の愛を夢見る、恋に恋する少女で、隙だらけ。
愛されることを求めるあまり、どんどん献身という名の貸付を行い、期待を込めた視線で返済を求めてくる。
――これだけ愛せば、もちろん、同じだけの愛を返してくれるよね?
――ここまで献身を示せば、もちろん、溺愛してくれるよね?
金を積み上げられた方が、跳ね除けられるだけまだマシだ。
気がつけば、善意の皮を被った貸しをどんどん積み重ね、逃げ道を塞ごうとしてくる。口に出さずとも、「借りを返せ」とあの目が言っている。愛はいつから貸し借りされるものになったのだろう?
この閉塞感にも、王子は辟易していたようだ。
私だって、こんな一方的な献身というか、貢がれるような行為をされたら居心地が悪い。
まともな神経をしている男性なら彼女と距離を取るだろうし、当然のように貢がせるような男であれば、愛と献身を返済するどころか、踏み倒していくだろう。
彼女の将来が心配だ。ダメ男ばかりに引っかかる未来しか見えない。
いや、今は私がそのダメ男なのだが……。




