浮気相手に会いに行く
次回投稿に合わせて、タイトル変更します。
新『憑依王子は清算する ~婚約者と男爵令嬢、王子の私~』
旧『憑依王子~婚約者と男爵令嬢、王子の私~』
もともと短編を投稿するはずだったんですが、なかなか結末にたどり着けません……。
私は学園の廊下を足早に進む。
向かうのは、いつも恋人である男爵令嬢ルルリアナと逢引していた空き教室だ。
扉を開けようとして、手が止まる。
これから彼女に伝えなくてはいけない内容を考えると、緊張から手が震えた。
左手で包み込むようにして握りしめ、額に当てて目をつむる。
――……落ち着け。とにかく、まずは一歩を踏み出せ。相手がどう思うか、反応するかなんて、考えたって分かりはしない。
分からないことへの不安と緊張を抑え込み、思い切って扉を開けた。
「殿下っ!」
私の顔を見るなり、彼女は駆け寄ってきた。
その瞳には涙が滲み、苦痛をこらえるようにして、こちらを見つめている。
「殿下、今回のことは全てわたしのせいですのね……?」
美しい空色の瞳からこぼれ落ちた涙が、白い頬を伝う。
柔らかく波打つ真珠色の髪は、光の加減でピンク色にきらめいて、天使のような美しさだ。
この繊細そうな少女に、冷たい現実を突きつけなければいけない。そう思うと、重苦しい気分になり、顔が歪む。
だが、私の表情の意味に彼女は気がつかない。
「わたしの為に、王太子の地位を……っ!」
うつむいた彼女は顔を覆い、泣き崩れる。
その姿に罪悪感と憐憫と、もっと苦々しい感情が込み上げるが、それらの感情を飲み込み、口を開いた。
「……貴方のためではない」
「でもっ……」
私は歯を食いしばるようにして、続ける。
「この決定は、私が不義理を働いたカティナベルの意志を尊重し、彼女のために考えた決定だ」
ルルリアナの嗚咽が止まり、戸惑ったような顔が私を見上げた。
カティナベルは現在の立場を維持したまま、私と婚約破棄ができると聞いて、たいそう喜んだらしい。そう、苦笑とともに伝えると、ルルリアナはどう反応すればいいのか分からない、といった様子で不安そうに私の表情を窺っている。
「……私が貴方のために、その地位を退いたわけではない。また、貴方を選んだせいで国王陛下に取り上げられたわけでもない」
私は視線をそらすことなく、彼女に告げる。
言葉を続けるうちに、彼女の顔がみるみると強張っていく。
「国王陛下は……」
そこまで言って、私は口を閉じた。
――すべての責任を国王陛下に押し付けるような言い方は卑怯だ。
彼女に間違った希望を抱かせないように。
責任を国王陛下になすりつけないように。
私はそんな理由で、より、彼女を傷つけるであろう言い方を選ぶ。
「私は貴方に、別れを告げに来たんだ」




