婚約者への対応
結果だけ言えば、陛下との謁見は上手く行った。
陛下は「異世界」と「魂に干渉する魔術」を知っていたのだ。
国王とその腹心だけが利用できる禁書庫があり、そこにその知識が残されていたらしい。
人は一度でも「できた」と知っていることは、必ず「できる」と確信し、再現してしまう生き物だ。
だから、すべきではない事は、「できた」という事実を隠さなければならない。
古からのそれらの知識は厳重に管理され、国難に立ち向かう時に備え、在り処の秘された禁書庫に眠っているそうだ。
そんな訳で、国王と腹心の部下たちと尋問のような質疑応答を行い、私がフィルメリア殿下ではない、と納得していただけた。
このことは後日、禁書庫に新たな記録として残されることになるだろう。
そして、数日後。
私は王太子ではなくなり、カティナベルは王太子となった弟の婚約者となった。
謁見の際、私がカティナベルの希望を汲んでほしいと懇願したこともあり、彼女が選んだ方が王太子になることが決まったのだ。
国王陛下は謁見の際に居合わせた騎士の一人に、カティナベルと内々の話をさせ、希望を聞き出させた。その報告を聞いた後、彼女の父親である公爵に話を通したらしい。
そうして、私は元婚約者とは顔を合わせることもなくけじめをつけた。
本当は後日、謝罪に行きたかったのだが、騎士から「フィルメリア殿下の顔、そして声はしばらく、十数年は見たくも、聞きたくもない」との彼女の伝言を、うやうやしく頭を下げて報告されて断念した。
彼女には私のことを隠したままにすると決まっていたので、仕方がない。
私は代わりに公爵宛に謝罪の手紙をしたためた。中には、封をしていない彼女あての謝罪も添えた。これで、もし、彼女の気が向けば謝罪を伝えることができるはずだ。
それでも、今後も私はフィルメリアとして、彼女に頭が上がらないままだろう。
よく考えれば、自分を憎んでいるかもしれない女性が未来の王妃になるのか……。
彼女が自身の好悪で理不尽なことをするとは思えないが、なんとも不安な響きだな。
だが、これで彼女に対して、現状での最善を尽くせたはずだ。
あとは浮気相手の男爵令嬢、ルルリアナだけだ。
私は緊張から、深く息をついた。




