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最終話 変態の時

 失敗した。


 水にもぐったまま気を失い、窒息死を試みたのだが、すでに不死の存在になっているらしかった。


 他の方法も試した。それが世界のためだと思った。


 だめだ。


 何をやっても、何度やっても、よみがえってしまう。


 そして、もしかしたらこの自害未遂が、大魔王化を加速させてしまったのかもしれない。


 身体の形状が変わってしまった。巨大な黒くて細い脚が生えてきて、背中からは、これまた巨大な透明な蟲の翅が伸びてきた。両手と顔だけが、もとの人間のままなのが、また気色の悪さを加速させる。


 さっき、私がこうなった元凶の一人であるシエリーが、持ち前の探検心を発揮して、この地底の泉にやって来た。私に会いに来たようだ。


 こんなひどい姿になってしまった私に……。


 ――ここに来ては危ない。

 ――こんな姿を見ないでくれ。

 ――どうか元気でいてくれ。


 そんな言葉を発することさえ、もうできなくなっていた。


 てっきり謝罪にでも来たのかと思ったのだが、シエリーは、「かあっこいい!」と目をキラキラに輝かせてくれた。


 最後に喜んでもらえて嬉しいけどな、シエリー。そんな普通じゃない悪趣味なセンスしてたら、君の将来が心配だ。


 普通は気持ち悪くなって嘔吐したりする見た目だろうに。


 エリザマリー様の側近がやってきて、シエリーを連れ帰ると、また私を責めるような静寂が訪れた。


 だんだんと、頭がぼんやりとする時間が長くなってきた。


 潮時なんて、とうに過ぎてしまった。猶予はないのだなと感じる。


  ★


 私は間に合わなかったようだ。


 どこかで間違えてしまったのだろう。


 手は尽くした。考え尽くした末に、やれることを全てやった。いや、それこそが私の最悪の過ちだったのかもしれないが……。


 こんなはずではなかった。


 私があまりに力不足なばかりに、世界を平和にできなかった。


 それどころか、新たな憂いとなって、エリザマリー様、君の目の前を塞ぎかねない状況だ。


 本当に、申し訳ない。


 手遅れだ。


 こうなってしまった以上、私を違う世界にでも遠ざけてほしい。


 あるいは、もっともっと深く掘り進めるほうが手軽かもしれない。ネオジュークの地下に広がる穴よりもずっと深く。絶対に溶けることのない分厚い氷牢の中にでも封印してくれてもいい。


 いや、おそらく、それが一番だな。私が氷に封じられ続けることで、魔王たちとの戦いは永遠に終わらず、君が世界を変えるだけの時間を稼ぐことができる。


 君の役に立つことができる。


 そんな大魔法を超越するような氷の魔法なんて、あのエルフ様にも無理だろうが、きっとどこかにいるだろう。私を永久的に凍結させられるほどの、おそろしく強い魔法使いが。


 探してくれ。一刻も早く、私の前に連れてきてくれ。


 これが最初で最後の、一生のお願いだ。


 優しい君の夢を邪魔することだけは、したくないんだ。




【終わり】


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