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第50話:告白

 花園芽亜里に呼出されて刑事2人は病院近くの公園まで来ていた。そこで、彼女から衝撃の告白をされた。



「私が『文豪』です」



 しばらく空気が凍りつき、時間が止まったかのようになった。


「いや、嘘でしょ……だって手足を……」


 海苔巻あやめはそこまで言いかけて、理解する部分もあった。そのため彼女は自分の身の上話から始めたのだろう。


 思いついたことから口にしていると考えていたが、思いの外話の順番は組み立てられていた。


「1件目の首吊りは……シロちゃんのお父さんの首吊り自殺は本当に自殺だったから、警察は殺人だと思うはずがなかったんです」

「だからって……」


 連続殺人の動機にはならない。


「シロちゃんは一人になっちゃって……。お父さんが自殺だと保険金がおりないみたいで……」

「それで、なんできみが両腕両足を切断されないといけないんだ!?」


 まるで全ては金のためにやったみたいな……。


 話がまるでつながらない。飯島は怒鳴らないまでも声のトーンを上げて訊いた。花園芽亜里はその空気にびくっと身をすくめた。そうなのだ、彼女もDVの被害者。相手の怒りの感情や強い勢いに弱い。


「DVは……絶対だめなんです。親が子に暴力を振るう……子どもの心は擦り減って行くんです。私の父は外では人当たりも良くてそんな人が暴力を振るうなんて人は思わないんです。人には必ず裏の顔があって、DVが収まることはないんです」


 近所で外にまで響く声でも聞こえない限り隣の家でDVがあっても周囲はそれに気づくことはない。全ては家庭という閉鎖された空間で行われる犯罪だから。


「たくさんの子どもの件で、児童相談所とかに行っても動いてもらえないし、法律相談は話したらもう時間になっちゃう。警察に言っても証拠がないとダメって言われました。見えないところを殴られるから本当は見せたくないけど……。他の子の代表だと思って殴られたアザを見せても今度は父がやったか分からない、と」


 涙を浮かべて話す彼女が嘘をついているなんて誰も思わない。ただ、それは刑事2人が彼女に感情移入しているからだろうか。


「家の中でいつ殴られるのか分からないのに、父に殴られている証拠を出さないと被害者は助けてもらえない。それでもやっと警察が動いてくれたと思ったら、不起訴ですぐに戻ってくるんです。だから、DVは止まらないんです。それどころか、報復でもっと悪くなって……。だから、良い人そうで実は悪いことをしている人が一番悪いと私は思ってます」


 実際にあるDVを証明するのは難しい。動画でも録ればいいのかもしれないが、それが見つかると余計に暴力を振るわれるのは想像に難くない。


「DV親の暴力は実際にはあっても、存在しないのと同じに扱われます。たとえ警察が捕まえも不起訴になってすぐ帰ってきます。家庭内の犯罪は見てみぬふりをする国なんです」 


 飯島はなんとも言えなかった。DVに関しては家庭内のことなので、基本的に警察は介入できない。かと言って、どうぞやってくれとは思っていない。


 ここで花園芽亜里が持論を展開し始める。


「じゃあ、家庭内で警察が見つけられない方法で殺したら、それは悪ですか!? 私を悪として逮捕してくれますか!? 動機はDVだと記録してくれますか!? 全国の子どもたちのDVの話を聞いてくれますか!?」

「おっ、おい……」


 目の前に立っている飯島に畳み掛けるように言う彼女は本当に必死だった。彼女はそれを考えているだけ時点で話しを聞いてあげられたら、彼女はこんな犯行に手を染めなかったのかもしれない。


「それでも、手足の切断まですることなかったんじゃないのか……?」

「被害者になれるじゃないですか。絶対的な被害者に」


 最初からそこまで計画していたということか。


「私が被害者になって同情を集めてたくさん募金してもらう計画を立てました。そしたら、インターネットの人気掲示板やSNSなんかを使って同情が向くようにして、自分で企画したらダメって言われました。あくまで自然発生的に人が募金したくなるようにって」


 人のやさしや親切心まで利用した考えなんて、これまでの彼女とは少し違う強かさだった。


「先入観も利用しました。私は障害者になって、障害者は犯罪なんてしないだろうって思わせました。こんな女子高校生は殺人なんてしないだろうって」


 飯島も海苔巻あやめも違和感を感じていた。


「なんでそんなにお金が必要なんだ?」

「……たくさんのお金を集めて、みんなで海外の南の島で贅沢をして暮らすんです」


 人の心を操るようなことまで言った彼女にしてはあまりにチープな夢じゃないか? あの計画に対して動機として言ってることが稚拙すぎる。2人とも花園芽亜里が嘘をついていると思った。


「ちょ、ちょっといいかな」


 飯島は一旦彼女から離れ、海苔巻あやめと話すことにした。自分の考えが間違っていないかの確認でもあった。


「残念だが、彼女は確実に逮捕される。殺人か、殺人ほう助だ。マスコミが騒ぐ事件は有罪になりやすい。皮肉な話だかな……彼女が言うみたいにステルス殺人はマスコミで騒がれないと逮捕できないって……まさのその通りだ」

「たしかに、ATPは見逃されてるっす」


 彼女の言ってることは犯罪だが、目の前で多くの理不尽を見てきたのだ。そのくらい曲解してもおかしくない。そして、自らを犠牲にして子どもたちを守ろうとしているかのようにも思えた。


「それでも、全国の潜在的DV被害の子どもたちの捜査はされないだろうな。費用の問題もあるし、人手の問題もある。各家庭のプライバシーの問題もある。俺たちにできる事ってなんだろうな……」

「フリースクールの子どもたちが関係してるってことすけど、みんな大人顔負けに優秀っした。子供だしなんでもできるわけじゃないす。でも、これらを組み合わせたら……?」


 海苔巻あやめが予てから推理した話を始めた。


「刑事さん。お話の続きは少し歩きながらでいいですか?」


 急に話をさえぎるように花園芽亜里は言った。


「あ、ああ……」


 どうせ彼女は走れない。逃走の可能性などないのだ。


 彼女は歩道を歩いていく。ゆっくりゆっくり。でも確実に。


「歩きながら、犯行を自供します。真実を洗いざらい全部話したら逮捕してください」

「……」


 実に答えにくい申し出だった。まだ全貌を聞いていないのだから。彼女が犯人ではない可能性だってまだ残っている訳だから。

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