第19話:「文豪」の犯人像
警察)
「その後、ドローンボムのことでなにか分かりましたか?」
ベテラン刑事飯島と新人刑事海苔巻あやめは、先日のドローンボム事件の件で再び科捜研を訪れていた。ドローンボム事件については衝撃的な事件であることから人々の関心が高く、ネットやテレビでの話題にもなっていた。
そのため、いつも以上に犯人逮捕が求められ、少しでもホシにつながる情報が必要だった。
一部のドローンは被害者の宇崎義郎に接触した状態で爆発したが、他の残りのドローンも全て爆発したため、科学捜査班は残された部品から自動追尾機能付きの市販品のドローンであることを突き止めた。ドローンの中にはカメラが内蔵しており、被写体を自動追尾する機能があるものも存在する。それを改造したものであろうという考察だった。
「被害者の宇崎の方はなにか分かりましたか?」
ベテラン刑事飯島が科捜研の沢口にイケボで訊ねた。
「爆発物はプラスティック爆弾の様な専門的なものではなく。黒色火薬をパイプに詰め込んだもののようです。ただ……」
沢口は目線を少し下に落とした。なにか思い当たるところがあるのだろう。
「どうしたんですか?」
「素人に見せかけたプロの仕業ではないかと……」
「どうしてですか?」
「通常、黒色火薬は花火などにも使われていますが、スーパーやホームセンターで売られているようにそう簡単に爆発するもんじゃありません」
たしかにそうだ。ニトログリセリンの様に衝撃を与えたら爆発する様な物がスーパーの店頭に並んだら大変だ。子どもなどが間違えて触って爆発などしたらシャレにならない。
「黒色火薬を爆発させるためには、強く固める必要があります。その上で発火しやすい別の火薬などを信管として準備する必要があります。身の回りの物であんな爆発を起こすのは素人には難しいのです」
「なるほど……」
彼女の言うとおりだった。しかも、ほんの小規模とはいえ、人体を破壊するほどの威力。プロの知識が必要と考えるのも間違っていないと感じた。
「ただ、素人に見せかける理由は分かりません。爆発も小規模なので、ターゲットのすぐ近くで爆発させる必要があります。今回のドローンは最適で、ドローンの数も狙った場所も確実に被害者を殺すという意図が見えます」
「素人に見せかけたプロ……かぁ」
飯島の頭の中では2件目の花園芽亜里の手足を切断した犯人像が浮かんでいた。花園芽亜里の主治医によれば、彼女の手足を切断したのはプロの外科医、それもかなり腕がいい外科医とのこと。
「そう言えば、現場から見つかった花。えーっと、なんとかいう……」
「アルストロメリアですね」
沢口はよどみなく答えた。
「和名は百合水仙と言って、球根にツリパリンとツリポシドという有毒な成分があるんですが、子どもや老人には注意が必要ですけど、健康な成人男性が亡くなるような物ではありません。ただ、茎を2本食べただけで亡くなった例もあるみたいなので一応調べましたが、被害者からは検出されませんでした」
「そうですか……」
今回はまだ検死中でご遺体が警察内にある。そのため、後から気づいたことでも検査することは可能だった。気を利かせて事前に調べてくれていたので、毒殺ではないことが確定した。
もっとも、毒殺した後 爆死させる理由はないので、今回に限っては毒は関係ないのだろうと飯島にも理解できた。
***
「医者で爆弾の知識があるやつ……」
科捜研からの帰り、飯島は運転しながらつぶやいた。
「なんですか? それ」
新人刑事海苔巻あやめがガマンしきれず訊いた。
「『文豪』の犯人像だよ。1件目の被害者を首吊りに見せかけるために梁の高さまで大の男を持ち上げる腕力、2件目の花園芽亜里の腕と脚をきれいに切断するプロも驚くほどの外科の手術力、3件目の市販されていない薬剤を注射した専門性、そして、市販の花火の火薬を爆破させたり、市販のドローンを改造する、多分電気とかの知識……そんなやつそうそういないから犯人は絞り込めそうだけどな」
「友達の医者とか勉強勉強だし、たまの休みは当直のバイトだし、爆弾の勉強なんかする余裕のある医者なんているのかなぁ?」
海苔巻が助手席で下唇に人差し指を当てて少し上を見ながら言った。
「なに、お前の友達に医者とかいるの!?」
「そうすね。医学部の人とかみんな医者になっちゃったし、法学部の友達は弁護士事務所に入ったし、最近遊んでくれる人はいないすけどねぇ。あ、私も忙しくて遊ぶ暇ありませんけど……」
「おいおい、お前の友達エリートかよ」
ベテラン刑事飯島は意外そうに驚いた。
「お忘れかも知れませんが、私っていわゆるキャリアすから。友達もそれなりに優秀ですよ」
そうなのだ。警察には現場からの叩き上げの一般の刑事と優秀な大学を出て警察幹部の未来を担うキャリア刑事の2種類がある。一般のノンキャリアが一生の間に巡査、巡査部長、警部補くらいまでしか出世できず引退するのに対して、キャリア官僚はそのノンキャリアの9割の最上である警部補からスタートする。警部補として配属されてから1年2か月後には警部に昇進し、約2年間の警察庁勤務を経て、4年目には警視に昇進することが多い。
「そうだった……お前は俺より役職上じゃないか!」
「私、思ったより現場好きみたいなんす。水谷豊にも憧れます」
「お前、それもドラマだからな!?」
どうも緊張感に欠けるやり取りは続いていた。




