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異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜  作者: 青山喜太


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終わらせぬ

 召喚士カミルによって召喚された、邪神ルジェルーノはカミルが光線に貫かれたと同時に力を失い、地面に倒れる。

 それと同時にアンもカミルと共に地面に落ちた。幸い、アンは魔法の心得があったので、落下のダメージを軽減する魔法を使い、大事には至らなかった。

 しかしカミルの容態は深刻である。動く死人となったカミルの体を動かす、心臓の役割を果たす紫色の宝石は、アレン先生の光線によってむき出しとなり半壊していた。

 横たわるカミルにアンは呼びかける。


「カミル!しっかりして!カミル!」


 アンの呼びかけにカミルは力を振り絞り声を出す。


「アン、ごめんね…私、貴方を1人にさせてしまう…」

「そんな…カミル…」


 悲しみに暮れるアンに2人と1匹の人影が近づく。

 それにカミルが気がつくと、彼女は咄嗟にアンを腕で庇う


「アン、逃げて私が…時間を稼ぐ…」

「カミルもジャンも置いていけないよ!」


 その言葉を聞けただけで、カミルは嬉しかった、だからこそ、ここでアンを死なせるわけにはいかなかった。

 カミルは、無理矢理自分自身の体を立たせると、止めようとするアンを振り切り、敵に立ち向かっていった。

 狙うはエイダ・マカロ、エイダさえつれていってしまえばこの戦いは終わる。

 それはただの悪足掻きにしか過ぎなかった、だがそれでもカミルはただ、再び死人に戻るのを待つというのはできなかった。せめて最後の一瞬まで、アンの為に戦いたい、それがカミルの願いであった。

 カミルはなけなしの魔力を振り絞る


 ――邪神ルジェルーノはまだ消えてはいないわ!


 ルジェルーノは徐々に光の粒子となって消えかかっている、上半身を起こし、口に巻かれた光の鎖を噛みちぎった。

 まだ戦う気があると判断した、ドンキホーテは腰に下げていた銃を構え、アレン先生はエイダを庇う、

 まさにルジェルーノの断末魔の叫びが発せられると思ったその時、火薬の弾ける音がした。


「ぐっ…うう…」


 カミルの胸の宝石はドンキホーテの大口径の拳銃から発せられた弾丸に貫かれ粉々に砕け散った。


「カミル!!!」


 アンが泣きながら駆け寄る、しかしカミルはもう返事はしない、ルジェルーノは再び背を大地につけた。

 ドンキホーテが近づきアンを諭す。


「もう終わりだぜ…ネクロマンサー」


 ドンキホーテの発する言葉には若干の哀しみが混じっていた。泣き崩れる少女を前にしてドンキホーテは全てを察したのだ。それはエイダも同じだった


「ドンキホーテ…」


 エイダは心配そうにドンキホーテに聞く。


「ああ、もう剣はしまうさ…」


 その言葉を聞くとエイダはすこしだけホッとした、もう戦う必要はない、この光景を見てエイダはそう思っていた。ドンキホーテも同様だ。

 アレン先生を除いては。

 アンが何かを呟く。


「…さない…」

「まて!離れるのじゃ!ドンキホーテ、エイダ!」


 アレン先生だけは何かを感じていた、それは魔力の微妙な流れか、それとも歴戦の勘からかアレン先生自身にもよくわかっていなかった。

 しかしアレン先生は言葉にできないほどの何か、近しい例で例えるなら執念のようなものを少女から確かに感じていたのだ。

 アンの体に赤黒い光がまとわりつく、すると突如として、先ほどまでに虫の息の筈だったルジェルーノが起き上がり、叫び声を上げた。

 音の衝撃波がエイダ達を襲う。まさか倒した筈のクラゲの化け物が再び、立ち上がるとは誰もが思わなかったろう、3人は吹き飛ばされていた。


「きゃあ!」


 先ほどまでの衝撃波とは幾分か威力は劣っていたがしかし、人を彼方まで吹き飛ばすほどの威力は持っていた。

 そのせいでエイダは独り、孤立してしまう。吹き飛ばされたエイダは、衝撃波により散らされた花畑の上に着地する。

 咳をしながら、エイダは顔を上げた、随分とドンキホーテ達から離されてしまった、咄嗟にこの事態を引き起こしたであろう張本人を探し出す。

 するとその本人である、アンは真っ直ぐとこちらに向かってきていた、エイダは慌てて立ち上がり、魔法を詠唱し、火球を掌に生成した。


「それ以上、近づかないで!魔法を撃たせないで!」


 しかしエイダの必死の懇願もアンには届かない、アンはそのまま歩みを続ける。その間にもエイダは魔法を放つそぶりを見せつけるも、人を傷つける度胸が未だに備わっていなかった。

 そのため、掌の火球をアンに向けたまま、ただアンを脅すだけに終わってしまう。火球の弾を向けられている当の本人は、エイダには撃つ勇気がないと見越して脅しを無視して歩きづつけている。

 そしてついに、アンはエイダの5歩先ほどのところにまできていた。


「撃ちたければ撃ってみなさい、あなたにはそれができるかしら?」


 その言葉を聞いたエイダは叫びながらついに火球を放つ、しかしその火球はアンの真横を通り過ぎていった。

 火球はアンの背後の地面に着弾し、爆発した間違えなく当たっていたら、アンはひとたまりもなかったであろう。


 ――無理だ、私は人を傷つけられないでも、だったら!


 エイダは咄嗟に考えを切り替え、捕縛の魔法に切り替える。


「光の鎖よ!」


 そう叫ぶと光の鎖がアンの体を搦めとる。


「そう、これがあなたのやり方ってわけねエイダ、でもそれじゃあ甘すぎるわ」


 アンはその鎖を、力だけで破り去った。魔法の詠唱などは微塵もしていなかった、その事実にエイダは気がつき驚愕する。


「そんな!」

「今の私はそんな覚悟じゃ止められないわ…ルジェルーノ!」


 そう叫ぶといつのまにか空中に浮遊していた邪神ルジェルーノは叫び声を上げる、それは再び一方向に収束された衝撃波となりエイダを襲った、エイダは咄嗟に魔法障壁で防御するも、踏ん張りきれず再び吹き飛ばされてしまう。

 そんなエイダを横目にアンはルジェルーノに指示を出した、するとルジェルーノは何かを花畑で見つけそれを地面ごと抉ってアンの元に持ってきた。

 エイダは再び立ち上がりアンを探す。するとアンはエイダの見覚えのある鎌を携えていた。


「それは…!」


 柄が砕けちょうど身長の低いアンでも使いやすい長さになっていたそれは、ジャンの持っていた大鎌であった。

 アンの左腕に透明な骸骨の腕がまとわりつく。


「ジャン、カミル、力を貸して」


 そう呟きながらアンは鎌を構えた。

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