偽りの歴史
「コルナが反旗を?なぜだ?」
ドンキホーテが疑問を投げかけた。
「理由は私にも分からん。何せ2000年前のことだ。だが反旗を翻したのは事実。当時のソール国王は焦っただろう、何せ勇者が国に楯突くとは思わなかっただろうからな。それに…当時の国王はこうも思った。「もしかしたら民は我々にではなく勇者を支持するかもしれない」と、当然だなにせ魔王を、世界を救った勇者なのだからな。求心力もそれなりにあるだろう。」
「だから偽の勇者を作り上げた?」
ドンキホーテの推理は当たっていた。ライジェル王が頷く。
「コルナの謀反が知れたのは、コルナの名声が各地に広がる前だった。だから国は偽の勇者の情報を作り上げ流したんだ。幸い当時の記録によると魔王を討伐せんとする若者はたくさんいたらしい。だから事実を捻じ曲げるのも楽だった。そして秘密裏にコルナは暗殺されたと言うわけさ。だがここで誤算があった。コルナの活躍を知るものがいた。カルエの村の人々だカルエの人々は魔王の侵略を受けても得意の結界魔法でやり過ごしていた、唯一ともいってもいい、魔王の災禍を逃れた村だった。コルナ達は魔王討伐前、そのカルエの村に寄っていた。その時に魔王の魔物により襲われていたカルエの村を助けたそうだ。そして魔王討伐後もコルナがそこに訪れ、真実の歴史を話したそうだ。」
「そして魔王討伐後100年もの間その真実の歴史を守ってきたのじゃな。」
アレン先生が言う。
「ああ、その通りだ、アレン殿、しかしカルエの村は閉鎖的な村でその真実が広まることはなかった。もっとも広まったとしても誰も信じなかったろう。だが当時のソール国の王はそうは思わなかったらしい。カルエ村を危険分子として村人を全員殺してしまった。わざわざそれ専用の組織をつくってな。」
ライジェルは目を伏せ、ため息をつきながら話し始める。
「歴史の騎士団という過激な組織だ。ソール国の暗部だな。このカルエ全滅の事件以降、歴史の騎士団は王の命令でソール国の国益を害するものを、主に歴史関係のものを焼くようになったのさ。おそらくメルジーナ殿を襲ったのも歴史の騎士団だろう。」
「おい、待ってくれその説明だと、歴史の騎士団がメルジーナ先生に危害を加えたのはライジェル王が命令したからっていってるようなもんだぜ。」
ドンキホーテがそう聞いた。顔には少々困惑の色が見える。ライジェル王は「落ち着けドンキホーテ」と言う。
「もはや歴史の騎士団は私の管轄にはない、グレン卿とともに失踪した。恐らくグレン卿と一緒に活動しているんだろう。いや確定で行動しているなぜなら脅迫が来たからな。」
「その脅迫とはなんですか?王?」
マリデの問いにライジェル王は答えた。
「もしグレン卿を追えば、ソール国の秘密を国外に暴露する、とな手紙が来たんだ、私のところに。」
ソール国の秘密、恐らくは勇者の伝説の件だろう。その秘密が国外に明かされれば少なくとも領土問題に発展しかねない。ライジェル王ため息をついた。
「なるほど、秘密を持っているというのはいってみれば切り札を持っているようなもの。だから同じ秘密を持っているメルジーナ先生が邪魔だったのか。メルジーナ先生が本として先に秘密を暴露してしまえば、王にすぐ捜索隊を出されると思ったのだね。」
マリデはそう推測する。ライジェル王は「多分、その通りだ」と言い、さらに話を続けた。
「だからこそ、君たちにお願いしたい。グレン卿は明らかになにかを企んでいる。できれば秘密裏にグレン卿を止めて欲しい。どうか頼む君たちにしか頼めないのだ。」
一国の王はそう懇願した。マリデは答える。
「元からそのつもりですよ、任せてください。どのみちグレン卿には我々も会いたかった。」
エイダ達は再び屈強な兵士に連れられ王城の門をくぐる、今度は内から外に向かって。エイダは緊張から解放されてふぅと息を吐く。
(私なにも、喋れなかった)
一国の王に会うということがここまで、精神に負担のかかるものだとは思わなかった。とエイダはつくづく思う、ドンキホーテ達がもしいなかったらここまでスムーズに話は進んでいなかったろう。
「どうしたよ?エイダ浮かねー顔だぜ。」
ドンキホーテが察して聞く。
「王様と会うのがあんなに緊張するなんて思わなくって。」
それを聞くとドンキホーテは、ダハハと笑う。
「そうか、そうかあいつ気品がすげーもんな」
王様をあいつ呼ばわりするとはよほど親しい間柄なのだろう。ドンキホーテぐらいの仲になりたいとは思わないが。少なくともこの王の前でも気後れしないこの態度は見習いたいとエイダは思った。
「さてと、ところでこれからどうする。ボス。」
歩きながらドンキホーテはマリデに話しかける。
「そうだねぇ、とりあえずご飯でも食べに行こうか。」
それを聞くとドンキホーテは喜ぶ。
「だったら久しぶりにおやっさんの店行こうぜ!アレン先生もいいよな!」
アレン先生は「ワシはなんでもいい」あくびをしながら言った。
「エイダもこの街に来るのは初めてだろ。いいレストランがあるんだこれが!」
エイダはその熱量に押されて思わず「わかった行く、行くよ」と言ってしまう。
「じゃあ決まりだな行こうぜ!レストラン、「エポロの台所」へ!」




