勇者
「い、いまなんて言ったの?」
メルジーナ先生は、ぎこちなく聞く。その表情は混乱と驚きに染まっているものの、僅かな喜びの感情が読み取れた。
「そ、その…私、神の使者かもしれないんです。」
エイダは言い直す。メルジーナ先生は座っていた椅子を倒しながら、立ち上がる。すると一心不乱に、なにかを探しはじめた。
しばらくの間メルジーナ先生は本の山や紙切れを退けると、1つの鞄を見つけ出した。鞄の中身を掻き分けボロボロの手記を2つ出す。
「あ、あの、これ!私の祖父の日記なの!これ読める?!」
少しだけ焼け焦げたその本は、おそらく例の火事から免れたものなのだろう。エイダがその本を受け取ると、メルジーナは「こ、ここ!」と興奮している様子で、あるページを開く。そこにはソール国の言葉とは違う、別の国の言葉が記されていた。
しかし別の国の言葉と言ってもその文字をドンキホーテとアレン先生も見てみたのだが、どうにも見覚えのない文字であった。ドンキホーテは首を傾げ、この異国の文字であろうモノを必死に今までの知識に当てはめて考えてみるもなにも思いつかない。
「なんだ、この文字は?どこの国の言葉なんだ?」
アレン先生もまた、魔術師としての知識を持ってこの言葉が実は、魔術的な意味が込められているのではないかとか、そのような可能性も考え、その文字を睨み続けていたが、ついに根をあげた。
「ワシにも分からん、これでも長生きしておるつもりじゃがこんな文字見たことないわい。」
だが
「あの、私読めるんですけど…」
ただ一人この文字を読める者がいた。エイダ・マカロだ。その丸みがあったり角ばっていたりする、ただの記号にしか見えないモノをエイダだけが文字として文として、読めるというのだ。
「まじか!エイダ!」
ドンキホーテは目を丸くする。アレン先生も驚きが隠せない。メルジーナ先生に至っては興奮して人間が発せられるとは思えないような喜びの雄叫びを発していた。
「やっぱり読めるのね!!!!あなたはおじいちゃんとおんなじ!!やっぱり神の使者だわ!!」
「え、メルジーナ先生のおじいさんが!?」
若干、メルジーナ先生の興奮の仕方にたじろぎながらも、その衝撃の事実を聞き逃しはしなかった。
「ええ、そうよ!私が神の使者について書こうと思ったきっかけなの!おじいちゃんは!それでなんて書いてあるの?!」
「その、今日の食事が美味しいかったとか。ニホンが恋しいとか、書いてあります。」
他にもエイダはメルジーナ先生に、日記のことを伝え続けた。多くは日々のたわいも無い話を書いたモノだったが。たまに出てくるニホンと呼ばれるおそらく国のことが書き記されており。それをメルジーナ先生は食い入るようにメモをしていた。
しばらくすると一冊の日記は全部読み終わった。たしかに興味深い内容ではあったが。神の使者について書かれていることはなく、エイダ達の目的に合った書物では無いようであった。メルジーナ先生は満足げに息を吐き出し、感謝の言葉を口にした。
「いやぁ、ありがとうね!かなり有意義な時間だったわ!それでもう一冊も…」
「お願い」と続く前に、エイダ達は本来の目的を思い出す。そういえば全然、神の使者についてメルジーナ先生の神の使者についての知識について聞けていない。エイダは焦ってメルジーナ先生に訳を話した。
「あ、あの!その前にメルジーナ先生に会いに来たのは神の使者についてのお話を聞きに来たからなんです!どうか、メルジーナ先生の知識を貸してくれませんか!」
メルジーナ先生はそれを聞くと得意げそうな顔をする。まるで秘策があるかのようなその顔に、エイダは不思議がった。なぜそこまで自信がたっぷりとあるのだろか。
「ふふ、それなら安心してこれから見せる本はね?私のおじいちゃんが神の使者についてまとめた本なの。でも私には読めない、さっきの日記に書かれた文字とおんなじ文字を使っているから。」
「神の使者についてまとめた本、ですかこれが…」
エイダはその本を手に取る。ドンキホーテとアレン先生は固唾を飲み、エイダによって読まれることを待っていた。メルジーナ先生は説明を続ける。
「おじいちゃんは神の使者のことを転生者って言ってたわ、周りの人はおじいちゃんの話を信じてくれなくて、信じたのは私だけだったの。そしたらね、おじいちゃんが亡くなる間際にこの本を譲ってくれたの。いつかこの本を読める人に渡せって…だからあなたに読んでもらうのは悲願だったのよ!私にとってもおじいちゃんにとっても!さあ読んでみて!」
エイダは頷くと言われるがままに本を声に出して読み始める。
この本を読む転生者へ
この本には我々転生者が知らなければならない。真実が記されている。
それは我々転生者が背負わなければならないモノなのだ。
では単刀直入に書こう。
この世界に、勇者などいなかった。
その書いてある言葉に誰もが息を飲んだ。




