芸術家達の隠れ家
火をつけられた。その言葉の意味はつまり。
「メルジーナ先生を殺したかったやつがいるっていうことか?」
そうドンキホーテは推理した。アロクは頷く。
「その通りだ。実際、私たちが調べてみたところ、放火の可能性が高いことがわかった。しかし…夜警隊や消防隊はただの火の不始末という形でこの事件を処理した。」
「だから俺たちが、代わりにメルジーナ先生を殺そうとしたやつらを逆に始末してやろうとしたのさ。」
アロクの説明を長髪の男、ジンが引き継いだ。アロクはため息をつく。
「しかし、なかなか犯人が見つからなくてな。そこでどうやらメルジーナ先生のレンス社を探して何やら嗅ぎ回っている奴らがいると知ってな。」
たしかにエイダ達はレンス社を訪ねる前、場所が分からず人伝に聞き回っていたの思い出した。しかしそれにしても手が早い。
「しかしなぜここまで早くワシらのことがわかったんじゃ?」
アレン先生の疑問にアロクはすぐに答える。
「簡単なこと、君たちが聞き回っていた住人の中に私たちの仲間、つまり守り手がいたのさ。情報がなく藁をも掴む思いだった私達は君たちを一応、尾行しどういう人物か見極めようとした。」
「だがそれはうまくいかなかった。俺がお前らのことをすぐに気がついちまったからな。それで焦っちまったのか。」
ドンキホーテがそう付け足した。襲った等の本人である。ジンもまた言い訳を話す
「俺は最初から犯人だと踏んでた、今の時期レンス社の場所を調べて何をするかなんて決まってる。レンス社を燃やすんだ。だから見逃したらやばいと焦ったんだ。」
まさかそんな風に疑われていたのかとエイダは聞いて驚く。
「燃やす?なんでですか!?」
ジンのその顔に嫌悪の色が現れる。それはどうやらエイダに対してではなくこれから話す内容に対してのようだ。ジンにとってこれから話す内容はそのような感情なしでは語れないものなのだろう。
「メルジーナ先生を、普通に殺すだけなら、火なんて使わなくていいだろう。こんな人目につく殺し方は普通ならしない。では何がしたくてこんな、殺し方をしたのか。わかるか?」
エイダは首を振る。ジンは話を続ける。声に怒りの感情が少し混じっているように感じる。
「本や、資料を焼きたかったのさ、恐らく犯人とって都合の悪いことが書かれていたか、そもそもメルジーナ先生の成功が気に食わなかったのか、分からんが。そして次に狙うとしたらレンス出版社だ。先生の原稿がある可能性があるからな。いや恐らく発表前の本屋に並ぶ前の原稿があるはずなんだ。」
ジンはそう語った。
「なるほどお前はそれを守りたかったんだな。ひとりのメルジーナ先生のファンとして俺はお前を尊敬するぜ。」
ドンキホーテは先ほど殺しあったことも忘れて握手を求めた。ジンはそれに応じる。
「ああ、先程はすまなかった。俺もつい熱くなってしまった。俺ももうお前達を犯人だとは思わん。メルジーナ先生の新刊を買うようなやつが、メルジーナ先生の家を燃やすわけがない。」
(それで信じるんじゃな)
アレン先生は半ば呆れながら、そう思った。アロクは握手をし合う二人を見て、わざとらしく咳をする。
「ところで、提案なのだが。私達はここまでに君たちに対して失礼をしてしまった。そのお詫びとして君たちを「ドーム」に招待したい。そこでメルジーナ先生に、合わせてあげよう。」
「ホントですか!」
エイダは喜ぶ、もう手立てがないと思っていた。神の使者の手がかりがこれで見つかったのだ。嬉しい気持ちはドンキホーテも、アレン先生もエイダと同じ気持ちだ。
「そうしてもらえると助かるのところでそのドームとやらはどこにあるんじゃ?場所によっては旅の支度を…」
アレン先生の心配をアロクは察し、こう言った。
「その心配はない、旅の支度など必要はない。」
そういうとアロクは懐からドアノブを取り出し、適当な壁につけた。側から見れば遊んでいるようにしか見えない。だがドアノブをつけた次の瞬間、壁に設置されたドアノブの中心に黒い煙のようなものが広がった。その煙はやがて固形化し、1つのドアへと変形していった。
「さあ入ってくれ。」
ドアをアロクが開ける。
「すごい…」
エイダはそう呟きながら促されるまま入っていった。ドアをエイダ達が抜けるとそこには、一面の闇が広がる謎の空間に出た。ここはどこかの地下のような印象を、受けるが、少し辺りを見回すとその一面の暗闇の中に巨大な陽だまりがあることに気がついた。街1つ分もあろうかというその陽だまりの中には多くの家が建っており、人々の気配がしていた。
「ではついてきてくれ。」
アロクはランプに火を灯し、エイダ達を連れて移動していった。そして例の陽だまりの街に着くとこういった。
「ようこそ芸術家達の隠れ家へ」
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