夢の終わり

　 エイダの実戦訓練はこれで終わった。見事ドンキホーテに魔法を当てることに成功したのだ。アレン先生が方から話しかける

「よくやったのエイダ。もう少しかかるかと思ったがまさか今日で終わるとはな。」

　アレン先生はエイダの肩から降り草原に座りながら話を続けた。

「これで基本は終わりじゃ、さて…ドンキホーテ大丈夫かー！？」

　ドンキホーテはエイダの魔法にあたり吹き飛ばされていたが、大丈夫だとでも言いたげに寝ながら、腕を上げていた。

「よし、これでワシらが教えられる基本的なことは全て教えた。」

「じゃあ…！」

「そうじゃな、ワシからしてみれば旅に出てもいいと思うじゃが。」

　 アレン先生はマリデの方に目を向ける。

「どうじゃマリデこれでも満足せんか？」

　 マリデはそれでもまだ悩んでいる様子を見せた。まさかここまでエイダの成長が早いとはマリデ自身予想外だったのである。このままエイダをドンキホーテたちと共に行かせるべきか、それとも行かせないべきか。悩んだ結果マリデは答えを出した。

「いいよ、エイダの同行を許可する。」

　エイダはその言葉を聞くと小さな声で「やった…」と呟いた。だが「ただし！」とその小さな喜びに水を差すマリデの声が響く。

「無茶はしないこと、大貴族が関わっているんだ。もし手に負えないことになったらすぐに、ここに戻ってくることいいね！」

「わ、わかりました！」

　エイダは、思わずかしこまった返事をしてしまう。

「よしじゃあ夢の世界から出て行くとしよう。君がこれまで培った経験はちゃんと現実に反映される。現実に出たらとりあえず試してみるといい。」

　 青い空が消えて黒に染まっていく、草原も影に覆われ、やがてエイダたちもその闇に染まっていき意識を失っていった。

　 眼が覚めると、ベットの上だった。そうだここは夢の世界に入るために寝たベット上だ。エイダたち全員がそう認識した。すると。

「おはようございます。」

　女性の声がする。声のする方を見ると、ひとりのメイドが立っていた。パイプでタバコをふかしながら。

「相変わらずだね、ジュリさん」

　とその姿を見たマリデが言う

「何か文句が？旦那…様」

「いやないよ」

　ジュリと呼ばれたメイドはパイプから口を放し煙を口から吐き出すと、文句を垂れ始める

「旦那は……旦那様はいつも勝手ですよ、いきなり一日中、眠りこけないでください、旦那…様はともかくお客様のエイダちゃんが心配です。」

「ジュリさん俺らもいるぜ。」

「ああ、まあドンキホーテなら大丈夫でしょ。」

　 エイダは思い出す。そういえばこのメイドは初日にこの屋敷に来た時に案内をしてもらった。メイドだ。

「はぁー挙げ句の果てにこんな昼間に呼び出すし。私の勤務時間は夜なんですけど、吸血鬼使いが荒いのよ、マリデ…旦那様は。」

　もはや敬語自体が崩れかけている。そのメイドにマリデは腰を低くして頼みこむ。

「悪かったね君にはエイダ君の着替えとかを用意してもらいたくてね、頼んでしまったんだ。ちょうど君がエイダ君の担当だったろ？だから勝手を知ってるのが君しかいなかったんだ。君が一番の頼りなんだよ。」

　 エイダの目には主従の関係が逆の様に錯覚してしまった。普通、メイドというのはこんなに主人に対して強気に当たっても良い職種だったろうか。

「そこまで言われたらしょうがないわね。エイダ様、私についてきてください。お着替えと朝食を準備いたします。」

「は、はい！」

　 切り替えが凄まじい、そのメイドにエイダはついていく。部屋までたどり着くとそのメイドはぎこちない敬語で再び話し始める。

「エイダちゃ…様はお食事はなにになさいますか？今のところ二種類ご用意できるのですが…」

　その前に、どうしてもエイダは言っておきたいことがあった。

　 「あの敬語使わなくても私は大丈夫ですよ…」

　その言葉に、メイドのジュリはしばらく、固まっていたが意味を理解すると。顔を綻ばせ放し始める。

「ほんと？！いゃあ〜辛かったのよ夜の勤務にしてくれって言ったのに昼間から働かせられて、あ、エイダちゃんって呼んでいい？」

「は、はい！」

「エイダちゃんごめんなさいね、どうしても昼間はやる気が出ないのよぅ。あんな態度になってごめんなさいね。それもこれもマリデが悪いのよまったく。話もなしに眠ちゃってメイドのみんな大混乱よ！大混乱！あ、ところでお食事なににする？」

　 とりあえずエイダは流されるままに、食事を2種類とも頼んでしまった。肉と魚だ。腹が膨れエイダはしばらく動けなかった。

　エイダが部屋で食休みをしていると不意にノックをされる。

「エイダちゃーん？マリデが呼んでるわよー！」

　どうやらメイドのジュリのようだ、その言葉を聞いたエイダは起き上がり「わかりました」と返事をすると、ジュリに連れられ再びマリデの執務室へと案内された。ドンキホーテとアレン先生もいる。

「やあ、エイダ君の食事は口にあったかな？」

「はい」とエイダは返事をしながら執務室にあるソファにマリデに促されるままに座った。そこでエイダは気づくドンキホーテとアレン先生が何より難しい顔をしていることに。そしてマリデが口を開いた。

「グレン卿が失踪したんだ。」