決意を新たに

「よっしゃ、じゃあ、さっきの動き方を、おさらいするぞ。」

　来る。あれが。

「剣がこうバシュッっと来るだろ？そうしたらだなこう、その剣をカン、コン、カンカン、キンキンキンって感じでだな」

　わからない何も、コンとカンとキンの違いが。エイダは改めて理解する。なるほどある意味、地獄だと。

　 ドンキホーテの意味のわからない口頭の説明ではろくに理解はできない。だからエイダは実際に技を受けて覚えるしかなかったのだ。

　 エイダは夢の世界で投げ飛ばされたり、押さえ込まれたりしている。

　 意味のわからない口頭の説明を受けながら、肉体的な疲労はないものの精神的な疲労は蓄積していたエイダは、ついにマリデに止められたのであった。

「お疲れ、エイダ君、本当に…」

　 エイダは不思議な感覚に包まれていた、肉体的な疲労はないがなぜか怠い、集中力が途切れてきているのだろうか？それとも、キンとかカンとか、意味のわからぬ言葉を聞きすぎたのだろうか。

「疲れた…」

　 思わずエイダは口からそう零した。

「やめるかい？」

　マリデの悪魔のささやきが聞こえる。しかしこの特訓をやらなければ恐らく、エイダが巻き込まれいる事件の調査にはいけないだろう。

「大丈夫です。やります！」

「すごいなぁ、一体何がそこまで君を駆り立てるんだい？もう僕たちに任せてもいいというのに。」

　 マリデは疑問をぶつける。ぶつけられたエイダは悩むそぶりは見せたが直ぐに答える。

「私、自分のこと何も知らないんです。母さんの手紙で色々な事をしれたけど結局、魂のこととか、なんで私達が生み出されたのか、知らないままじゃないですか。それを私は知りたいんです。」

「なぜだい？知らなくても君は生きていける。全てを知らずとも僕たちが君の幸せは保証するよ？大切な弟子の娘だしね。」

「それでも、私は…知らないといけない気がするんです。私が私のことを知らないせいで関係ない人を危険に晒したことがあるんです。」

　エイダの脳裏にはあの観光用飛空挺の事件が思い出される。

「あの時も、私がもっと自分を狙らう組織がどれほど強大なものかわかっていたら防げたんじゃないかって思ってるんです。」

「それはドンキホーテ達や僕たちの責任だよ。君の気にすることじゃない。」

　エイダはマリデを見据える。

「でも、これからも知らないまま、誰かに任せきりでいたらきっと私はそうやって責任を、取ってもらい続けることになるんです。私のせいで誰かが傷つくならせめて、私も戦えるのだから、戦いたいそれだけなんです。」

　それに、とエイダは付け足す。

「もう結界の中に篭るのも飽きてしまいましたから。」

　マリデは笑う。そこでエイダは気がつくマリデは試していたのだと。

「そこまで覚悟があるのなら大丈夫だね。それにそうか君は家でも結界の外に出たことがないのか。」

「はい外出を許されたのは近くの村に買い物に行く時だけくらいでした。」

「それならたしかに再び引きこもれというのも酷な話だね。」

　 マリデは再び笑った。

「あの私も質問いいですか。」

　エイダは笑うマリデを見ながら質問する。

「なんだい？」

「お母さんと師弟関係だったんですよね？お母さんってどんな人ですか？」

　マリデは少しだけ寂しげな顔をした後。話し始めた。

「君のお母さんと、あったのはそうだなもう30年以上前かな？」

　エイダはそれを聞いて、前から気になっていたことを聞いてしまう。

「30年前！？マリデさんは何歳なんですか？！」

　 つまりホムンクルスの実験が始まる前からマリデはエイダの母エイミーの師匠だったということになる。

　 しかしマリデの見た目は30代ぐらいのように見えた。

「まあいいじゃないかそんなこと。」

　 よくはないが、エイダの驚きをよそにマリデは話し始める。

「君のお母さんはとにかく、素晴らしい才能を秘めていてね。教えていて楽しかったよ。だが僕の方がいい先生じゃなかったんだ。」

　 マリデは空を眺め遠くを見ている。青い空はどこまでも広がっていた。

「最後には、喧嘩をして別れてしまったよ。あなたは私のことを評価してくれない、そう言われてしまった。」

「そうなんですか…」

「それ以降のことは君もよく知る通りさ。ただこれだけは言える。彼女は最高の魔法使いだった。なぜなら罪のない命を守ろうとしたのだからね。」

　エイダは頷く。今自分があるのは母のおかげなのだと。

「マリデさん私、お母さんが残した私の兄弟も救ってみせます。母さんが私を助けてくれたように。」

「そうだね。僕も力の限りを尽くそう。」

　エイダは決意を新たにし特訓へと戻っていった。草原でドンキホーテが準備運動をしながらエイダを待っている。エイダはドンキホーテの元に走っていくと。

「ドンキホーテ！続きお願い！」

　と元気よく言った。ドンキホーテは微笑む。

「よっしゃ、じゃあ基礎からいくぜ！」

　修行1日目、まだエイダの特訓は始まったばかりだ。