影
「悪かったよアレン先生、怒るなって」
「ワシをなんだと思っとる!貴様はぁ!」
ドンキホーテはアレン先生に怒られる。アレン先生の怒りは最もだ、彼女の予想では今頃は柔らかく、体を包み込むクッションに座っているはずだったのに、ドンキホーテの咄嗟の機転により馬小屋へぶち込まれたのだから。アレン先生はすっかり拗ねてしまった。
「だからこうやって連れ出しにきたじゃねぇか悪かったよ。わざわざ苦手な高いところまで来てくれたのにごめんな?」
「べ、別に高いところは平気じゃ、まあ反省してるなら許してやろう。」
「先生はじゃあ早速で悪いんだが姿隠しの魔法を使ってくれないか?動物禁止なんだよここ。」
姿隠しの魔法、その名の通り姿を消す魔法だ。
「わかった、良いかワシが姿を消したら、ワシの体にお前も触れろそうすればワシの姿が、お前だけに見えるようになる。」
ドンキホーテは、わかった、と頷く。するとアレン先生の体はみるみる景色に溶けていった。
(この辺か?)
ドンキホーテはアレン先生が消えてたあたりの空間を撫ぜる。すると細長い縄のような、しかし絹のような滑らかななにかの感触を感じた。
「馬鹿者!それは尻尾じゃ!」
「おっと失礼、ごめんな先生。」
触った瞬間、飛空挺内の馬小屋の景色中にアレン先生がぼんやりと浮かび上がる。
「これでいいのかい?俺の目にはちゃんと写ってるけど。」
「心配無用じゃきちんとワシの魔法は作動しておる。」
その証拠にとアレン先生は1番に外に出る。
通りかかる金持ち、ボディガードはまるでアレン先生に気づかない。まるでそこにいないかのように振る舞い歩いている。例えアレン先生を踏みそうになっても、おっと危ない危ない、などと言わずにそのまま踏み潰してしまいそうだ。
「そういえばエイダはどこにおるんじゃ?」
「エイダは客室だ。ってつい会話しちまったがこの声は他の客に聞こえやしねぇのかい?」
「聞こえるぞお前の声だけな。」
(あーテレパシーかよこれ!やるなら早く言ってくれ!恥ずかしいじゃねえか!)
(ちょっとした仕返しじゃあ。)
廊下で醜い争いを繰り広げられているうちにエイダのいる客室へと2人は到着する。
ドンキホーテはあらかじめ決めておいた合図である、特殊なリズムのノックをした。すると扉は開けられ中からエイダが出てきた。
「どう?アレン先生は大丈夫?」
「ああ、元気だったぜ嫌になるくらいな。ああそうだ、エイダ俺の掌を触ってくれないか?」
そうドンキホーテは掌をエイダに見せた。まるで物を持っているかのように。エイダは言われるがまま掌を触ろうとするしかし、なぜかフワリとしたものに邪魔されドンキホーテの掌に手が到達できない。そのまま力ずくで触ろうとする。
「ぐえ、もう十分じゃ!」
すると掌の上にアレン先生が浮き出てきた。
「先生!びっくりした!」
「ふざけてるからだぜ先生。」
そうドンキホーテは戒めた。
客室の中は実に優雅であった。華美なテーブルに華美な椅子。この中にあるすべての家具に華美という言葉がつけられるのではないかと思われるほどの豪華さ。上流階級を相手に商売をしているだけあって内装よ力の入れ具合は凄まじい。
そんな中ドンキホーテ達は3人で1つの客室へと泊まったベットはエイダとアレン先生の分があり、ドンキホーテはソファで寝る目論見だ。何があっても一緒の部屋ならば対応できる。ドンキホーテの考えだ。しかし年相応の女子の部屋にこんな男がいても窮屈だろうとドンキホーテは考え、エイダにアレン先生か自分の同伴でいいなら船内を見渡してきてもいいという条件のもと自由行動を良しとした。その方が良いだろう。
なにせせっかくの飛空挺、しかも安全は保証されている。楽しめなければ損というものだ。エイダ自身の運命としてこの先何回楽しいと思える出来事が続くかわからない。そう思ってのドンキホーテなりの気遣いだった。
「ねぇ!ドンキホーテも一緒に3人で見に行こう!」
そんなこと知ってか知らずかエイダはドンキホーテとアレン先生を誘い空の風景を目を輝かせながら見ていた。
「やっぱり飛空挺はいいよなぁ!ロマンがあるぜ!」
「うおお高すぎじゃ……」
「すごい………こんなに高いところ見たことない雲の上だなんて…!」
エイダの喜ぶ顔そして、ついでにアレン先生のビビる顔が見られてドンキホーテはこれだけでもきて正解だったと1人思う。
そしてこの景色、雲の上というなかなか見られない景色にドンキホーテ自身も心を奪われていた。
「ねぇ次も見に行かない?」
「わかったわかった、あまり急ぐなよ、腹が減っちまうぜ」
そう笑いながらドンキホーテはエイダを冗談交じりにたしなめた。その時だ。
何か窓の景色に違和感を覚えた。
ここは雲の上空の魔物は周りの軍事用の飛空挺が遠ざけてくれるはずだ。見間違いかドンキホーテはそう思った。
そう思いたかった。
ドンキホーテの目下窓の外には巨大な蛇のような影が雲の中で蠢いていた。
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