14 魔法の力の氣の起源
マクナイアは自らの研究室で、鏡に映る自分の姿をいまさら見つめていた……黒衣の魔法使い、か。
なぜに過去、リアリストな理数教師をしていたようなものが、魔法なんて中二病の夢を演じているのか。
その点に想いを馳せるが。
改めて考えると。魔法なんて、現実に使えるはずはない。ご都合主義な超能力魔法は……しかし。
けっきょくのところ、科学と技術と文明と文化が、極端に進歩してしまえば、可能になるのだ!
世界が21世紀のいまなら、それは可能なのだ。ロストジェネレーション・ベーシックテクノロジー、LGBT。
いったんは誰かが極めたはずなのに、おおやけには失われた技術。むかしはホワイトボックスだったが、いまやブラックボックスどころか……
しかし心得れば、誰しも使うことができる。基本の魔力なら。
もしも、魔法がかんぜんに使えない、なんて人間がいたら。そいつは自分のからだを動かすことも、ものを考えることもままならないであろう。
まずは思考から始まる。それは電子パルスとして神経にそって流れ、さらなる意識を生むしからだを動かせる。
魔法もその延長線上にあるのだ。
繰り返す。自分のからだを動かすのと同じ力の延長線上に、だ。
魔法には、『発動点』というポイントがある。
発動点から魔法は投射されるのがふつうだ。
発動点はほんらい、思考の中枢たる頭脳にあるのだが。たいていの場合、発動点はそこからシフトし、心臓へか、目か耳、鼻、口の感覚器へ移る。
さもなければ、心臓に近く、神経の集中しやすい左手へ。その親指ないし人差し指へ、と移る。たいていの人の場合、そこから右手に移る。なぜって、右利きの人の方が多いから。
これは魔法使いを見れば明らかだ。
たいていの場合、魔法は右手の指さきから発する。攻撃魔法のファイアボルトとかが典型的だろう。
さらに、発動点は身近なものに移すこともできる。
魔法を使うのに便利なものに、発動点は移せるから、魔法の杖というものがあるのだ。
指先で扱うよりも有効な使いどころが多く、杖とは魔法のいろんな仕事では、万能っぽく便利だから。
もっとも魔法の杖がなくても魔法は使える。杖とは単にあれば使いやすくなるツールだ。ようするに、床拭き掃除に雑巾よりモップの方が楽なのと同じだ。
繰り返すが、魔法は発動点から投射されるか、受信されるかがふつうだ。
マクナイアは『鏡』に表示されている情報に目を通してみた。
メイジ・マクナイア
年齢:12歳
身長:140cm
Lv: 4
筋力: 7
体力: 5
知恵: 21
魔力: 18
敏捷: 9
器用: 9
技能{
武術:素手護身術
魔術:魔力系・サイコ系発現 潜在魔力:未覚醒推定不能
技術:【省略】
追記事項:【削除】}
体力が落ちている。これは過労のためだろう。他のステータスものきなみ伸びが悪い。は、勉強し過ぎて能力が落ちたのでは本末転倒だ。
鏡には映るのだ。マクナイアの瞳……躁病患者みたいにぎらついている。というか躁病そのものだ。子供の澄んだ輝く目とは、とてもいえない。
身長が一センチ縮んだ。背がこの歳で縮むはずはない。きっと、背筋がしゃんと伸びていないのだ。
一気に年老いた、腰の曲がった魔女になったみたいで、いささか気が滅入る。その気の落ち込みもストレスとなる悪循環だ。
こんなことがもしかつての同僚にバレたら、いわゆるロリババア扱いされる……それは屈辱だ。
って……そんなことにかまっていられる時間は、刻一刻、短くなっている。
なぜ……不和が起こるのか。それをテーマにマクナイアは瞑想を始めた。思いを馳せ、謳う。魔力の気を練るために。
(絶対に正しい真理など
この宇宙のどこにもないのに
絶対者としての神を盾に
自分を正義って傲慢だろ
信仰心がないのはお互いさまとして
おまえも神に反している
ひとが完全でないように
大地も太陽も銀河も宇宙も完全ではない
神ですら……とすると
この地上の生態系が
宇宙の中のイレギュラーなバグみたいなものなら
いつ異質に変化してもおかしくない
しかしむしろ個人の存命中になにも起こらないことは
宇宙の歴史と人間の命のスケール差から統計的に明白
その常識が覆される
物理法則がここに破れる)
マクナイアはこのテーマを反駁していた。
……ただひとつの絶対の真実は、絶対に正しい真実なんか存在しないというただひとつだけ。
そしてこれは自己破綻している。破綻していることを踏まえてすべては相対的にできている。
絶対なんて欺瞞なのだ。自己を絶対として譲らないヤツは自分を客観視できない狭量なのだ。
って、こんなこという自体傲慢な独善だ。異論も聴く度量は持たないと。もし絶対に正しい真理なんかあるなら、どうして人の世に不和がある理屈か。
論理学に矛盾在り、で……
物事は、Yes or No.だけでは判別できない。
ものによっては、Yes or Yes.の返答を強いられることもある。
否、No or No.しかない場合もありうる。
悪質なものは、No is Yes.とこじつけたりもする。
つまり、どう答えようが非力な女の子には拒絶できないような卑劣な罠が、そこらに満ちていたではないか。
ここでどうしても。息子を……環を思ってしまう。あの子は……父に似すぎている。能力面は。気質はとても違うけれど。しかし、それでは……危険すぎる。
一介の高校生にして、旧支配者ダゴンを破壊せしめた器。これが相手では。
手を……考えなければ。魔法とは……ほんらい、発想から生まれるのだから。




