第399話 『 夜凪、死す 』
「悪いけど、少し離れるよ」
「どーぞ、そいつにもう用は無いしね♪」
……〝白絵〟の許しを得た俺は、高速移動で少し離れた路地裏までギガルド兄ちゃんを運ぶ。
「ウィン・フレイ、ギガルド兄ちゃんを頼むよ」
「はっ、はい!」
「任せてください!」
俺はウィンとフレイが避難していた路地裏にギガルドを降ろし、再び〝白絵〟の前へと戻る。
「待たせたね、続きをやろうか」
「構わないよ、所詮は余興だ。気楽に行こう」
「……」
〝白絵〟は悠然と笑う……自分が負けるなどとは一ミリも思ってはいないのであろう。
(……確かに〝白絵〟の〝white‐canvas〟は何でもできるし、さっきみたいに殺したって復活しちゃうんだよね)
――詰み。
……はっきり言って、俺の〝幻影九麗〟や〝八咫烏〟では相手にならなかった。
(……絶対に勝てない。だから、あいつは笑っているんだ)
圧倒的な実力差。
絶望的な勝率。
……それでも、ドロシー姉ちゃんを見殺しなんてできない。
(――だから、考えるんだ。〝white‐canvas〟の攻略法を……!)
しかし、そう簡単に見破れないからこそ、〝白絵〟が最強たる所以であった。
(……いや、待てよ)
〝白絵〟は最強である。それならば一つだけ疑問が生まれた。
「 何で、タツタを遠ざけたんだ? 」
「――」
……疑問は口から溢れ落ち、それを聞いた〝白絵〟が笑みを消した。
「確かにタツタの〝闇黒の覇者〟や〝闇々覇手〟は強力だけど、〝白絵〟が手こずる程のものじゃない」
それなのに〝白絵〟は言った。
――いくら僕でも今のタツタを相手に楽勝とは言い難い
……タツタにはあるのだ。〝白絵〟を追い詰め、〝white‐canvas〟を攻略する何かが!
「 正解だ 」
――〝白絵〟が笑顔で白状した。
「お前の読みは正しい、タツタには僕を倒し得る力がある――だが、それが何だと言う?」
悠然。
余裕。
「お前の〝幻影九麗〟や〝八咫烏〟では僕を倒すことも足留めすることもできない。その事実は揺るがないのだからね♪」
「……」
……ぐうの音も出ない正論であった。
〝刃〟・〝伸〟・〝朧〟・〝裂〟・〝蛇〟・〝鏡〟・〝結〟・〝闇〟・〝氷〟の九つ型。
それらを肉体に付与する〝八咫烏〟。
火の魔力と闇の魔力。
剣術・敏捷性・その他の戦闘技術。
……俺が積み上げてきた、十四年間の全てを以てしても、〝白絵〟の足留めすらできなかった。
「それでもお前は僕の前に立ちはだかるとでも言うのかい?」
「……」
俺は強くなった。それは自信を持って言えた。
しかし、それ以上に〝白絵〟の方が強い――それもまた、核心的事実であった。
俺が弱いのではなく、〝白絵〟が強すぎたのだ。
「〝黒土〟がタツタをいつまで足留めできるかわからないからね、お前は遊び無く殺すよ」
――殺ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝白絵〟の殺意が俺を貫いた。
(……ああ、これは間違いなく死ぬな)
……俺は冷静に自分の死を悟った。
「……一つ頼みがある」
俺は握っていた〝刃〟を消した。
「お前の狙いがドロシーだけなら、他の皆は殺さないでほしい」
「お前の頼みを聞く道理はないよ」
……わかっているさ、そんなこと。
「だが、お前の仲間が僕に歯向かわないとするならば話は別だ。そもそも、他の奴等には興味もないしね」
「……信じるよ。その言葉」
「信じるなよ。僕はこう見えて大悪党なんだからね」
「……」
……それでも、俺はその言葉にすがり、信じた。
「構わないさ。だが、俺を殺すならちゃんと殺せよ」
俺は両手を広げて、悠然と死を受け入れる。
「中途半端に殺してみろ……地獄から這い上がって、お前の寝首を掻き殺すよ」
「やってみなよ、できるものならね♪」
〝白絵〟は片腕を挙げて、その人差し指を俺に向ける。
「じゃあね、夜凪夕。つまらない幕引きだったよ」
〝白絵〟はその指をピストルのように俺に指向し、そして――……。
「 死ね 」
ド ン
ッ
ク
――俺の心臓は一瞬だけ跳ね上がり、すぐに沈黙した。
「――」
俺の身体は仰向けで地面に落ちる。
「……」
……動かない。
当然であった。何故なら、夜凪夕は――……。
――死んだのだ。
「 賭けには勝ったかな? 」
……俺は暗闇の中にいた。
「やあ、また来ちゃったのかい? キミも懲りないねぇ」
……しかし、俺は一人ではなかった。
「久し振り、また会えて嬉しいよ――……」
……そいつは陽気で、幼稚で、容姿はピーターパンによく似ていた。
「 〝ジャック〟 」
……そう俺は、俺をこの世界に連れてきた張本人である、〝ジャック〟と名乗る陽気な人形と再会を果たしたのであった。




