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 第396話 『 受け継ぎし者 』



 「……これがアークの全力」


 ……凄まじいプレッシャーであった。


 (……こんな怪物にわたしは勝てるのかな?)


 今のわたしは魔術を使えない。〝精霊王〟が使える魔術は一つしかないからだ。



 ――〝魔絶マギアエンド



 ……領域内の自身以外の魔術・〝特異能力〟を完全封殺する魔術である。

 今のわたしは魔術が使えないのは〝魔絶〟のせいではない。

 魔術が使えない理由、それは〝精霊王〟が覚えている魔術が一つもないだけであった。

 もし、わたしが〝精霊生転〟でフレイちゃんになれば、〝灼煌〟を含む火炎魔術を発動することができる。無論、〝精霊王〟にならなければ〝無幻格牢〟に対抗できないので、あくまでも仮定の話である。


 (……〝精霊生転イン・スピリーション〟は一度でも知見のある精霊の魔力・魔術を完全にコピーする能力)


 発動している間は、元々使えた赤系統の魔術や白系統の魔術は使えなくなる。


 (そして、発動にも条件がある)


 一つ目は一度も見たことのない精霊にはなれない。

 二つ目は一度見たことのある精霊でも、現在生存していなければ、その精霊にはなれない。


 だから、一度も見たことのない土の〝八精霊〟――アースジェイドや死亡したクリスちゃんにはなることができなかった。


 (魔術は使えない……残すは純粋な肉体のみ)


 それでも、〝白絵〟のように魔力で肉体を守ったりすることは可能であるのは救いであった。

 しかし、先程までよりも戦力が落ちたことも否定できない。


 「あんたは体術もイケるってのはさっきの攻防で理解した。だけど」


 アークが両腕の刃を構える。


 「イケると強いってのは話が違う。今のあんたにこの姿のあたしと戦う力はない」

 「やってみなきゃわかんないでしょ」


 「 わかるよ 」



 ――トンッ……。アークは既にわたしの背後にいた。



 (――今まで以上に速いっ!)


 アークが腕の刃を振り下ろす。

 わたしは身を翻す。


 ――その一瞬でわたしは懐からナイフを抜き出す。


 (ベル師匠から学んだ短刀技術、こんな所で役に立つなんてね)


 わたしはアークの攻撃をかわし、カウンターでアークの顔面にナイフを突き刺し



 ――パキンッッッ……。ナイフが折れた。



 (皮膚が硬すぎる!)

 「今、何かした?」


 ――アークが拳を振り抜く。


 (――しまった! 空中じゃかわせ


 わたしは咄嗟に腕を交差させてガードする。

 アークは構わず拳を突き出す。


 ――衝突。わたしの交差させた腕とアークの鉄拳が衝突した。



  パ       ィ


      キ      ッ



 「――」


 ――わたしは堪らず吹っ飛ばされ、民家に叩きつけられた。


 壁は砕け、キッチンへわたしの身体は転がる。

 追撃に備えて身を起こす。


 「――あっ」



 ぶらん……。右腕が力無く下がっていた。



 「折れてる?」




 ――影が差す。



 「――」


 見上げる余裕は無い。

 わたしは全力で後ろへ跳ぶ。


 「反応、早ぁー」



 ――斬ッッッッッッ……! アークが上空から斬り付け、わたしがつい先程までいた地面が切り裂かれた。



 「でも、ちょっと遅かったね」

 「――っ」


 ――ブシュッ……。左肩が僅かに切り裂かれ、鮮血が飛んだ。


 「……」


 ……少し――いや、かなり厳しいかな。


 〝歪神いびつがみ〟となったアークの躯は、ただの刃物や打撃は通さない。


 (……目が無いからさっきまでのような粘膜攻撃もできない)


 目が無くても戦えているのは恐らく〝魔眼〟のお陰であろう。


 (身体能力も格段に上がっている。右腕は……使い物にならないかな)


 治癒魔術を使いたいが、それは一度〝精霊生転〟を解除しなければ使えない。

 そして、一度解除するような隙を見逃すようなアークではない。その隙を突かれ、〝無幻格牢〟の発動を許せば、今度こそ詰みであった。


 「そろそろ諦めて降参したら?」


 アークが挑発してくる。


 「今なら見逃してあげてもいいけど」

 「……」


 ――余裕


 アークの口振りは勝利を確信したものであった。


 「優しいのね、お姉ちゃん感心しちゃうよ」

 「まだ、姉面するつもりなの?」


 不安や恐怖を顔に出さないわたしに、アークは不機嫌になった。


 「勿論、わたしは死んでもあんたの姉だからね」

 「了解、見逃してあげるってのは無しね」


 ――トンッ……トンッ……。アークがその場で小さく跳ねる。


 「問答無用で殺してやる」

 「――」



 ――既にアークはわたしの目の前にいて、その強靭な脚を振り抜いていた。



 (――集中しろ、ギルド=ペトロギヌス)


 わたしはアークの蹴りを紙一重で回避する。

 しかし、アークは間髪容れずに拳を繰り出す。


 「――っ」


 わたしはそれも辛うじて回避する。



 ――スパッ……。それでもかわし切れず、僅かに頬が裂かれる。



 (このままじゃ、じり貧だ!)


 アークが蹴り、拳・刃をわたしに送り続け、わたしはそれらを紙一重で回避する。

 しかし、長くは続かない。徐々にわたしは身体に傷を創る。


 「ほら! ほら! ほら! かわしなさいよ、馬鹿姉貴ィ!」

 「――っ」


 迫り来る凶器。わたしはかわすので精一杯である。



 ――ガシッ……。



 「――な、にが」


 「 つーかまえた♪ 」



 ……わたしの足首にアークの尻尾が巻き付いていた。



 ――ブンッッッ……! 尻尾に力強く引っ張られ、わたしは民家の壁に叩きつけられた。



 「――ぐっ」


 しかし、まだ終わりではない。


 (――これは、わたしの守りを崩す一手。本命は別)



 ――アークが右腕を振り抜く。



 「これで終わりだァァァァァァァァァァッッッ……!」


 これはかわせない。


 ガードをしようにも、今左腕を失う訳にはいかない。


 「――こ」



 ――このときを待っていた!



 わたしはスカート中に手を突っ込み、〝それ〟を出した。


 「この距離なら外さないよね」




 ――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 目映い閃光がアークの右腕を呑み込んだ。




 「……ジ……エンドオブライトニング?」


 右腕を光線に呑まれ、消し飛ばされたアークが呆然と呟いた。


 「どうして? 魔術は使え――っ!?」


 アークが目の前の光景に驚愕し、言葉を切った。


 「……〝精霊王〟は魔術は使えない。それは嘘じゃない」


 わたしの左手に握られた〝それ〟の先端から紫煙が揺れる。


 「だけど、〝精霊王〟には魔力がある。そして、魔力があれば――……」


 そう、わたし左手には握られていた。


 嘗ての仲間の武器、


 光穿つ近代の弓、



 「 魔導具は使える……! 」



 ……カノンくんの魔銃――〝光麟〟がこの手の中にあった。


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