98話 圧倒的な差
魔人というからには、なにかしらの力があるのだろう。
俺がダメージを与えるのは不可能という言葉にも、意味はあるのだと思う。
でも、それは敵の言葉。
簡単に信じるわけにはいかない。
「はいそうですか、って簡単に納得はできないよね。フレアブラストッ!」
悪あがきの一撃。
先ほどよりも、それなりに威力を上げている。
もちろん、街に被害を出すわけにはいかないから、角度や範囲は絞り、調整したものの……
威力は先程と比べ物にならないはず。
倒すまでにはいかなくても、これならばダメージを与えることができるはず。
そう思っていたのだけど……
「私の話、聞いていましたか?」
「……まいったな」
ミリエラは……いや。
フラウロスは、まったくの無傷だった。
魔力か結界か、なにかしらの方法で防いでいるらしく、服すら燃えていない。
いや。
そもそも防いでいないのかもしれない。
火属性に対する、絶対耐性があるのかもしれない。
その場合、なにもしなくても防ぐことができる。
そうなると、かなりまずい。
俺が使える攻撃魔法は……ファイア、フレアブラスト、フレアソード、ファイアボムの四つ。
見事なまでに、全部が火属性だ。
完全に無効化されてしまうとなると、攻撃する術がない。
「ハルの魔法が効かないとなると」
「私達ががんばらないといけませんね」
アリスとアンジュは怯むことなく、むしろ闘志を燃え上がらせていた。
いつでも動けるように剣と杖を構えている。
二人の頼もしい姿に、俺もまた、闘志に火が点いた。
攻撃魔法が効かなくても、他にダメージを与える術はあるはずだ。
なければ考えればいい。
生み出せばいい。
賢者という職業に就いているのだから、それくらいはやってみせないと。
「さて、今度はこちらの番ですね」
フラウロスが片手をゆっくりと上げる。
その動きに従うようにして、炎弾が周囲に出現する。
一つ、二つ、三つ……次々と現れて、瞬く間に、空間が炎弾で埋め尽くされてしまう。
その数は……数えるのがバカらしくなるほど。
例えるなら、夜空に輝く星のごとく。
「ふふっ。簡単に死なないでくださいね? 知恵で、私をここまで追い込んでみせたのですから、力でも追い込んでみせてください」
笑い、嘲り。
そして、フラウロスが手を振り下ろす。
それを合図にして、一斉に炎弾が飛ぶ。
さながら流星雨のよう。
放物線を描きながら、数え切れないほどの炎弾が迫る。
「二人は俺の後ろに!」
「ええ!」
「はい!」
「攻撃はできなくても……シールド!」
不可視の盾を展開して、降り注ぐ炎弾から身を守る。
「ぐっ!?」
炎弾が盾に着弾した。
ゴォッ! と周囲に業火を撒き散らしながら、爆発を引き起こす。
展開している魔力の盾を通じて、大きな衝撃が伝わってくる。
思わず顔をしかめてしまうほどで、なかなかに厳しい。
しかし、敵の攻撃は一発で終わらない。
数え切れないほどの炎弾が残されていて、その全てがこちらに向かう。
ガガガガガッ!!!
岩に岩を叩きつけるような轟音が連続して響いた。
同時に、局地的な地震が起きているかのような、激しい衝撃が伝わる。
「これは、なかなかに……!」
厳しい。
ありったけの魔力を注ぐことで、なんとか盾を破壊されることなく、維持することができていた。
しかし、魔法を維持することはできても、肉体の方が保つかどうか。
手が痺れてきた。
腕も痺れてきた。
その痺れが痛みに変わり、さらに時間が経つと、なにも感じないようになる。
「ぐっ……はぁっ、はぁっ、はぁっ」
炎の雨が止み、それとほぼ同時に魔法の盾も消える。
なんとか耐えることができた、か。
どうにかして、この間に反撃に移らないといけない。
「アンジュ、サポートお願い!」
「はいっ、ホーリーウエポン!」
アンジュは、武器に光属性を付与するという魔法を使う。
光り輝く剣を手に、アリスが駆けた。
あらかじめタイミングを計っていたらしく、そのタイミングは完璧。
身を低く、前かがみになるようにして駆けて、フラウロスの懐に潜り込む。
剣の柄をしっかりと握りしめて、右から左へ。
首を跳ね飛ばそうとするが、
「動きは悪くありませんが、いかんせん、火力が圧倒的に足りませんね。採点するならば、百点中五点というところでしょうか」
「なっ!?」
フラウロスは特に慌てることもなく、そうすることが当たり前というかのように、アリスの剣を素手で受け止めた。
悪魔に有効と言われている光属性をまとう剣を素手で受け止めておきながら、傷ついた様子はまったくない。
かすり傷一つ、ついていない。
「次は私の番でしょうか?」
フラウロスは、そっと、アリスの額に指を寄せる。
「きゃっ!!!?」
たったのデコピン一発で、アリスは巨人に殴られたかのように、大きく吹き飛んだ。
何度も跳ねて、床の上を転がり、壁に激突してようやく止まる。
「うっ……」
半分以上意識が飛んでいるらしく、立ち上がることができないようだ。
たったの一撃……しかもデコピンで戦闘不能になってしまうほどのダメージを受けてしまうなんて。
コイツ、化け物だ。
「アンジュ、アリスの回復を!」
「は、はいっ」
「そうはさせませんよ」
アンジュにサポートを頼むものの、黙っていかせてくれるほど、フラウロスは優しくないらしい。
再び手を振り、無数の炎弾を生み出した。
アンジュとアリスが爆炎に飲まれてしまう。
「アリス! アンジュ!?」
二人は……なんとか無事だ。
ただ、完全に意識がない様子で、ぐったりとしていた。
これは、本当にやばい。
藪を突いたら、蛇じゃなくて竜が出てきてしまったようだ。
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