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97話 わかりやすい一つの答え

「よかった……ですか?」


 俺のつぶやきが理解できないという様子で、ミリエラは怪訝そうな顔に。

 アリスとアンジュも、なにを? という感じで不思議そうにしていた。


「今回の件、俺なりに色々なパターンを予想していたんだけど……厄介なのが、さらに裏に黒幕がいるとか、実は操られていただけとか、壮大な計画の一歩だとか……そういうのだとしたら、ものすごく困っていたんだよね。だって、その場合、そこで事件は終わりじゃない。さらに、後ろにあるものを調べないといけないからね」

「なにを言っているのですか……?」

「でも、今回はそうじゃない。あんたが一連の事件の黒幕だ。だから、あんたを倒せばいい。実にわかりやすい、シンプルな答えだ。だから……よかった、って言ったんだよ」

「……」


 ミリエラは目を丸くした。

 悪意とか愉悦とか、そういう感情を一切排除していて、ただただ単純に驚いているらしい。


 俺、そんなにおかしなことを言ったかな?

 黒幕がハッキリしていて、余計なことをしないで済むっていうのは、とてもありがたいことなのだと思うのだけど。


「あはははっ」


 突然、ミリエラが笑い出した。

 心底おかしいという様子で、軽く涙すら浮かべている。


「まさか、そのように単純に考えてしまうなんて……とてもおもしろい人間ですね。あなたのような人間は、初めてですよ」

「それは褒め言葉?」

「ええ、もちろん」

「なら、一応受け取っておくよ」


 ミリエラが一歩、前に出る。

 空気が突然薄くなってしまったかのような、息苦しさを覚えた。

 彼女が持つ力の圧力なのだろう。


 なにもしていないのに、これだけの圧を持つ相手……できるなら、戦いたくない。

 怖いとかそういう理由もあるのだけど、それ以前に、勝てるかどうか。


 みんなはそんなことはないと言うけど……

 俺は、俺に自信を持つことができない。

 五年間、ずっとレティシアに否定され続けてきた。

 その言葉が心に、魂に染み付いてしまっている。


 これは呪いのようなものだ。

 言葉一つ、行動一つ、結果一つ……それらで簡単に拭い去ることはできない。


 ただ。


 俺の行動にみんなの命がかかっているとしたら?

 そんな時まで、自信がないと怯んでいるわけにはいかない。

 自信がないとしても、あるように見せる。

 空元気で挑む。

 そうしないとダメだ。


 俺のためにも、みんなのためにも。

 やらなければならない時は、きちんとやり遂げてみせよう。

 それが、俺の精一杯の小さな意地とプライドだ。


「さて……それじゃあ、お話はこの辺りでいいですか? そろそろ、戦いましょう」

「あ、最後にもう一つだけ。圧政を敷いたり拷問をしたりしているのは力を得るためと言っていたけど、それはどういうこと?」

「そのままですよ。人間の魂や負の感情は、私達悪魔の糧になるのです。より良い絶望、より良い嘆き……それらは、人間で言うスイーツのようなものですね」

「なるほど、悪趣味だ」

「強くなるために仕方ないことです。私達悪魔は、そういう風にできているのですから」

「……」


 今の台詞の中の、とある一言に反応して、ピクリと眉が動いた。

 ただ……この件は、下手に追求しない方がいいな。

 しらばっくれるだろうし、なによりも、余計に意地になる方が怖い。


 ミリエラは、今のまま、俺達を侮っていてもらいたい。

 絶対に殺す、なんて覚悟をされたら面倒だ。


「あ、もう一ついいかな?」

「質問が多いですね……まあ、構いませんよ。私の正体を言い当てたのは、あなたが初めて。サービスくらいはしましょう」

「……この屋敷で働いているはずの人達はどこに?」


 さきほどから、人の気配がまったくしない。

 ここにいる俺達以外、誰もいないように思えた。


 ミリエラは、笑いながら言う。


「殺しました」

「……」

「正確に言うと、食べました、になりますね」

「こいつ……!」

「あなた達……というより、あなたは予想以上の存在でした。いつか、あなたのような強者が出てくると思っていましたが……その時は、隠蔽は不可能。穏やかに済ますことはできないでしょう。ならば、一度、全部壊してしまうのみ。そして、他の場所で一からやり直す」

「壊す、っていうのは、この都市も?」

「もちろん。目撃者などが残ると面倒でしょう? 悪魔は過去の遺物と思わせておかないと。討伐隊などが編成されて、相手をするのはとてもとても面倒ですからね」

「なるほど、よくわかった」

「なにがですか?」

「あんたは魔物と同じ。人の天敵だから、躊躇なく迷うことなく、戦うことができる」

「ふふっ、すごい自信ですね。とてもおもしろいです。悪魔……魔人である私を、ただの人間が討つなどと。本当に……おもしろい話ですねぇっ!!!」


 ミリエラが強く叫び、殺意が膨れ上がる。

 思わず硬直してしまうほどの、おぞましい殺意だ。


 自分を叱咤して、すぐに自由を取り戻す。

 その後、アリスとアンジュに向けて叫ぶ。


「アリス! アンジュ! 二人は俺の後ろへ」

「了解!」

「は、はいっ」

「シニアスは動けるか?」

「俺に協力しろ、と?」

「魔人なんて、ものすごく戦い甲斐のある相手だろう!?」

「ふ……最高の口説き文句だな」

「なら、俺に合わせて!」

「いいだろう」


 俺は、手の平に魔力を集中させる。

 シニアスは剣の柄に手を伸ばして、半身に構える。


「フレアブラストッ!!!」

「ふっ!!!」


 数千度に達するであろう獄炎が立ち上がり、ミリエラを一瞬で飲み込んだ。

 炎の波はそのまま壁を貫いて、天井を焼き払い、空に伸びていく。

 街中なので加減はしているけれど、耐えられるほどに手は抜いていない。


 そこに、シニアスの音速剣が加わる。

 超速の斬撃。

 一度だけではなくて、複数の音の刃が飛び、ミリエラがいた場所を切り裂いていく。


「へぇ」


 炎の中からミリエラが姿を見せた。

 傷一つ、ついていない。


 その背中から、炎の翼が生えていた。

 幻想的なほどに綺麗で……

 それでいて、地獄の炎を思わせるほどに恐ろしい。


 もう一つの変化は、彼女の瞳だ。

 ミリエラの瞳は、血を連想させる深い赤に変化していた。


 これが彼女の本来の姿なのだろう。

 人間と悪魔が混ざり合い、新しい命となる。

 それが……魔人。


「すさまじい魔法でしたね。シニアスも、なかなかのものでした。しかし、その程度では私には届きません。というか、炎系統の魔法を得意としているのなら、相性が悪いですね」

「それは、どういう意味だ?」

「私の本当の名前は、七十二柱が一人……フラウロス」

「……フラウロス……」

「人間であるあなたでは、私にダメージを与えることはできません。」


 無駄な努力ごくろうさま、というような感じで、クスクスと笑うのだった。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 意外に強敵か 皆食っちまったか…
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