表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/547

96話 降臨した悪意

「……」


 俺の言葉を受け止めたミリエラから表情が消えた。

 言葉を口にすることもない。

 ただただ感情のない顔でこちらを見つめている。


「私が悪魔という、その根拠は?」


 静かに問いかけてきた。


「根拠っていうほどのものはないよ。ただ、他に適合するものがないんだよね」


 ミリエラは、意味もなく人々を害しているわけじゃない。

 なにかしらの目的が存在するはずだ。


 悪魔は、負の感情や魂を食らうことで成長すると言われている。

 ミリエラが悪魔だとしたら、人々を害する理由に納得がいく。


 圧政を敷いていたのは、人々を苦しめて、負の感情を吸い上げるため。

 むごい拷問をしていたのは、同じく負の感情をいただいて、魂を食らうため。

 そう考えると、一連の行動に納得がいく。

 逆に、これ以外の理由が思い浮かばない。


「加虐趣味とか、そういうパターンも考えてみたんだけど、しっくりこないんだよね。そういう趣味を持つ人は、特定の趣向を持つ。例えば、いじめるなら女の子じゃないとダメだ、とか。でも、あなたにはそれがない。誰でもいいように感じた」

「だから、加虐趣味ではないと?」

「もう一つ。突然、人が変わったという話を聞いている。人生を変えるような大きな事件があれば性格も変わるだろうけど、そんなことはないらしい」

「突然、新しい趣向に目覚めただけかもしれないわ」

「その可能性もあるけど、限りなく低いよね。百八十度、人が変わるような事件はそうそう起きない。それよりも、こう考えた方が早くてわかりやすい。人が変わったんじゃなくて……入れ替わったんだ、って」

「へぇ」


 ミリエラは新しい感情を顔に貼り付けた。

 愉悦。

 俺の推理を楽しむようにしていて、視線で話の続きを促してくる。


「入れ替わるとしたら、どうすればいいか? 対象の調査が必要だよね。どんな性格で、どんな言動をする人なのか。そこをきちんと調べないと、周囲に怪しまれてしまう。でも、なによりも難しいのは、外見を似せること」

「それは、魔法を使えばいいのでは?」

「うん。それが一番手っ取り早くて確実なんだけど……でも、他人になりすます魔法なんて、簡単に使えるものじゃない。そんな魔法が誰でも使えたら、犯罪が多発するだろうからね。使い手は少ないし、誰かに教えられることもほとんどない。ただ……悪魔ならどうだろう? 伝説になるような存在だ。それくらいの魔法が使えて当然だと思うんだよね」

「おもしろい話ですね」


 再びミリエラは笑みを浮かべる。


 きちんとこちらの話を聞いているのだけど、内心でなにを思っているのか?

 それはわからない。

 俺の話に激怒しているかもしれないし、表情通り楽しく思っているのかもしれない。


 いつ、なにが起きてもいいように身構えつつ、話を続ける。


「そんなわけで、俺は、あなたの正体は悪魔という説を推すかな」

「ふふっ。とてもおもしろいですね。辻褄は合っているし、ありえないことではないかと。ただ、証拠がないですね。その辺りは?」

「証拠はないけど、証明はできるかな」

「へぇ」


 ミリエラを視界の端に収めつつ、アンジュの方を見る。


「アンジュは聖女見習いだから、光系統の魔法が得意だよね?」

「えっ? あ、はい。そうです」

「なら、悪魔を追い払うような、退魔の魔法は使える?」

「はい。魔法陣を作り、その上に結界を生成。邪悪なものを打ち払うという魔法です。対象は悪魔に限りませんが……もしも悪魔なのだとしたら、確実に反応するでしょう」

「人間に反応することは?」

「よほど心が歪んでいれば、あるいは……ただ、基本は人に反応することはありません。人に化ける魔物を暴くための魔法ですから」

「……」


 アンジュの言葉で、俺がなにを考えているのか理解したらしく、ミリエラの表情にわずかに険が含まれる。


「どうだろう? アンジュの魔法で真偽を確認してみる、っていうのは? それで、答え合わせができるんじゃないかな?」

「……いいえ、その必要はありません」


 楽しい時間だったというかのように、ミリエラは拍手をする。

 そして、笑顔で言う。


「正解です。それほどの推理力、洞察力を持つとは……すばらしいですね。人間は、たまに異常と言えるほどに突出した個体が出現しますが、あなたがまさにソレですね」

「そんな台詞を口にする、っていうことは……」

「ええ。あなたの推測通り、私は悪魔ですね」


 やっぱり、という気持ちがある反面、できれば外れてほしかったと思う。

 どんなに楽観的に考えても、ミリエラが俺達をこのまま見逃すとは思えない。

 ペラペラと色々なことを話しているのは、最終的に殺せばいい、と考えているからに他ならない。

 でなければ、ただのバカだ。


 あともう一つ。

 外れていてほしいと願った理由がある。


 ミリエラが突然別人のようになったのは、悪魔と入れ替わっていたから。

 だとしたら……レティシアは?

 その答えを考えて、憂鬱な気分になってしまいそうだ。


「悪魔だと認める、と?」

「ええ、そうですね。ただ、あなたの答えはパーフェクトではないですね。一部、違うところがありました」

「それは教えてくれるのか?」

「構いませんよ。人間とおしゃべりをすることは、嫌いではありませんからね。ふふっ」


 ミリエラが妖艶な笑みを浮かべた。

 普通の人が見れば、その艶めかしさに心を奪われるかもしれないが……

 悪魔と判明した今、おぞましさしか感じない。


「あなたは、私が魔法を使い人間と入れ替わった、と推測しているみたいですが、そこは違いますね。この体は人間のものですよ?」


 この体は、という言い方に引っかかりを覚える。

 それだとまるで、体はそのままだけど、心や魂は別みたいじゃないか。


「私は、元々は魂だけの存在で、とある場所に封印されていたんですよ。封印の話、知らないですか?」

「知っているよ。大昔に、勇者によって封印された。今に至るまで討伐の方法は発見されていなくて、その時が来るまで、厳重に管理されているはずなんだけど?」

「私の場合は運が良かったのでしょうね。長い時が流れたことで、私の封印場所が記録から消えたらしく、ずさんな管理でしたよ。おかげで、封印場所を訪れたこの人間……ミリエラ・ユルスクールの体を奪うことができました」

「体を奪う……そうして、入れ替わりを?」

「ええ、そういうことです。今の私は、人間の体に、悪魔の魂を持つ存在……さしずめ、魔人というところでしょうか?」

「……魔人……」


 そう言うミリエラは、確かに悪魔のような笑みを浮かべていた。


 敵は、伝説の存在。

 その力は未知数ではあるものの、圧倒的なものであることは間違いないだろう。

 たぶん、俺よりもレベルは上。

 もしかしたら、最高の100に到達しているかもしれない。


 状況は絶望的。

 アリスもアンジュも、まったく動けないでいるほどに気圧されていた。


 それでも。


「……なら、よかった」

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 身体を乗っ取られたか 邪悪な魂だけ追い出せることができる? 勝算はありそうだなw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ