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95話 その正体は……

 シニアスの協力を得ることができた俺達は、領主の館の探索をさらに進めて、悪事や不正の証拠を集めていた。

 するとまあ、出てくる出てくる。

 探せば探した分だけ証拠が出てきて、ミリエラが真っ黒ということが証明される。


 いったい、どれだけの悪事を繰り返していたのやら。

 呆れると同時に、その目的が気になる。

 単に享楽に耽りたいだけなのか。

 それとも、それは表向きの理由で、裏になにかが隠されているのか。


 しっかりとした調査をして、全てを明らかにしないといけない。

 まあ、ただの冒険者である俺達がそこまでする必要はないんだけど……

 こんな現状を見た以上、さすがに放っておけない。

 俺達以外に対処できる人は、現状、いないみたいだし……

 それなら、やれる限りのことはやろう。


「とはいえ、あくまでもついで、なんだけどね」


 一番の目的は、レティシアに関する情報を得ること。

 二番目は、ミリエラが再びアーランドにちょっかいをかけることを防ぐこと。


 その二つの目的を達成することを一番に考えて行動しないといけない。


「ハル。けっこうな証拠を手に入れたと思うけど、まだ探す?」

「うーん。一旦、切り上げようか」


 探せば探した分だけ証拠が出てくるから、もっと、と思ってしまうのだけど……

 でも、欲張らない方がいいかもしれない。

 屋敷に潜入して、すでにそこそこの時間が経っている。

 ミリエラに見つかるかもしれない。


 それに、ナイン達のことも心配だ。

 ナインはとてもしっかりしているから、どんなことも完璧にこなしてしまう印象があるのだけど、相手はレティシアだ。

 勇者と呼ばれているから、油断はできない。

 ひょっとしたら、まずい展開になっているかもしれない。


 そのことを考えると、ほどほどのところで切り上げた方がいいだろう。


「それじゃあ、撤収の準備をしよう。見つけた証拠は、それぞれで分散して。後は見つからないように、慎重に撤退だ」

「誰に見つからないようにするのですか?」

「っ!?」


 玄関ホールに移動したところで、そんな声が飛んできた。

 振り返りたくないけど、そういうわけにもいかない。

 ぎこちなく後ろを見ると、別れた時と同じように、穏やかな笑みを浮かべているミリエラがいた。


「ミリエラ・ユルスクール……どうしてここに?」

「もちろん、みなさんをお迎えするためですわ。さあ、そろそろ宴の準備が整うはずです。一緒に行きましょう」

「……」

「なんて」


 ミリエラの笑みの種類が変わる。

 穏やかなものから、狂気を孕んだものへ。


「ふふっ、つまらない演技はこの辺にしておきましょうか」

「それが、あなたの本当の顔か」

「さて。私は私の顔が見えないから、今、どんな表情なのかわからないわ。私は今、どんな顔をしているのかしら?」

「人の命をなんとも思っていなくて、それでいて、笑いながら踏み潰すような……そんな顔かな」


 圧政を敷いて、たくさんの人を苦しめて。

 殺し屋を育成するなんてふざけたことをして、シルファの人生を狂わせて。

 定期的に人を誘拐して、おぞましい拷問をする。


 ミリエラ・ユルスクールは人じゃない。

 人の皮を被った化け物だ。


「正解」


 もしかしたら激高するのでは? と思いつつ言い放ったのだけど、意外というか、ミリエラは大して気にしていないようだ。

 冷たく鋭利な笑顔ではあるものの、それを維持したまま、話を続ける。


「あなた達は、きっとこう思っているのでしょうね。なぜ、こんなことを? いったい、どのような目的があるのか? どう、合っているかしら?」

「正解と言えば、答えてくれる?」

「ええ、答えてあげるわ」


 これまた意外な返答だ。

 物語の三流の悪役じゃあるまいし、対峙した時に、自身が行ってきた悪事についてペラペラ話すなんてありえないと思っていた。

 思っていたのだけど……

 ミリエラの場合、目的を話すことに、なにかしらの理由があるのだろう。

 だから、あえて解答を示す。

 そんなところかな?


「私の目的を一言で表すのならば、力を得るため、ですね」

「力を? それは、どういう意味なんだ?」

「言葉のままですよ。人間を苦しめて、殺して、魂を奪い取る。そうすることで、私は力を得てきたのですよ」


 その時のことを思い返しているらしく、ミリエラはとても楽しそうな笑みを浮かべる。

 常人なら笑うことなんか絶対にできないはずなのに、彼女はうれしそうだ。

 幸せそうですらある。


「邪教の儀式で生贄を捧げるとか、そういう感じなのかしら?」

「あるいは、厳重に管理されているはずの禁呪に、そういう類の魔法があるか……」

「はずれ。でも、見当違いというわけでもありませんね」


 ミリエラは、アリスとアンジュの推理に律儀に答えを示していた。

 やや遠回りではあるものの、一歩一歩、真実に近づいていく感がある。


「さて……私が全部明かしてもいいのですが、それでは少しつまらないですね。部下の報告によると、あなたは頭の回転が速いと聞きました。なので、クイズにしましょうか。私はいったい、何者でしょう?」


 すでにヒントは与えた。

 後は自分で考えてみなさい。


 そう言うような感じで、ミリエラが俺をまっすぐに見た。


 その視線を受け止めつつ、考える。

 これは、ある意味で挑戦状だ。

 正解することができなかったら、これ以上は教えない。

 そのまま対決だ……そんなところかな?


「ふむ」


 シニアスから得た情報、屋敷で手に入れた悪事の証拠、街の噂、アリス達の見解……色々な情報を整理する。

 考えて、考えて、考えて……

 その結果、とある答えにたどり着いた。


 その答えはあまりにも突拍子がない。

 笑われるかもしれない。

 下手したら、狂ったと思われるかもしれない。


 それでも、正解だと思う。

 他の答えはないと思う。


 まあ、俺の推理が正しいとしたら、かなり厄介なことになってしまう。

 できれば外れていてほしいのだけど……

 それはそれ。

 今は答え合わせをしよう。


「ミリエラ・ユルスクール。あなたの正体は……」

「私の正体は?」

「……悪魔だ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] やはり 悪魔でないとこんなことはできないよな
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