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94話 暴走

 黒い霧のようなものは、レティシアを中心に渦を巻く。

 まるで竜巻だ。

 どんどん勢いを増して、巨大化していく。


「うっ……な、なんすか、あれ……」


 サナが震える声で言う。


 最強の生物と言われているドラゴンが怯えていた。

 ただの人間に怯えていた。

 人間のはず、なのに……とてつもなく恐ろしい。


「これは……藪を突いたら、蛇ではなくて鬼が出てきてしまったみたいですね」


 下手にハルの名前を出すのではなかった。

 挑発するべきではなかった。

 今更ながら、ナインは己の失策を悟る。


 しかし、もう遅い。

 その原因、力の源はわからないが、レティシアは明らかに暴走していた。

 正気を失い、破壊と混沌を撒き散らそうとしている。


「くっ!」


 こんなレティシアを放置したら、どうなることか。

 ハルに怒られるかもしれない、失望されるかもしれない。

 しかし、それでも構わない。

 他に手がない。


 ナインは地面を蹴り、レティシアを殺すつもりで、本気の一撃を放つ。


「風斬っ!」


 二つの刃がレティシアの首に迫る。

 見えているのかいないのか、彼女は避けることはなく、防ごうとする意思させ見せない。


 そして……


「なっ!?」


 驚きの声をあげたのはナインだった。

 双刃は確かにレティシアの首を捉えた。

 まともに直撃すれば、いかに勇者といえど防ぐことはできない、手加減なしの致命傷の一撃だ。


 それなのに……刃の方が砕けた。

 まるで、強靭な鋼鉄を斬りつけたかのように、ガァッ! と甲高い音が響いて短剣が折れる。


「がっ!?」


 レティシアはナインを睨みつけると、その首を掴み、細い体を持ち上げる。

 そのまま、ギリギリと首を締め付けていく。


「うっ、ぐぅ……!?」


 呼吸ができない苦しさだけではなくて、首が引きちぎられるのではという激痛に襲われる。

 二重の苦しみに耐えることができず、ナインの意識が朦朧とする。

 刃が砕けた短剣を手から落として、手足から力が抜けていく。


「ナインを……」

「離せっす!!!」


 左右から挟み込むようにして、シルファとサナが蹴りを叩き込む。

 その威力は大木を根本から叩き折るほど。


 しかし、レティシアは平然としていた。

 今なにかした?

 そう言うような感じで、ちらりと二人に視線をやる。


「邪魔……するなぁあああっ!!!」


 叫び声と共に手を薙ぎ払う。

 その軌跡に従い、局地的な嵐が起きて、サナとシルファを吹き飛ばした。


「ちょ、まっ……えぇ!?」

「これが勇者の力……? ううん、それにしては異常。こんなの人の範囲を超えている」


 レティシアから湧き上がる黒い霧は、その濃度を増していた。

 量も増えて、周囲を汚染するかのごとく、じわじわと侵食していく。


 サナは混乱していた。

 ドラゴンとして長い間生きてきたため、人間の一般常識はないとしても、その他の知識はわりと豊富だ。

 古の伝説やら、秘宝が隠されている場所など、多くの知識を持つ。


 もちろん、勇者に関する知識も持つ。

 だが……そんなサナでさえ、今何が起きているのか理解出来なかった。

 レティシアの力の源がさっぱりわからない。


 そして、シルファも混乱していた。


 殺し屋として過ごしてきたため、こちらもサナと同じく、一般常識は疎い。

 生活に困るほどではないが、たまに問題を起こしてしまう。


 一方で、勇者に関する情報は多く持つ。

 もしかしたら、次のターゲットは勇者になるかもしれない。

 そんな可能性を考慮して、いつだったか、情報収集をしたことがあるのだ。


 しかし、勇者がこのような力を秘めているなんて、聞いたことがない。

 そもそも、勇者は、ただ単に他者よりも優れた力を持っているだけの普通の人だ。

 称号に過ぎず、特別な力を持つということはない。


 それなのに……これはなんだ?

 この力の正体は?


「う……ぁ……」

「「っ!?」」


 混乱する二人だけど、ナインの弱々しい声に反応して、ハッと我に返る。

 敵の力の源は不明。

 なにを考えているのかもわからず、狂人じみている。


 ただ、その答えを探っている場合ではないと判断。

 即座に動く。


「サナ!」

「了解っす!」


 二人は再び駆けた。

 今度は全力の一撃。

 己の持つ力を全て振り絞り、ありったけを叩き込む。


「天狼破断拳っ!!!」


 天を断つと言われている、超高レベルの体術スキルを繰り出した。


「ドラゴンソウルッ!!!」


 闘気を一点に圧縮して叩きつけるという、ドラゴンしか使えないオリジナルスキルを繰り出した。


 シルファとサナ、それぞれが持つ最大限の攻撃。

 あまりの威力に大気が震えて、地震が起きたかのように大地が反応する。


 常人ならば即死だ。

 原型を留めることなく、文字通り、木っ端微塵となるだろう。

 そうでないとおかしい。

 耐えるなんてありえないことなのに……レティシアは、軽く仰け反る程度で、未だ両足で大地に立っていた。


「……あんたらも、うるさいっ!!!」

「「っ!?」」


 レティシアは空いている片手を、サナとシルファに向けた。

 そして……

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 闇落ちが限度超えてないか? つかこの力の根源はなんだろう [一言] このままだとやばい!
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