9話 パーティー結成
「おかえりなさい」
宿に戻ると、アリスが笑顔で迎えてくれた。
思わず、ぽかんとしてしまう。
そんな俺を見て、アリスが不思議そうに小首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、いや……」
おかえりなさいなんて言われたの、いつ以来だろう……?
なぜか、ものすごく懐かしい気分になった。
「……ただいま」
「うん」
瞬間、足から力が抜けてしまう。
今頃になって、レティシアとの戦いのダメージがやってきたのかもしれない。
そのまま崩れ落ちるようにして、床に……
「おっと」
その前に、アリスに受け止められた。
「大丈夫? よく見たら、ボロボロじゃない」
「まあ……色々とあって」
「うん、別にいいわ。気になるといえば気になるんだけど、話をするかどうかはハルに任せるから」
「……それでいいのか?」
「いいわ」
「ありがとう」
そこで意識を保つのが限界になり……
「おつかれさま、ハル。それと、おやすみなさい」
アリスの優しい声に抱かれるようにしつつ、俺は眠りに落ちた。
――――――――――
翌朝。
「すまない!」
一階の食堂に移動した後、俺はアリスに頭を下げて謝罪をする。
パーティーを組む組まないの話の途中なのに、一人、勝手な行動をして……
ボロボロになって帰ってきたと思うと、勝手に寝て……
付け加えるのならば、出会ったばかりのアリスと同じ部屋を使用するという始末。
色々と配慮が足りていない。
それどころか、気を使わせてしまうなんて……ダメダメである。
「うん? なんで謝るの?」
しかしアリスは、なぜ謝罪をしているかわからない様子で、キョトンとしていた。
俺が自分の非を説明すると、
「別に気にしてないよ?」
あっさりとそう言うのだった。
「本当に嫌だったりしたら、その時はちゃんと言うから。だから、あたしがなにも言わない時はなんとも思っていないっていうこと。気にしないで」
「そう言われてもな……」
「それよりも建設的な話をしましょう」
どうでもいい話として、なかったことにされてしまう。
器が大きいというか、大雑把というべきか……どちらだ?
「建設的な話というと?」
「パーティーの話よ」
「あっ」
「その顔、すっかり忘れていたみたいね?」
「……面目ない」
虐げられてきたこと。
決別したこと。
そして、レティシアと対決したこと。
昨日一日で色々なことがありすぎたせいで、すっかり忘れていた。
「とりあえず、昨日はお試しっていうことだけど……ハルはどう思っているの? ちなみにあたしは、ハルとパーティーを組みたいわ」
「俺は……うん。俺も、アリスと一緒にパーティーを組みたい」
ぴたりと息が合うだけじゃない。
アリスと一緒だと楽しくて、自然と笑うことができて……
だから、できることなら、これからも一緒にいたいと思った。
そんな理由でパーティーを選ぶなんて、間違っているかもしれないが。
ただ、個人的には大事なポイントだと思う。
そう伝えると、アリスはうれしそうに笑う。
「そっか。ありがと、そう言ってもらえるとうれしいわ」
「なら……」
「でも、本当にあたしでいいの?」
「うん?」
「あたしはレベル22で、下級職の剣士。ハルからしたら、足手まとい以外の何者でもないと思うんだけど」
「アリスがいい」
即答すると、アリスが驚いたように目を大きくした。
「大げさかもしれないけど、俺、アリスのおかげで救われたようなものだから。だから、これからも一緒がいいな」
「……うん、了解。なら、これからよろしくね」
「よろしく」
握手をして、互いに笑い合う。
――――――――――
善は急げ。
パーティー結成を決めた俺たちは、さっそく冒険者ギルドへ向かい、その報告をした。
特に問題はなく、無事に受理してもらい、正式にパーティーが結成された。
「せっかくだから、ついでに依頼を探してみるか?」
「ダメよ」
思いつきでそんなことを言うと、速攻で却下されてしまう。
「パーティーを正式に組んだ以上、色々とやることがあるでしょ」
「……どんな?」
「え? 知らないの?」
「知らないな……その、すまない。俺、冒険者が当たり前に持っているような知識とか、色々と欠けているんだ」
アリスと一緒に過ごすことで、俺には知識が欠けているということを知った。
だから、アリスが言う、やらないといけないことについてもさっぱりわからない。
「うーん……ごめん! 昨日は無理して話さなくてもいいって言ったけど、やっぱ、ハルが今までどうしてきたのか気になるかも。今後のことにも関わるし、できれば話してほしいかな?」
「そうだな……うん。俺も、アリスには知っておいてほしいと思っていたから、ちょうどいいよ」
「ありがと。宿に戻って話をしましょう。そこで、今後についてのこととか、色々と説明をするわ」
今後の方針が決まり、冒険者ギルドを後にしようとしたところで……
「見つけたわよ、ハルっ!」
冒険者ギルドの扉が開かれて、レティシアが姿を見せた。
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