表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/547

88話 企みを暴け

 一見すると、ミリエラは善人だ。

 圧政を敷いていることは事実だけど、それはなにかしら事情があるのだろう。

 実際に接してみて、そう思うような人柄だった。


 ただ一つ、違和感を覚えたことがある。

 その違和感とは……


「ミリエラの笑みって、歪んでいるように感じたんだ」

「それ、どういうこと?」

「なんていうのかな……笑顔なんだけど、その笑みの質がおかしいというか……例えるなら子供かな?」

「子供……ですか?」

「ほら。子供って無邪気だけど、それ故に残酷なところがあるだろう? ゲーム感覚で虫を殺したり、そういうことをするよね? その時に浮かべる笑みとミリエラの笑み……すごく似ている気がするんだよね」


 こちらに対する敵意がないから、なかなか見抜くことはできない。

 でも、俺は確かに感じていた。

 ミリエラの笑みの奥に潜む、狂気の色に。


「まあ、確たる証拠はないし、俺の勘になるんだけど……」

「大丈夫。あたしはハルを信じるわ」

「はい。私もハルさまを信じます」

「えっと……いいの? 繰り返しになるけど、これは俺の印象で証拠なんてないんだけど……」

「悪い噂の絶えない領主とパーティーのリーダーのハル、どっちを信じるかって言われたら、答えるまでもないじゃない」

「私はなにがあろうとどんな時も、ハルさまの味方です!」

「……」


 二人の言葉が心に染みた。

 思えば、こうして誰かに深く信じてもらえるということは初めてだ。

 レティシアと一緒にいた頃は、信じてもらえることなんてなくて……

 それどころか、自分自身も信じられなくなっていたからな。


「うん、ありがとう」

「お礼なんていいわよ」

「でも、言っておきたくて……よし。これで、次の行動に移ることができるかな」

「次の行動、ですか?」

「俺の勘が当たっている、っていう前提ありなんだけど……たぶん、領主は次の行動を起こしてくるかな。俺達をもてなすフリをして、裏で色々と企んでいると思う」

「っていうことは……食事の用意をするフリをして、裏であたし達を始末する算段を考えているとか?」

「うーん……そこはよくわからないんだよね。こうして直に接してみたけど、一筋縄じゃいかない相手、っていう印象。ただ、その目的まではさすがに」

「目的は不明ですが、しかし、私達を害するつもりであることは間違いない……ハルさまは、そう言いたいのですね?」

「うん、そういうこと」


 ミリエラから敵意は感じなかった。

 しかし、若干ではあるが悪意を感じた。


 冬の女王のクリスタルを見せた時。

 ほんの一瞬だけど、底知れない悪意を感じた。

 そのことを考えると、俺達にとって不利益なことを企んでいる、と判断しても間違いじゃないと思う。


 まあ、そんな理由がなくても怪しいことこの上ない。


 何を企んでいるのか?

 アーランドの事件に関与した理由は?

 レティシアの変貌の理由を知っているのか?


 色々と謎は尽きないのだけど……

 せっかくのチャンス。

 逃すことなく、暴けるだけのことは暴いていこうと思う。


「で、俺らを害するとしたら、油断させるのは一番楽で確実だと思うんだよね」

「ということは……実際に、おもてなしをする、っていうこと?」

「だと思う。きちんと食事を用意して……でも、その中に痺れ薬とかを混ぜておくとか、そんなことをしてくると思う。根拠はないんだけどね」

「ですが……ハルさまが言うと、その通りになるような気がしてきました。アーランドの時も、ピタリと敵の思惑を言い当ててみせましたし」


 あの時は、ジンがわりとわかりやすい行動をしていたからね。

 あと、その背後にいたオルド神官も、実にわかりやすい。


「痺れ薬を混ぜてくるとか……そういうことを警戒するとしたら、どれだけ豪華にもてなされたとしても、料理を食べることはできないわね」

「ですが、それでは相手を警戒させてしまうのでは? あえて罠にハマり、敵を油断させる……それが達成できないと思います」

「うん、アンジュの言う通り。なので、痺れ薬か毒か……あるいは、他の方法で攻めてくるか。断定はできないけど、ありとあらゆる可能性を考えて、対策をして、安全を確保した上で罠に飛び込もうと思う」

「けっこうリスキーな選択なのね」

「リスクなしにリターンは得られないよ」

「もっともね。でも、毒を仕込まれたりしたら、どうすればいいの? 毒耐性なんてスキルは誰も持っていないから、毒が仕込まれていたらその時点でアウトよ」

「大丈夫。俺に考えがあるから」


 そう言い、俺はアンジュを見る。


「俺に魔法を教えてくれないかな?」




――――――――――




 その後、しばらくして俺達は宴に招待された。

 さきほどの客室よりも数倍広い部屋に案内されて……

 そこには、色とりどりの料理が山程用意されている。

 想像以上の歓待だ。


 ただ、ミリエラの姿はない。

 急な仕事が入ってしまったらしく、数時間は手が離せないとのこと。

 待たせることは申しわけないため、食事は俺達だけで。

 その後、改めて時間をとり、お茶を飲みながらゆっくり話をしよう……とのこと。


 拒否することはなく、俺達は豪華な食事を食べて……

 いっぱいに腹を満たしたところで、再び客室に戻るのだった。




――――――――――




「お客さま」


 屋敷で雇われている執事が、ハル達が滞在する客室の扉をノックした。

 コンコン、と硬質な音が響く。

 ただ、反応はない。


「お客さま?」


 執事はもう一度ノックをするものの、やはり返事はない。


「……」


 普通ならば、おかしいと怪訝に思うだろう。

 しかし、執事は特に疑問を抱くことなく、そのまま扉を開けて客室に入る。


 ソファーの背もたれに寄りかかるようにして、ハル達が寝ていた。

 深い眠りに誘われている様子で、扉が開く音がしても目が覚める様子はない。


 その様子を見て、執事は満足そうに頷く。


「ふむ……いつも通り、薬の効果は十分みたいですね」


 執事は胸ポケットから小さな呼び鈴を取り出して、それをチリンチリンと鳴らす。

 その合図で、数人のメイドが現れた。


「状況は見ての通りです。いつものように、あの部屋まで運ぶように」

「……あ、あの」

「なんですか? 早く動きなさい」

「でも、その……こんなことをいつまで続ければ……」

「主が望むのならば、私達はその手足となり働くまでのこと。つまらない疑問、疑念を抱くことなく、駒となり動きなさい」

「で、ですがっ……」

「死にたいのですか?」

「っ……!? わ、わかりました……」


 苦渋の表情を浮かべながら、メイドはハル達に近づいていく。

 その手がハルに触れようとした瞬間、


「えっ」


 突然、ハルの目が開いて、爆発的な速度で駆け出した。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 大人が子供みたいな笑顔になると、逆に怖い…無邪気であればある程。逆に、これでもかって位に悪意を乗せた笑顔もあるケド…今回は前者か。さて… …って、どうしたハル!?
[良い点] 準備万端!いざ敵陣へw [一言] もうすこし待ったほうが・・・ いきなりナイフで刺されないようだし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ