86話 勇者はどこ?
アーランドに置き去りにして以来、レティシアの行方は知らない。
なので、すっかり彼女のことを忘れていた。
というか、無事に撒くことができたと安心していた。
それなのに……
「えっと……それ、ホント?」
「それって、どれ?」
「レティシアを見かけた、っていう話」
「うん、本当だよ」
「それはいつ!?」
「えっと……アリスとナインと情報収集をしている時、ちょっとお腹が空いたから屋台に寄っていたの」
この子、割とフリーダムだな。
まあ、今に始まったことじゃないか。
「その時、レティシアを見かけたよ。一時はターゲットになったこともあるから、顔は知っているの」
「な、なるほど……」
アイツ、暗殺組織に狙われていたことがあったのか?
日頃の行いのせいかな……?
「ハルの敵なんだよね?」
「敵……と言っていいのかどうか、うーん……迷う」
ひどい扱いを受けてきたんだけど、もしも、外的要因があったとしたら?
レティシアが本心から望んでいることじゃないとしたら?
もしもそうだとしたら、レティシアに対する感情がどう変化するのか。
それは、自分でもわからなくて、予想がまったくできない。
「まあ、今後のことは置いておいて……まずは、今を考えないといけないか。シルファ、レティシアはどこで?」
「公園にいたよ。えっと……三時間くらい前かな?」
その頃、俺はダンジョンに潜っていた。
向こうはシルファのことは知らないだろうから、こちらのことがバレたというわけではなさそうだ。
とはいえ、油断は禁物。
同じ街にいれば、いつどこで遭遇してもおかしくはない。
騙したり置いてけぼりにしたりしているから、相当に怒っていると思う。
そんな状態で遭遇したら……ダメだ、考えるだけで頭痛がする。
それくらいにひどい未来予測しか思い浮かばない。
「どうしようかな……?」
「二手に分かれて、片方がレティシアを探す。ハルのところに行きそうになったら、どうにかして足止めをする。その間に、ハルは領主との面会を果たす……これが一番じゃないかしら?」
「アリスの言う通りにした方がいいかな」
「では、チーム分けはどうしましょうか? その……私は、できればハルさんと……」
「そうですね。お嬢さまは、ハルさまと一緒した方がよろしいかと」
「ナインっ! あぁ……あなたは、なんて頼りがいのあるメイドなのかしら」
「お嬢さまの願いを叶える従者としての立場もありますが……それだけではなくて、他に考えもあります」
「と、いうと?」
「お嬢さまは、アーランドの領主の娘。そんな相手が面会に来たとなれば、向こうも無下に扱うことはできないでしょう。多くの時間をいただき、たくさんの情報を得られる可能性があります」
「なるほど……さすがナインですね。そのようなことまで考えているなんて」
「ありがとうございます」
主に褒められて、ナインはぺこりと一礼する。
その耳は、ちょっと赤くなっていた。
照れているのかな?
だとしたら、この人、主のこと好きすぎるだろう。
「なら、あたしも同行するわね。ハルがうっかりをやらかした時、フォローできる人は多い方がいいでしょ?」
「はい、そうですね」
「いや、俺は別にやらかすなんていうことは……」
「「なにか反論が?」」
「……いえ、ありません」
アリスとアンジュが、にっこりと笑顔を見せた。
顔は笑っているんだけど、目が笑っていない。
俺……そんなにやらかしているのかな?
ちょっと、別の意味で自信がなくなってきたかも。
「私は、レティシアさまの足止めに回りましょう」
「なら、シルファも手伝うね。シルファのこと、領主は知っているかもしれないから、のこのこと顔を出すわけにはいかないし」
「じゃあ、自分は師匠に付いて……」
「「ダメです(だよ)」」
「速攻でダメ出し!? しかも、二人揃って!?」
ガーン、という感じでサナがショックを受けていた。
「サナは、ハル以上にボケボケ……ううん。ドラゴンだから、変なところで悪い興味を引いちゃうかもしれないからね」
「サナさまは、ハルさま以上に空気が読めない駄ドラゴンだから……いえ。レティシアさまを足止めするとなると、サナさまの力が必要になりますから」
「二人共、言い直すならもっと早くから言い直してくださいっす!? ボケボケとか駄ドラゴンとか、ちゃんと聞こえているっすからね!?」
「「……」」
シルファとナインは互いの顔を見て、
「「ん」」
にっこりと笑う。
「笑ってごまかそうとしているっす!? 荒業!?」
「はい、そこ。いつまでもボケていないで、これからのことをちゃんと話し合いましょう」
「自分のせいっすか……? うぅ……」
がくりと落ち込むサナが、ちょっとかわいそうだった。
でも、連れて行くとトラブルを招きかねないという二人の意見には賛成で……
というか、実際にダンジョンでもトラブルを巻き起こしていたんだよね。
地雷を踏み抜いたり、冬の女王戦で暴走したり。
だから、かわいそうだけど、ナインのチームで動いてほしい。
なんだかんだで、サナの力が必要なるっていうことも事実なんだよね。
「チーム分けは決まりかな?」
「ハル、あたし、アンジュは領主との面会。ナイン、シルファ、サナは、レティシアを探して、必要とあらば足止めをする」
「私、ハルさんのためにがんばりますっ!」
「シルファもがんばるよ。ハルは、色々と大切なことを教えてくれたから」
「お嬢さまの望むこと、ハルさまの望むこと。それを叶えることが、私の役目でございます」
「メタクソに言われたっすけど、でもでも、汚名挽回するためにがんばるっすよー!」
みんな、やる気にあふれていた。
ちなみに……サナの言う汚名挽回は間違いだからね?
正しくは、汚名返上だから。
そんな間違いをしているから、色々と言われてしまうのだと思う。
「ハルさま。念の為にこちらを」
ナインが、不思議な輝きを放つネックレスを渡してきた。
「これは?」
「一度だけですが、任意の場所に転移することができる魔道具です。不慮の事態に遭遇した時は、こちらを」
「うん、了解。ありがとう」
ナインの心遣いがうれしい。
ネックレスを身に着けておいた。
「ハル、どうする? すぐに動く?」
「そうだね……うん、時間が経つと、レティシアっていう不確定要素がどうなるかわからないから、すぐに動こうか」
「決まりね。きちんと目的が達成できるように、がんばりましょう」
「ああ、そうだね。がんばろう」
「「「おーっ!」」」
団結している心を示すように、みんなは元気よく声を揃えるのだった。
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