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85話 人が変わる

 冬の女王を倒したことで、キラキラと輝く手の平サイズのクリスタルを手に入れた。

 鉱物に関する知識はないものの、これがとんでもなく貴重なものであろうことは予想できる。


 なにしろ、希少種が落としたアイテムだ。

 類するものはほぼほぼないくらいに少なくて、ひょっとしたら、世界に二つとないかもしれない。


 これなら献上品としてふさわしい。

 たぶん、領主に会うことができるだろう。

 そう判断した俺達はダンジョンの探索を切り上げて、地上に戻ることにした。


 そして宿へ戻り、アリス達と合流する。




――――――――――




「なるほど……希少種なんてものがいるなんて、ここのダンジョン、なかなかに侮れないわね。伊達に迷宮都市、って呼ばれていないわね」


 こちらの事情を説明すると、アリスは厳しい顔でそう言う。


「というか、よく無事でいられたわね……」

「え? そんなにやばいヤツなの?」

「希少種って、特殊能力を持ったヤツが多いの。ハル達が遭遇した冬の女王なら、ドラゴンのブレスに対抗するほどの冷気を放つとか。あまりレベルは関係なくて、希少種全部が危険、っていうイメージなのよ」

「アリスさまのおっしゃるとおりです。希少種を相手にすれば、確かに大きなリターンを得ることができますが、それ以上にリスクが多いのです。普通のパーティーならば、逃げる以外の選択肢はありえません。仮に戦うとしても、最低、十人以上は集めなければいけないかと」


 二人のジト目が突き刺さる。

 そんな危険なことをするなんて、と怒っているらしい。


「えっと……」

「「……」」

「……ごめんなさい」

「「よろしい」」


 時に、男の方が色々な意味で立場が弱い。

 そんなことを実感させられる場面だった。


「でも、そのクリスタルは間違いなく貴重品だよ。これなら、領主に会えると思う」

「シルファがそう言ってくれるなら、確かだろうな」

「すぐに会いに行く?」

「その前に、アリス達が集めた情報を聞いておきたいかな」

「あ、そっか」


 忘れていた、という感じでシルファがつぶやいた。

 わりとうっかりさんなのかもしれない。


「あたし達が手に入れた情報は、それほど多くないわ。いくつかの噂がプラスされるくらいで、領主の目的とかはわからない状態ね」


 曰く、領主は都市の統治に興味はなくて、毎日遊び呆けている。

 曰く、圧政で得た金は上に流して、自分の立場を守っている。

 曰く、紅の牙、暗殺組織の他にも色々な暗部が隠されている。


 噂というだけあって、全部曖昧な情報だ。

 ただ、この都市の現状を見ていると、どれも本当のような気がしてきた。


「あと、おもしろい話を聞くことができたわ」

「おもしろい話?」

「領主、ミリエラ・ユルスクールについて」

「聞かせて」

「ミリエラは、あたし達と同じ冒険者だったらしいの」

「え、そうなの?」


 まさか、同業者だったなんて……

 思わぬ情報に驚いてしまう。


「だとしたら、すごい出世ですね。一冒険者が領主になるなんて話、私は聞いたことがありませんが……ナインはどうですか?」

「私も聞いたことがありません。貴族でありながら冒険者をしていう方が、後に領主などに就任するという例はなくはありませんが……」

「しかも、突然の領主交代。不審な話は多い。うーん……ものすごく裏がありそうだね」


 ただ、目的が不明なんだよね。

 領主になって贅沢三昧をしたい。

 そのために、あれこれと汚い手を使い、無理矢理領主の椅子を奪い取った。


 そう考えることもできなくはないんだけど……

 でも、そうなると、ジンを雇いアーランドにちょっかいを出してきた理由がわからない。


 あと、いくらなんでもやりすぎだ。

 圧政を敷けば、それだけ金を得ることはできる。

 でも、やりすぎると大きな反発を招いてしまう。

 領主の上……国が動く可能性があるし、それ以前に、民の反乱に遭うかもしれない。


 そのことがわからないダメダメな人、っていう可能性もあるんだけど……うーん?

 いまいちわからないな。


「一つ、気になる情報があるわ」

「それは?」

「ミリエラの昔の知り合いっていう人に話を聞くことができたんだけど……」

「シルファのおかげだよ。シルファ、その人のことを仕事絡みで知っていたんだ。えらい? えらい?」

「うん、えらいね」

「えへ」


 褒めて褒めてというように頭を差し出してくるので、シルファを撫でた。

 気持ちよさそうに、猫のような感じで目を細くする。


「「イチャイチャしないでくれる(ください」」

「……ごめんなさい……」


 アリスとアンジュに怒られてしまう。

 こころなしか視線と口調がいつも以上にきつい気が……ただ褒めただけなのに。


「話を戻すわよ。昔の知り合いっていう人に話を聞いたんだけど……ある日を堺に、ミリエラは人が変わったらしいわ」

「それって……」

「ええ、レティシアと同じね」

「……その話の信憑性は?」

「正直、なんとも。証拠があるわけじゃないの」

「ですが、性格が変わった後に領主になり、黒い噂が絶えない……偶然で片付けてしまうことは難しいと思いませんか?」


 アリスの言葉を引き継ぎ、ナインがそう言う。


 確かにその通りだ。

 これを偶然で片付けることはできない。


 ミリエラ・ユルスクールは、レティシアと同じように人が変わった。

 その後、領主になり……

 なにかしらの目的を抱いて、圧政を敷くなどの悪行を繰り返している。


「うん……わからないことは多いけど、それでも、ある程度は話が整理できたかな?」


 レティシアのこと。

 アーランドの事件。

 ミリエラを調べることが全ての答えに繋がると思う。


「調べてくれてありがとう。この情報があるとないとでは、けっこう違うし……領主に会う前に知ることができて、よかったよ」

「うん、どういたしまして」

「恩のあるハルさまのためならば、これくらいは」


 二人共頼りになるなあ。

 いつも助けてもらっている。

 恩返しって言うと少し大げさかもしれないけど、そのうち、なにかしらのお礼を考えてみよう。


「それじゃあ……準備が整い次第、領主に会い、直接情報を仕入れる、ってことでいいかな? 冬の女王からドロップしたクリスタルなら、文句なく面会できると思うし」

「ええ、それでいいと思うわ」

「あ、そうだ。ねえねえ」


 今思い出した、というような感じでシルファが問いかけてくる。


「シルファ、気になっていることがあるんだけど、ちょっといい」

「うん? それはどんな?」

「勇者……レティシアを見かけたんだけど、報告しておいた方がいいかな?」

「「「えっ」」」


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 謎が謎を呼び、謎という地層が積もりに積もって…しかもマグマみたいに流動して、さらに新しい謎が生まれていく…どんどん深みにハマる感じで…(笑)
[良い点] それ 早く言ってよ~ ですかw [気になる点] 領主といいレティシアといい 何かに操られてるのか? [一言] 希少種は勝つのも希少 勝った者はもっと希少w
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