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84話 冬の女王・決着

「ウソっす……」


 サナが唖然とした表情でつぶやいた。

 自慢のブレスが冷気に押し返されたのだから、その反応も当たり前かもしれない。


「うううぅ……希少種だかなんだか知らないっすけど、自分のブレスをはねのけるなんて生意気っす! むがあああああっ!」

「ちょ!?」

「ひゃあっ」


 プライドが傷つけられた様子のサナは、二度目のブレスを叩き込む。

 しかし、間にはファイア・シールドが展開されているわけで……


 アンジュが慌てて魔法を解除。

 その直後、サナのブレスが通過して、冬の女王を包み込む。


「ああもうっ、段取りがめちゃくちゃだ」

「サナさんって、直情的なんですね……」

「後で説教だね、これは」

「っ!?」


 説教という単語に反応して、サナがビクリと震えていた。


「さてと……どうしようかな?」


 冬の女王は、サナの二発目のブレスにも耐えていた。

 全力で冷気を放射して、それでブレスを相殺している。

 敵の戦力は予想以上だ。


 フレアブラストを叩き込めば、さすがに倒せると思うんだけど……

 こんなところで使うわけにはいかないということは、俺でも理解できる。

 そうなると、他に打つ手は……


「ノーリスクで勝てる相手じゃないか」


 こちらも、ある程度の覚悟を決めないと。


「サナ、そのままブレスをお願い」

「はいっす!」

「アンジュは、俺にファイア・シールドを」

「え……あっ、はい! ファイア・シールド!」


 光の膜に覆われたところで、サナと冬の女王の間に飛び込む。

 サナのブレスに晒されるものの、アンジュの魔法のおかげでダメージはない。


 とはいえ、いつまでも大丈夫というわけにはいかないはず。

 保って十数秒かな?

 その間に勝負を決めないと。


「キァアアアアアアッ!!!」


 甲高い声を響かせて、冬の女王はターゲットを俺に変更した。

 叩きつけるような激しい吹雪が襲う。

 強烈な寒さに、体のあちこちを針に刺されたような痛みが。


 こちらも十数秒しか保たないだろう。

 それをオーバーすれば、氷の彫像のできあがり。


 でも、そんなことにはならない。

 それだけの時間があれば十分。


「かなり強引だけど……これならっ! フレアソードッ!」


 無理矢理接近したところで、炎の剣を作り出した。

 体を捻りつつ、斜めに斬撃を繰り出す。


 刃の軌道に沿うようにして、冬の女王の体に亀裂が。

 さらに炎が移り、一気に燃え上がる。


「っっっ!?!?!?」


 声にならない悲鳴。

 最後の抵抗というように、でたらめに吹雪を飛ばしている。

 ダンジョンの壁や天井がみるみるうちに凍りついていく。


「これは……」


 まずいかも。

 今の一撃で仕留められると思っていたんだけど、やや浅かったのかな?

 今度、剣の練習をした方がいいかもしれない。


 なんて呑気なことを考えるのには、ちゃんと理由がある。

 トドメを刺せなかったとしても……


「師匠っ!」


 俺には頼もしい弟子がいる。

 だから、心配はしていない。


「うりゃあああああっ!!!」


 サナの突貫。

 全身を使ったぶちかましで、冬の女王を通路の先まで吹き飛ばす。


 間髪入れず、三度目のブレス。

 床を舐めるような紅蓮の炎が走り、冬の女王を飲み込む。


 万全の状態なら耐えられたかもしれないが、今は、俺が与えたダメージが残っている。

 傷口から炎が入り込み、内部から燃やし尽くしていく。


 そして……


「ァ……アアアァ……」


 ほどなくして、空気に溶けるように冬の女王が消えた。

 周囲の氷もすぐに溶けてなくなっていく。


「……ふう」


 勝った。

 そう確信したところで力が抜けて、その場に座り込んでしまう。


「危なかった……これ、ちょっとでも運が悪かったら、こっちがやられていたな」

「ハルさん!」

「アンジュ、怪我はない?」

「私は後ろにいたので……それよりも、ハルさんの方がひどいことに」


 言われるまま自分の体を見てみると、あちらこちらが凍りついていた。

 冬の女王は倒したものの、その攻撃の跡は消すことはできないらしい。


「そのままじっとしててください……セイクリッドブレス!」


 温かい光に包まれる。

 時間を巻き戻すかのように、凍傷跡が消えていく。

 凍りついていた部分も元通りに。


「うん……治った。ありがとう、アンジュ」

「いいえ、どういたしまして。それにしても……」


 眉を寄せて、アンジュに睨みつけられる。


「もうっ……ハルさんは無茶をしすぎです! あんな風に、敵の攻撃を受けることを覚悟で突撃するなんて……見ている私の方になってください。どれだけハラハラしたことか……うぅ、うううううー!」

「あ、アンジュ……?」

「ハルさんはバカです、バカですよっ、バカバカバカ!」


 涙目になったアンジュに、ぽかぽかと叩かれてしまう。

 それだけ心配をかけてしまったんだろう。

 そのことが申しわけなくて、でも、そこまで心配してもらえることがうれしくて……


「うん……なるべく無茶はしないから」

「なるべく、なんですか……?」

「アンジュやサナ、みんなが危険な時は、やっぱり無茶はするかも。だから、約束はできないけど……でも、アンジュを泣かせるようなことはしたくないから、絶対に死んだりしないって、そこは約束するよ」

「……はい」


 アンジュは涙目になりつつも、柔らかく笑うのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] サナ、懲りてないな… でも、イザという時を考えるとなかなか止める訳にもいかないし…
[良い点] なかなか手ごわい敵であった サナ説教一時間なw
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