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83話 冬の女王

「うわ……」


 思わず声を失ってしまうような光景が広がっていた。


 つららさえ作られている通路に、複数の魔物が見えた。

 ハイゴブリン。

 ゴブリンの上位種で、レベルは……22だったかな?

 アリスに頼ってばかりいられないと思い、自分なりに勉強をしたので知っている。


 そんな魔物に囲まれているのは、見たことのない魔物だった。


 一見すると、二十代後半の女性に見える。

 ただ、肌は病的なまでに白い。

 髪も着ている服も白い。


 手の平を上に向けていて、その上に宝石のようなものが輝いていた。

 その宝石がキラリと輝く度に、ゴォッ! と吹雪が吹き荒れる。


 それは、まるで雪の刃。

 触れるものを切り刻み、近づくものを氷漬けにする。

 ハイゴブリン達は、一匹、また一匹と倒れていく。


「なんだろう、あれ……」

「やばいっすね……」


 俺とサナは揃って顔を青くした。


 魔物の仲間割れなのか知らないけど、とんでもない現場に遭遇してしまった。

 ハイゴブリンをあっさりと倒す女性型の魔物。

 こんな環境にいるということは関係なしに、見ていると寒気を覚える。

 あれは……やばい。


「もしかして……」

「アンジュ、心当たりが?」

「はい。もしかしたら、あれは『冬の女王』という希少種かもしれません」

「冬の女王?」


 聞いたことのない魔物だ。

 というより、希少種という名前自体知らない。


「その……希少種、っていうのは?」

「とある条件が重なることによって、独自の進化を遂げた、世界で唯一無二の個体でしょうか? ごく稀に、そういう個体が発生することがあるんです。だから、希少種と呼ばれています」

「なるほど」

「独自の進化を遂げているため、その能力は未知数。でも、大抵はオリジナルよりも大幅にパワーアップしています。冬の女王は、以前に確認されたことのある希少種です。確か……雪の精が進化した個体だったかと」

「じゃあ、この階層が凍りついているのは……」

「はい。十中八九、あそこにいる冬の女王の仕業かと」

「まいったな……ちなみに、レベルとか能力とかはわかる?」

「レベルは、えっと……五十前後だったはずです。能力は……すみません、よくわからないです」

「レベルがわかるだけでも十分だよ」


 五十前後なら、決して倒せない相手じゃない。

 一応、俺は五十よりも上で……

 それに、こちらにはサナがいる。

 戦うことになっても、悪い展開にはならないと思う。


「ハルさま、どうしますか?」

「自分はいつでもいけるっすよ」


 戦うべきか、避けるべきか。

 少し考えた後に決断を下す。


「戦おう」


 ハイゴブリン達が全滅したら、次の獲物は俺達になるかもしれない。

 安全を確保するためにここで叩いておきたい。


 あと、希少種と呼ばれているのなら、貴重な素材を手に入れられるかもしれない。

 うまくいけば、それを材料にして領主に面会することができるかも。


 相手の能力がわからないという不安材料はあるのだけど……

 でも、ここは出るべきと判断した。


 その考えをアンジュとサナに話そうとして……

 それよりも先に、二人はなにも言わなくていいよ、という感じで小さく頷く。


「私はハルさまの判断を尊重します」

「どこまでもついていくっすよ」

「……ありがとう」


 二人からの厚い信頼を感じて、こんな時だけどうれしくなる。

 アンジュとサナと一緒なら、きっとうまくいくだろう。

 そんな確信が生まれた。


「利用するようで悪いけど、ハイゴブリン達が全滅した後を狙おう。獲物を倒した後っていうことで、少しは油断してくれるかもしれない」

「どう攻撃するっすか?」

「不確定要素があるから、接近戦はやめておこう」


 あの刃のような吹雪でズタズタにされてしまうかもしれない。

 攻略法がわからない以上、無闇に突撃しない方がいい。


「アンジュ、防御魔法は使える?」

「はい、大丈夫です。シールドと、各属性のシールド……例えば、炎を防ぐファイアシールドなどを一通り使えます。さらにその上の、ハイシールドはまだ習得していませんが……」

「うん、それで十分。俺はファイアで。サナはブレスで、それぞれ合わせて攻撃。アンジュはファイアシールドを使って、乱反射するであろう炎を防いで」

「わかりました」

「くくくっ、自分の炎に抱かれて逝かせてやるっす」


 サナが悪い顔をして、チロリと口の端から火をこぼす。

 闘争本能が刺激されているみたいだ。


「それじゃあ、1・2・3、でいくよ。二人共、準備は?」

「大丈夫です」

「うっす!」


 ちらりと顔をのぞかせて、冬の女王の様子を見る。

 ちょうど最後のハイゴブリンを氷漬けにして、砕いたところだった。


「1……2……」

「いくっす!」

「ちょっ!?」


 カウントを終えるよりも先に、サナが飛び出してしまう。

 サナは軽く上体を逸らして……

 それから、前かがみになるようにして、口からブレスを吐き出した。

 超高温の熱射線が、冬の女王ごと氷漬けの通路を薙ぐ。


「ああもうっ」


 タイミングが狂った。

 慌てて俺とアンジュも飛び出す。


「ファイアッ!」

「ファイア・シールド!」


 紅蓮の炎を召喚して、追撃をしかける。


 狭いダンジョン内なので、いくらかの炎が反射してくるのだけど……

 それは、アンジュの展開した炎属性の魔法の盾によって防がれる。


 結果、冬の女王だけが猛火に晒されることになり、


「キィイイイーッ!!!」


 金属がこすれるような悲鳴が響いた。


 よし。

 やや不安だったけど、ちゃんとダメージを与えられているみたいだ。


 このまま押し切る……ことができればよかったんだけど、世の中、そんなに甘くないみたいだ。


「キィアアアアアッ!!!」


 冬の女王が再び叫ぶ。

 今度は悲鳴じゃなくて、怒りに燃える雄叫びみたいだ。

 その声に反応して、冬の女王の体から圧倒的な冷気が放射される。

 それは、俺の魔法とサナのブレスを飲み込み、全てを凍てつかせていく。


『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] このトカゲ…ひょっとしたら大ピンチを招いただけなんじゃ…(苦笑) [気になる点] 万が一敵じゃなかったら…うわぁ(微笑)
[良い点] 名前はアナ か?w 雪女じゃなくて雪の女王か [気になる点] サナの先走り 寒さに弱いくせにw [一言] 仲間になったりしない?w
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