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80話 改めてダンジョンへ

 シルファの問題はこれで終わり。

 もちろん、全部が全部、解決したわけじゃない。

 シルファのしてきたことが公になれば罰は避けられないだろうし……

 いつか、彼女が手にかけた被害者との接点が出てくるかもしれない。

 その時、シルファの心と魂が真に試されることになるだろう。


 ただ、今はそれらの問題は保留だ。

 やるべきこと……本当に戦わなくてはいけない黒幕の元へたどり着かないといけない。


 シルファの件……そもそも、彼女が全面的に悪いとは言えない。

 聞けば、子供の頃に組織に拾われたという。

 小さな頃に人殺しの技術を教えられて、生きるためには殺すしかないと洗脳する。

 ある意味では、シルファも被害者だ。

 真の悪人は組織であり、また、その背後にいるであろう領主だ。


「でも……ちょっと不思議な話ね」


 改めて話を整理していると、アリスが小首を傾げる。


「迷宮都市の領主って、少し前に就任したんでしょ? それなのに、それよりもずっと前から暗殺組織なんて作っていたの? いったい、何者なのかしら?」

「それは確かに……」


 暗殺組織のトップに君臨していた者が、色々な手を使い領主の椅子を手に入れたのだろうか?

 それとも、いずれ領主になることも計算して、事前に暗殺組織を作っておいたのか?


 どちらにしても厄介な相手だ。


「シルファは、領主について知っていることはないのか?」

「うーん……ちょっとよくわからないかな。話はちょくちょく聞くけど、たぶん、ハル達が聞いているのと変わらない噂話くらい。直接会ったことはないよ」

「その素性は謎に包まれたままなのですね……」

「わからないことをあれこれ話してても仕方ないんじゃないっすか?」


 あっけらかんとサナがそう言う。


「……確かに、その通りですね」


 ナインがサナに賛同した。


「色々と推測することはできても、答え合わせをすることができません。ならば、当初の予定通りダンジョンへ潜り、武勲を立てる。そうすることで領主への面会を果たすのが、今できることではないでしょうか?」

「そうですね……ナインの言う通りかもしれません」

「ただ、それとは別に領主の情報も集めておきたいところだよね」


 領主に面会するチャンスを得ることは必要。

 でも、情報が少ないと、せっかくのチャンスを無駄にしてしまうかもしれない。


 例えば、俺達がまだ知らない噂があったとして……

 その情報を事前に入手しておくことで、面会の時にその噂の真偽を確かめることができるかもしれない。

 あるいは、大胆にその噂について質問してもいいかもしれない。


 そんな感じで、並行して情報を集める必要があると思う。


「なら、情報収集はあたしが担当するわ」

「一人では大変でしょうし……ナイン、アリスさんを手伝ってあげてください」

「はい、かしこまりました。メイドの情報収集能力、お披露目いたしましょう」

「うん、頼りにしているわ」

「シルファも手伝うよ」

「いいの?」

「うん。シルファは、もう組織には戻らないから。ハル達の力になりたい。それに、シルファがいれば、組織のこともちょっとはわかると思うから、今ならお買い得」

「商店じゃないんだから」


 アリスは笑いつつ、シルファに手を差し出した。

 彼女はその手を握り、小さく笑った……ような気がした。


 見間違いかもしれないし、本当に笑ったのかもしれない。

 今はよくわからないけど……

 いつか、ハッキリとした笑顔を見られるようになるといいな、と思う。


「じゃあ、ダンジョン攻略組は俺とアンジュ。それとサナ、っていうところかな」

「ハルさまの足を引っ張らないように、がんばります!」

「足を引っ張るとか、そんなことはないと思うけど」

「いえ、私はまだまだですから。下手をしたら、ハルさまに迷惑をかけてしまうかも……」

「いいんじゃないかな?」

「え?」

「俺達はパーティーなんだから。失敗したとしても、助け合うのが普通でしょ? だから、そんなに気負わないで」

「……ハルさま……」


 アンジュの視線がこちらに固定される。

 その頬は、なぜか赤く染まる。

 こころなしか瞳も潤んでいるようだけど……どうしたんだろう?


「……あっ」


 ほどなくして我に返った様子で、アンジュが視線を逸らした。

 そのまま、あわあわする。


「な、なんでしょう……胸が痛いです……」

「え? 大丈夫?」

「は、はい。病気とか怪我とか、そういう感じではなくて……うぅ、いったいなんでしょう、この気持ち?」

「うーん、なんだろうね……?」


 一緒になって考えるものの、答えにたどり着くことができない。


「「……鈍感コンビ……」」


 そんな俺達を見て、アリスとナインが同時になにかつぶやいたような気がしたけど、よく聞こえなかった。




――――――――――




 チーム分けが済んだところで、さっそく行動に移ることにした。

 アリス達、情報収集チームは街へ。

 俺達、ダンジョン攻略組はダンジョンへ。


「うわっ、本当に構造が変わっているっす!?」


 再びダンジョンに足を踏み入れると、内部の構造が最初の時と変化していた。

 一定時間毎に構造が変わるという話は聞いていたけど……

 いざ目の辺りにすると、さすがに驚いてしまう。


 いったい、どういう仕組になっているんだろう?

 ダンジョンに潜っている時に構造が変化したら、どうなるんだろう?


「そういう時は、事故が起きやすいみたいですよ」


 俺の疑問にアンジュが答えてくれる。


「新しく壁ができたり、床が消えたりするみたいです。その速度はゆっくりとしたもので、挟まれたり落ちることは滅多にないみたいですが……ただ、慌ててしまいパーティーが分断されるという事故は、それなりの数があるみたいです」

「なるほど……俺達も気をつけないといけないね」

「大丈夫っす、師匠! いざとなれば、自分が壁をぶち破るっす!」

「あの、それは……最悪、ダンジョンが崩落してしまうので、やめておいた方がよろしいかと……」


 普通の人が言うとただの冗談で済ませられるけど、サナはドラゴンだからなあ……

 アンジュが言うように、本当に崩落させてしまいそうで怖い。


「ぶち破るのはダメだからね?」

「ダメですよ?」

「それは、逆にやれっていう振りっすか?」

「「違うから(ますから)!!」」


 ドラゴンなのに、どこで振りとか覚えてくるのやら。


「とりあえず……目指すは最下層。あるいは、今までに見たことのない宝。それを目指していこう」

「はい」

「ラジャーっす!」


 頼りになる仲間を連れて、再びダンジョン攻略に挑むのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 『新しく壁ができたり、床が消えたりするみたいです』 『慌ててしまいパーティーが分断されるという事故は、それなりの数があるみたいです』 『いざとなれば、自分が壁をぶち破るっす!』 『あの、…
[良い点] 絶対に押すなよ はサナに言ってはいけないなw [一言] あつあつのお餅巾着食わせたいw
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