8話 レティシア視点・その1
「……ヒール」
私は回復魔法を使い、ボロボロになった体を癒やした。
勇者なので、神官や聖女ほどではないものの、多少は回復魔法を使うことができる。
ハルのバカ魔力が込められた魔法でボロボロになっていた体が、少し回復して、痛みが緩和される。
まだ痛みは残っているけど……
でも、そんなことはどうでもよかった。
「……ハル……」
まさか、ハルがパーティーを抜けるなんて……
私の管理下から抜け出すなんて……
ギリッ、と奥歯を噛む。
ハルのくせに……!
そんな生意気なことをするなんて、許せない。
絶対に許せない!
ハルは私のもの。
私以外が手を触れていいものじゃないし、優しくしてもいけない。
私だけが許されていることで……
「……あれ?」
でも、なんで……
私は、これだけハルに執着してるのかしら?
ハルは雑魚で、どうしようもないほどに役に立たなくて……
あんなグズ、いない方がせいせいするはずなのに。
でも、あたしはハルを手元に置いていた。
傍にずっと置いておいた。
それは……なんで?
「うあ……!?」
頭が痛い。
割れてしまうくらいに、ギリギリと痛む。
なんで、こんな……急に……
ハルのことを考えていたら、頭が痛むなんて……あいつ、疫病神なのかしら?
「くうううっ……」
私はフラフラになりながら、街の宿に戻った。
ハルなんかとは一生縁のないような、高級宿だ。
一階で飲んでいた仲間たちが、ボロボロになった私を見て、何事かと慌てる。
にっこりと笑い、なんでもないとごまかしておいた。
雑魚のハルを引き留めようとして、断られて、負けたとか……
そんなこと、話せるわけがない。
それから私は部屋に戻り、装備を脱いで、ベッドに寝た。
ぼーっと天井を見つめる。
頭は……まだ痛い。
「なんなのよ、これ……どうして、ハルのことを考えると、頭が痛くなるのよ……!」
正確に言うと、なんでハルを管理しなければいけないのか? ということだ。
その点について考えると、ひどい頭痛に襲われてしまう。
なら、考えなければいい。
ハルなんて、忘れればいい。
所詮、雑魚。
今回は、たまたま私に勝ったけれど、それは単なるまぐれ。
もう一度やれば、必ず私が勝つ。
その次も、そのまた次も……全部、私が勝つはずだ。
そんなハルを手元に置く理由なんてない。
忘れてしまえばいい。
戻ってきたいといっても、無視してやればいい。
それだけのはずなのに……
「なんで、私は……!」
ハルのことを忘れようとしても、気にしないようにしようとしても。
どうしても、そうすることができない。
ハルのことばかり考えてしまう。
今も、そうだ。
とんでもない頭痛に襲われているのに、ハルのことを考えずにはいられない。
これは、なんで……
「……あっ」
不意に思考がクリアーになる。
頭痛も消える。
その原因は……私が、一時的にではあるけれど、本当のことを思い出したから。
「……ハル……」
私は……
誰よりも愛しい人の名前を口にした。
「ごめん……ごめん、なさい……ごめんなさい、ハル……」
自然と涙がこぼれ出た。
ハルにひどいことをした。
心を傷つけて、楽しそうに笑うという、最低の行為をした。
ハルが怒り、私に愛想を尽かして、パーティーを出ていくのは当たり前だ。
私に毎日ひどいことをされて……
それでもなおパーティーに残るとしたら、それはもう、聖人と呼ぶしかない。
でも、ハルは普通の人だ。
とんでもない才能があるものの、でも、普通の人だ。
普通に笑い、普通に泣いて……普通に心が傷つく。
そのことを誰よりも理解しているはずなのに、私は……
「でも……これは……ハルのためだから」
どんなにひどいことをしたとしても。
逆に、ひどいことをされたとしても。
私は、私の今までの行動を否定しない。
むしろ、必要なことだと肯定する。
なにに対して必要なのか?
それは……
「私が管理しないと……ハルが、死んじゃう……」
この世のどんな宝物よりも。
最高に名誉よりも。
どんなものよりも、ハルの命が大事。
だから、どれだけ嫌われたとしても。
私は、今まで通りにする。
ハルにひどいことをし続ける。
その体をなぶり、心を傷つけていく。
私は……後悔なんてしていない!
そして、これからも後悔なんて絶対にしない!
そんなもの、してやるものか!!!
「待っていなさいよ、ハル……また、捕まえてやるんだから……! そして、今度こそ……助けてみせるから……だから、その時は……」
そこで、体力と気力が限界に達して……
私の意識は途切れて、深い眠りについた。
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