79話 断罪
突然の爆弾発言に、アリスを始め、みんなの目が丸くなる。
そんな中、俺は頭を抱えていた。
そうだった……シルファは、そういう子だよな。
普通の人なら黙っているようなことを、あっさりと口にしちゃうんだよね。
口止めしておけばよかった。
そう後悔するものの、すでに遅い。
「ど、どういうことですか? シルファさんが殺し屋なんて……」
アンジュはあからさまに動揺していた。
なにかの間違いだろうと、こちらを見て訂正を求める発言を期待する。
「えっと……」
ここでうまいことごまかせればいいんだけど……
俺はそんなに口が上手じゃない。
むしろ下手な方で、なんて言えばいいかわからず沈黙してしまう。
それを肯定と受け取ったらしく、みんなが驚きの顔に。
そんな中、シルファは平然としていた。
逆に、なんで驚いているの? と不思議そうにしていた。
「それじゃあ……シルファは、領主側の人だった、っていうことかしら?」
「うん、そうなるかな」
アリスの問いかけに、シルファはあっさりと頷いてしまう。
いやいや、それはダメだよ。
そこは適当にごまかしておかないと。
心の中でツッコミを入れるものの、それはシルファに届かない。
隠しておいた方がいいことを、次々と暴露してしまう。
「シルファは、領主が作った暗殺組織に拾われたんだ」
「っていうことは……人を?」
「うん、殺したことあるよ。ハルもターゲットになったかな」
「えっ!?」
アリスがびっくりした様子でこちらを見た。
もうごまかせないと思い、小さく頷く。
「驚いた……なにかしらあるだろうとは思っていたけど、まさか、殺し屋だったなんて」
「しかも、ハルさまを狙うなんて……」
アリスとアンジュは険しい顔に。
当たり前だけど、シルファに対して強い視線を向ける。
「……今はどうされているのですか?」
一方のナインは、あくまでも冷静だった。
固い声からは、二人のように怒っていることがうかがえる。
ただ、それをストレートにぶつけるような真似はしないで、まずは現状がどうなっているのか確認しようとしていた。
「殺し屋は、もうやめようと思っているよ」
「そうなのですか?」
「うん。死んじゃうっていうことは……ダメなことだってわかったから」
普段、無表情のためわかりづらいが……
シルファは沈んだ顔をしていた。
シロのことを考えているのだろう。
「でも、私がしてきたことは消えないからね。ハルを狙ったことも事実。だから……好きにしていいよ」
そう言うシルファはひどく落ち着いていた。
そういう性格という点を考慮しても、落ち着きすぎているような気がした。
それは、まるで殉教者のようで……
「……そういうことか」
シルファの考えていることをようやく理解する。
断罪してほしいのだろう。
シロの死がきっかけになって、シルファは自分がしてきたことの罪に気がついた。
やってはいけないことを繰り返してきたことを自覚した。
それは決して許されないこと。
そう考えたシルファは、断罪されることを求めたのだろう。
だからこそ、バカ正直に全てを話した。
なにも隠さずに全部を打ち明けることで、断罪されようとした。
「……」
俺は、あえてなにも言わずにいた。
ここでシルファをかばうことは簡単だ。
でも、彼女はそんなことを望んでいないだろう。
どんな結末になったとしても、最低限のけじめをつけようとしているのだから。
そんなシルファの想いと決断を尊重した。
それに、みんななら決して悪いことにはしないはずだ。
「なら、あたしの考えを言うわね」
最初にアリスが口を開いた。
どこか険しい顔をして、シルファのことをまっすぐに見つめる。
「ハルを狙っていたっていうのは許せないわね。殺し屋として活動してて、たくさんの人を殺してきたっていうのも、許されないことよ」
「うん、そうだね。だから、どんな罰でも受け入れるよ」
「なら……生きなさい」
「え……?」
「生きて償うの。悪いことをしたぶん、良いことをしていきなさい。そうすることが絶対的に正しいなんてことは言えないけど……でも、あたしはそうするべき、って思うわ」
「私もアリスさんに賛成です」
アンジュが続く。
その顔はとても優しく、まるで聖母のようだ。
「罪に罰は必要です。しかし、命を投げ出すことが正しいとは思えません。シルファさんは、生きるべきです」
「でも、シルファは……たくさん殺したよ?」
「ですが今、シルファさんは生きています。やり直すことはできます。生きている限り、生き抜こうとするべきです。生きることができなかったシロさんの分まで」
「あ……」
シロの話が出てくるとは思っていなかったらしく、シルファがキョトンとなる。
次いで、くしゃりと表情が歪む。
涙が溜まり……でも、我慢しているのか雫はこぼれ落ちない。
我慢する必要なんてないのに。
「あのさ」
最後に俺が口を開く。
「シルファのやったことは許されないことだと思うよ」
「うん……」
「でも、やり直すことも許されないなんて、そんなことは思わない」
「うん……」
「俺は、シルファに生きていてほしい。これからも、一緒にいたいと思う」
「うん……」
「だから、一緒に行こう」
「……いいの?」
小さな声で問いかけてくるシルファは、迷子になった子供のようだった。
たぶん……ずっと、シルファは迷い続けてきたのだろう。
生きるために殺し屋なんてものになって、でも、それは本心から望んだことじゃなくて……
ただただ状況に流されて、どうすればいいかわからなくて。
だから俺は、シルファを導くことができればと思う。
その手を取り、一緒に歩いていきたいと思う。
楽しいことも辛いことも、一緒に分かち合いたいと思う。
だから……
「シルファ」
手を差し出した。
「……うんっ!」
シルファは涙を流しつつ、俺の手を取った。
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