76話 死闘・その2
「いい……いいぞっ、すばらしい!!!」
突然、シニアスが叫ぶ。
歓喜の表情を浮かべて、何度も何度もすばらしいと叫んでいた。
「俺と戦い、まだ生きているなんて! お前達のようなヤツは初めてだ。いいぞ、すばらしいぞ……あぁ、なんてたまらないのだろうか。このような戦いを俺は求めていたのだ。ははは……あははははっ!!!」
「コイツ……正気か?」
「正気に見えるとしたら、師匠は目を診てもらうことをオススメするっす」
「だよね……」
自分の命を省みることなく、ただただ戦うことのみを追い求めている。
異常だ。
完全に狂っている。
いったい、どんな経験をしたらこんな風に歪んでしまうのか?
どのような道を歩いてきたのか?
多少の興味を覚えるものの……
今はそれを追求している場合じゃないか。
最悪、殺す覚悟で戦わないと、逆にこちらが殺されてしまう。
「……慣れないなあ」
レティシアと別れ、アリスと出会い……そこそこの戦いを経験してきた。
でも、同じ人同士で本気の殺し合いをしたことなんてない。
ジンを捕まえた時も、彼を殺す気なんてゼロだ。
だから、人を殺すという覚悟を持つことができない。
甘いと言われてしまえば、それまでなんだけど……
言葉が通じる相手……ましてや同じ人を殺すなんてこと、イヤなんだよな。
そんなことに慣れたくない。
でも。
ここで退くことはできないし、見逃してもらえることはないだろう。
サナが一緒にいるし……下手をすれば、アリス達が狙われてしまうかもしれない。
それはダメだ。
だから……やれる限りのことはやろう。
「サナ、タイミングを合わせて」
「ラジャーっす」
小声で打ち合わせをしておいた。
この短いやりとりで理解してくれるのは、本当に助かる。
「今日は良い日だ……最高の殺し合いをしよう!」
狂気の笑みを浮かべつつ、シニアスが駆けてきた。
体を低く、被弾面積を少なくしての突撃だ。
その状態から体を捻り、回転しつつ剣を薙ぐ。
超高速の斬撃。
正直なところ、視認できない。
だから、勘で避けた。
「師匠!」
「俺は平気だから……今っ!」
「うりゃあああああっ!」
「ファイアッ!」
サナがブレスを吐いて、それと同時に魔法を唱える。
二つの炎が重なり、紅蓮の業火となりシニアスを襲う。
多少のバックファイアは覚悟しつつ放った、サナとの合体技だ。
通路を埋め尽くすように炎が広がり、床と壁と天井を焼いている。
避けるスペースなんてない。
逃げる時間もない。
そのはずなのに……
「オオオオオォッ!」
「なっ!?」
シニアスは、あえて迫りくる炎に突撃した。
体を半身に構えて、最小限のダメージで炎の波を乗り越える。
まさか、自ら炎に飛び込むなんて。
確かにそれが最適解なんだけど、だからといって、本気で実行できるかどうかは別の話。
それしか道がないとわかっていても、炎の壁に飛び込める人はなかなかいないだろう。
「トリプルスラッシュッ!」
シニアスの長剣スキルが発動して、三連撃が放たれた。
一撃目、二撃目を後ろに跳んで避ける。
「師匠!」
三撃目は、サナが前に出て防いでくれた。
今のはかなり危ない、本当に感謝だ。
「音速剣っ!」
それなりの距離があるはずなのに、シニアスは剣を縦に振る。
相変わらず視認できないほどの速度だけど、いくらなんでも距離が足りない。
「なにをして……っ!?」
瞬間、ゾクリと悪寒を覚えた。
死神が鎌を振り上げているかのような、絶望的な感覚。
頭の中で警報がうるさいくらいに鳴り響いて……
本能に従うまま、俺は横に跳ぶ。
直後……ザンッ! と、さっきまで立っていた場所をなにかが通り抜けていく。
「今のは……!?」
「音速剣を避けるか……いいぞっ、素晴らしい! 今までのヤツは、俺の目にかなったと思っても、音速剣で死んで俺を失望させていたものだ。しかし、お前は違う。初見であるにも関わらず、避けることができた……本当に素晴らしい相手だ。最高に殺し甲斐があるぞっ、いいぞいいぞいいぞぉっ!!!」
シニアスは剣を深く構えて、再び、遠く離れた場所で振り放つ。
一瞬、空気が揺らぐのが見えた。
「まさか……」
超高速で剣を振り、その衝撃波で攻撃している!?
慌てて剣を振る軌道上から体を逃した。
再び剣撃の音が間近で響いて、ダンジョンの壁に亀裂が入る。
「し、師匠!? 大丈夫っすか!? っていうか、なにが起きてるんっすか!?」
「たぶん、だけど……衝撃波を発生させる長剣スキルを使用しているんだと思う。遠くからの攻撃が可能で、ほとんど見えない。もちろん、速度も威力も抜群」
「な、なんすか、それ……めっちゃ反則技じゃないっすか」
「くくく……たったの二回で俺のスキルを見破るか。素晴らしいぞ。その首、ぜひ貰い受けるとしようか」
シニアスが再び剣を深く構えた。
ヤツの長剣スキル……音速剣といったか?
かなりの反則技だけど、付け入る隙がゼロというわけじゃない。
一撃一撃を放つ度に、剣を深く構えないといけないらしい。
それと、衝撃波が発生するのは剣を振った後。
一応、攻撃のタイミングはわかるということになる。
「とはいえ……」
不可視の攻撃。
風のように速く、ギロチンのように一撃が重い。
さながら、カマイタチというところか。
このスキル、どうやって攻略すればいい……?
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




