75話 死闘・その1
「やる気になってくれたようでうれしいぞ」
「強制的にさせられたんだけどね」
「さあ、存分に戦いを楽しもうではないか……いくぞっ!」
シニアスが剣を構え、突撃してきた。
そのまま流れるような動作で、剣を下から上へ振り上げる。
「くっ!」
速い。
稽古と称したレティシアのリンチを受けていなければ、避けられなかったかもしれない。
しかし、まだ安堵するのは早い。
上へ振り抜いた剣が生き物のように動いて、すぐさま反転。
下に落ちてくる。
剣が生きているかのような、変幻自在の動き。
これはまた、厄介な!
「シールド!」
二撃目は避けられないと判断して、魔法で防いだ。
ギィンッ、と鉄と鉄がぶつかるような音が響いて……
ザンッ!
「うそっ!?」
シニアスは両手で剣の柄を強く握り、全体重を乗せて踏み込んできた。
そのまま魔力で編み込まれた不可視の盾を切り裂いてしまう。
レティシアの攻撃も防いだことがあるのに……
コイツ、それ以上の火力を叩き出すことが?
「師匠っ!」
こちらのピンチを悟り、サナが突貫してきた。
弓を構えるように拳を引いて、一気に前へ突き出す。
ゴォッ!
風を巻き込むような痛烈な一撃。
しかし、あまりに隙が大きいため、簡単に避けられてしまう。
「ドラゴンとはこの程度か……がっかりだな」
シニアスはカウンターの剣撃を叩き込むが、
「がっかりなんてさせないっすよ!」
「む」
なんと、サナは剣を手の平で受け止めてみせた。
忘れがちではあるけれど、サナはドラゴンだ。
そこらの剣が通じるはずもなくて、簡単にはじいてしまう。
「捉えた、っす!」
「ちっ」
サナの拳がシニアスの体を打つ。
その威力はすさまじく、紙のように簡単に鎧を突き破る。
……しかし、それ以上にシニアスの技量が恐ろしい。
自身の体にサナの拳が届く寸前……ギリギリのところを見極めて、後ろへ跳ぶ。
同時に剣を振り、サナの追撃を防ぐ。
一秒でも行動が遅れていたら、サナの拳が突き刺さり、そこで終わっていただろう。
「……すさまじい威力だな」
シニアスは穴の空いた鎧をチラリと見た。
それから、こちらに視線を戻して……愉しそうに唇の端を吊り上げる。
「くくくっ……いいぞ、その調子だ。もっと俺を楽しませろ、俺に生を感じさせろ」
「うわっ……コイツ、なんかやばい目してるっすよ」
「こんなのに目をつけられたのを運の尽きと思うか、あるいは、手遅れになる前に対峙することができてよかったと思うべきか、どっちかなあ」
「師匠、前向きすぎないっすか?」
仕方ないさ。
そう思わないと、さすがにやっていられない。
「さあっ、俺を楽しませろ!」
歪な笑みを顔に貼り付けたまま、再びシニアスが駆けてきた。
その速度は圧巻の一言。
一瞬で俺の懐に潜り込み、剣を閃かせる。
「ファイアボムッ!」
迎撃の魔法を放つが、
「ぬるい!」
衝撃波を真正面から浴びながらも、シニアスは止まらない。
コイツ、本当に人間か?
今の魔法、直撃したら、良くて打撲、悪くて骨折というくらいの威力がある。
それなのに耐えてしまうなんて……くっ!
「シールドッ!」
一撃目を魔法で防いだ。
先の魔法で、さすがに勢いは衰えていたらしく、不可視の盾が切り裂かれるという事態には陥らなかった。
ただ、シニアスはすぐに体勢を立て直して、二撃目に移行する。
「師匠っ!」
サナが横から突撃してきて、ジャンプ。
くるくると回転しつつ、シニアスに蹴撃を連続で浴びせる。
「ほう、お前はドラゴンではなくて曲芸師なのか?」
「あわわわっ!?」
数発の蹴撃を受けながらも、シニアスは前に出て、逆にサナの足を掴んだ。
そのまま地面に叩きつける。
「かはっ!?」
刃は防ぐことはできても、衝撃は防ぐことはできない。
肺の空気が全部押し出されてしまったらしく、サナが苦しそうな顔に。
そんな彼女に向けて、シニアスは剣を逆さに構えた。
そのまま一気に突き立てて……
「させるかっ、ファイアボム!」
シニアスの剣に手の平を押し当てるようにして、ゼロ距離で魔法を炸裂させた。
ガガガッ! と鈍い音が響いて……
次いで、視界がぐるぐると回る。
自分で放った魔法に巻き込まれて、地面を転がっているのだと、数秒後に理解した。
「あいたたた……」
「師匠、大丈夫っすか? あんなことするなんて、無茶すぎるっす」
サナに支えられて起き上がる。
「いや、でも……あの場合、ああしないとサナが危ないと思って」
「うへへ……師匠に心配してもらっちゃったっす」
そこは普通、申しわけなく思うところじゃないのかな?
「シニアスは?」
「……残念ながら、あまりダメージは与えられていないみたいっす」
少し離れたところにシニアスの姿が。
俺と同じように吹き飛ばされたらしいが、ほどなくして立ち上がる。
その体は無傷で……相変わらず、歪で悪魔のような笑みを浮かべていた。
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