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74話 会敵

「今、俺……」


 この二人を……殺そうとしていた?

 そんなことはやりすぎだ、って考えていたのに……


 しかも、ただ単に殺すだけじゃない。

 むごたらしい方法で……

 魂さえも砕くという、無茶苦茶なことを実行しようとしていた。


「師匠、どうしたっすか?」

「あ、いや……」


 不思議そうな顔をするサナに、なんて言えばいいのかわからない。


 さっきまで嵐のごとく荒れていた心は、今は静かに凪いでいる。

 一時的なものなのか。

 俺にも、こういう凶暴な面があったのか。


 それとも……


「……なんでもないよ」


 とりあえず、今は深く考えないでおこう。


「あ、あの……」

「行っていいよ」

「え?」

「俺の前から消えてくれる、っていうこと。早くしてくれないと、本当にトドメを刺すよ」

「ひぃっ!?」


 男は悲鳴をあげて、仲間を見捨てて走り出した。

 そして……


 ザンッ!


「え……?」


 男の首に線が走る。

 彼自身、なにが起きたのかわからないという顔をしていて……

 そのまま、首と胴が別れて、血を撒き散らす。


「簡単なおつかい一つ、こなすことができないか。グズが」


 血に濡れた剣を持つのは、赤い鎧と赤い仮面を身に着けた男。

 冒険者ギルドで出会い、いきなり剣を抜いた危険なヤツだ。


「使えない部下を持つと苦労する……そう思わないか?」

「なっ!?」


 世間話をするように言いつつ、仮面の男は、床に倒れ気絶している男に剣を突き立てた。

 ビクンとその体が震えて、血が流れるのに合わせて動きが止まる。


「お前、なにを……」

「こいつらは不用品だ。不用品は処分する。簡単な理屈だろう?」


 感情を大きく上下させることなく、淡々と言う。

 仮面の男にとっては、特に大きな出来事ではないらしい。

 それこそ、毎日しているかのような作業で……

 人を殺しておいて、なんとも思っていないようだ。


 この二人はシロを殺して、シルファを泣かせた。

 許せないと思う。


 でも……


 あんな感情に流されそうになった俺が言うのもなんだけど、殺してしまうのはやりすぎだ。

 それでは、この二人とやっていることと変わらない。


「お前はいったい……」


 ピリピリと刺すような雰囲気の中、問いかける。

 仮面の男は相変わらず感情のない声で、静かに応える。


「俺の名は、シニアス。紅の牙を束ねる者だ」

「紅の牙の……」

「さて……俺も聞かせてもらおうか。お前の名前と、その正体を」

「……ハル・トレイター。冒険者だ」

「ハル・トレイター……なるほど。確か、暗部のターゲットに、そんな名前が載せられていたな。そうか、貴様がそうだったのか」


 暗部のターゲット?

 それは、もしかして……シルファが所属するという組織のことか?


「獲物を横取りすることになるが……まあ、構わないだろう」


 シニアスは血に濡れた剣を構えた。


「さあ、やるぞ」

「なにを……」

「なにをしている、ハル・トレイター。貴様も構えろ」

「戦う……っていうのか?」

「ああ、その通りだ。楽しい時間を過ごそうではないか」


 初めてシニアスが笑う。

 唇の端を吊り上げて、悪意に満ちた笑みを浮かべる。


 ゾワッと、背筋に悪寒が走る。


 目の前に刃物を突きつけられたような危機感。

 津波に飲み込まれる直前のような絶望感。

 全てを失ったかのような諦観。


 色々な負の感情が押し寄せてきて、一瞬、呼吸に詰まる。

 下手をしたら、そのまま気絶してしまいそうで……

 気がつけば、手にたっぷりの汗をかいていた。


「師匠……コイツ、けっこうやばいっす!」


 サナも、シニアスの危険性を感じたらしい。

 ひどく真面目な顔をして、俺よりも先に、いつでも動けるように構えていた。


「ほう……ドラゴンを連れているのか。くくく……いいぞ、おもしろい。やはり、お前はいい。なかなかに楽しめそうだ」

「……俺は別に、あなたに付き合いたくなんてないんだけど」

「戦え」


 一言、そう告げて、剣をこちらに向けた。


「無抵抗の者を斬ってもつまらん。そのようなことでは、俺の心は満たされん。命を賭けたギリギリの死闘……それこそが俺の望みだ」


 つまり……

 こいつは狂人の域に足を踏み入れている、戦闘狂ということか。

 そして、なぜかわからないけど、次の獲物に俺が選ばれてしまったらしい。


 なんていう迷惑な……

 正直なところ、こんなヤツの相手なんてしたくない。

 さっきと同じように、天井を崩落させて逃げてもいい。


 ……いや、それは難しいかも。

 シニアスの力は相当なものだ。

 戦わなくても、この気配、雰囲気を感じればわかる。

 天井を崩落させようとすれば、すぐに邪魔されると思う。


 それに……


 そもそも、コイツは放っておいていい相手じゃない。

 そのままにしたら、後々、必ず壁となる。

 みんなだけじゃなくて、無関係な人も傷つけられるかもしれない。


 それはダメだ。

 シロのような悲劇を繰り返すわけにはいかない。


「サナ」

「なんすか?」

「付き合ってもらってもいいかな?」

「当たり前っす! 師匠のあるところ、自分あり! どこまでもついていくっすよ!」

「ありがとう」


 弟子の頼もしい返事に心が奮い立ち、俺はいつでも動けるように構えた。

 それが合図となり、戦闘が……

 否。

 殺し合いが始まる。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 他の作品と基本的に同じパターンだが、まあ楽しめる [気になる点] 他の作品と同様、設定に瑕疵が多い。 今回でも、敵が主人公を初めて知ったかのような発言があり混乱する。 [一言] 推敲が足り…
[一言] あぁ、賢者の心が血に染まっていく…と言うか、闇に染まっていく…て、あれ? …幼馴染勇者と似た感じなのは気のせいですか?
[一言] 闇賢者の出番がきたか
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