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70話 トラブルは次々と

「人相は……ああ、聞いた通りだな。隊長が言っていたのは、アイツのことで間違いなさそうだ」

「ガキが一緒にいるが、まあ、放っておいていいか」


 なにやら悪人顔した二人組だ。

 どこかで見たような赤い鎧を身に着けていて……


 って、もしかして、連中が噂に聞いた紅の牙なのかな?

 話に聞いた特徴と一致しているから、間違いはないと思うんだけど……

 どうしてこんなところにいるのか、それは謎だ。


「おいっ、そこのお前!」

「……俺?」

「隊長が呼んでいる、ついてこい」


 隊長と言われても、誰のことだ?

 そんなヤツと知り合いになったことは……あっ、もしかして。


 ぽんっ、と先日ギルドで揉めた男のことを思い出した。

 アイツも見た感じ、紅の牙の一員だろう。


 仮にあの男が隊長だとして、どうして俺を探しているのか?

 まったく理由が想像できない。

 ただ、ろくでもない理由なのは間違いないだろう。


「おい、なにをしている」

「さっさと来い、手間取らせるな」

「いや、行かないから」


 焦れた様子で言う二人に、俺は一歩後ろに下がり、ついていかないという意思を示してみせた。


 そんな俺の反応が予想外だったらしく、男二人はぽかんとして……

 次いで、鎧と同じように顔を赤くしつつ、怒りの感情を見せる。


「貴様っ、それはどういう意味だ!?」

「我ら紅の牙に逆らうつもりか!?」

「知らない人についていったらいけないって、小さい頃、親に習わなかった?」

「このっ……!」


 一人が激高した様子で剣を抜くが、もう一人が諌める。


「おい、待て。下手に手を出して、隊長の機嫌を損ねでもしたら……」

「ぐっ……それは、絶対に避けたいな」

「当初の予定通りに行こう。俺が報告に行く。お前は、コイツが逃げないように見張っておいてくれ」

「わかった。急いでくれよ」


 なにやら勝手に話が進められているんだけど……

 そもそもの話、こちらも絶賛取り込み中だ。

 紅の牙なんてものよりも、シルファの問題の方が大事なわけで……


 あーもうっ、この状況、どうすればいいんだ?


「ねえ、ハル。さっきの話はどういうこと?」

「えっと……」


 シルファはシルファで、まったく動じることなく、話の続きをしようとする。

 それに答えたいところではあるんだけど、このままここにいたら、隊長とやらが押しかけてくるだろう。

 すごくイヤな予感がする。


「そこのガキっ、勝手に動くな! お前はどうでもいいが、ソイツを逃したりしたらタダじゃおかないぞ」

「んー……この人、邪魔だなあ」


 男を敵と認識したらしく、シルファから剣呑な気配がこぼれる。


 まずい。

 このままだと、シルファが男をなぎ倒してしまいそうだ。


 たぶん、敵であることは間違いないんだけど……

 下手に手を出したら、どうなるかわからないため、できることならもう少し様子を見ておきたい。

 仲間を呼ばれたりするかもしれないし、それに、街を荒らす乱暴者らしいから、どんな技を隠していることか。


「フシャーッ」


 主の怒りを感じたのか、どこかに隠れていたシロが出てきて、男に威嚇をする。


「なんだ、この猫は?」

「シャーッ!」

「くそっ、猫の分際で……うっとうしいんだよ!」

「ギャンッ!?」

「シロ!?」


 シロが蹴り飛ばされて悲鳴を上げた。

 慌ててシルファが駆け寄り、その小さな体を抱き上げる。


「シロっ、シロっ!?」

「……うなぁ」


 かなり強く蹴られたらしく、シロはぐったりとしている。

 鳴き声も弱々しい。

 もしかしたら、骨が折れたか……あるいは、内臓が傷ついたかもしれない。


「ふんっ、猫が人間様に逆らうようなことをするからだ。身の程を知れ。あと、そこのガキ。ペットならきちんと躾をしておけ」

「このっ……!」

「ふざけるなっ!!!」


 シルファがキレそうになるが、それよりも先に俺がキレた。

 シルファとシロに気を取られていた男を、おもいきり横から蹴り飛ばす。

 男は悲鳴をあげながら地面を転がり、壁に激突。

 気絶したらしく、そのまま意識を失う。


「こんな小さな猫に手を出すなんて、なにを考えているんだよ! くそっ……!」

「……ハル……」

「シルファ、シロは大丈夫か?」

「えっと……わからないよ。すごく苦しそう……シロ、ねえ、シロ?」


 シルファは心配そうに何度も呼びかけるものの、シロの反応は薄い。

 弱々しく鳴くだけだ。


「すぐに治療を……」


 魔法を唱えようとしたところで、遠くから複数の足音が迫ってくるのが聞こえた。

 数が多すぎる、アリス達じゃないだろう。


 となると……

 さっきの男が隊長とやらを連れてきたのか。

 あるいは、仲間をここに派遣したのか。


 どちらにしても、こんな状況では落ち着いて治療することができない。


「シルファ、ひとまずここから離れよう。そうしないと、きちんとした治療ができない」

「うんっ」


 シルファは大事な宝物を扱うように、そっとシロを胸に抱いた。


 俺が先頭に立ち、シルファを誘導する。

 といっても、道を知っているわけじゃない。

 ただただ、足音がする反対の方へと進むだけだ。


「シロ……シロ……」


 シルファは胸に抱くシロを心配そうに見て、何度も何度も声をかけている。

 そのおかげで、シロはまだ意識を保っているらしく、小さいながらも鳴いていた。


 ただ、そうしているせいで、全速力で走ることができない。

 後ろから響いてくる足音が次第に近づいてきた。


 このままだと追いつかれてしまう。

 ならば……賭けに出よう。


「シルファ、この先に!」

「う、うんっ」


 広間に出たところで、まずはシルファを先に行かせる。

 十分な距離をとったところで、俺はくるりと反転して、今通ってきた通路に手の平を向ける。


「ファイアッ!」


 そして、魔法をわりと全力で唱えた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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[一言] シロちゃん・・・ 蹴ったやつは死刑!
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