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7話 勇者VS賢者

 レティシアと戦うことになるのだけど……

 正直、勝ち目はないと思う。


 相手は、レベル55の勇者。

 それだけではなくて、何度も激戦をくぐり抜けてきたという経験を積んでいる。


 対する俺は、レベル82で賢者ということが判明したけど……

 しかし、初級魔法しか習得していない。

 戦闘の経験も皆無と言っていいくらいに少ない。


 まともに激突すれば、勝利は難しいだろう。

 先手必勝。

 一撃必殺。


 それしかない!


「ファイアッ!」


 初級火魔法を唱えた。


 10メートルに達するような炎が生まれ、竜のごとく荒れ狂う。

 それはレティシアに襲いかかり、豪炎を周囲に撒き散らす。


「ひぁっ……!?」


 レティシアは奇妙な悲鳴をあげながら、大きく横に跳んだ。

 後先考えない全力の跳躍らしく、ゴロゴロとその場に転がる。


 その間に、さきほどまでレティシアがいたところにファイアが着弾。

 石を溶かすほどの火柱が立ち上がる。


 それを見たレティシアは、顔をひきつらせて……


「ちょっと、ハルッ!!! あんた、私を殺すつもり!!!? 今の直撃していたら、骨まで残っていなかったわよ!? っていうか、防御しても、防御ごと燃やされていたわよ!? ふざけるんじゃないわよっ!」

「あ、いや……すまない?」


 先に、手足を切り落とすとか言い出したのはレティシアなのだけど……

 俺、今、ものすごく理不尽な叱責を受けていないか?


「完全に頭に来たわ! 叩き切るっ!!!」


 レティシアが立ち上がり、前かがみに駆けた。


 速い!?


 その動きは、まるで風のよう。

 あっという間に距離を詰められてしまい、レティシアは俺の懐に潜り込んだ。


「トリプルスラッシュッ!」


 超高速の三連撃。

 50レベル以上の者しか習得できない上級剣技だ。


 いきなりそんなものを繰り出すなんて……

 どうやら、レティシアは本気らしい。

 キレて殺気を放っているだけなのでは? という可能性もあるかと思っていたが、それは甘い考えだったらしい。


「シールドッ!」

「はぁっ!?」


 防御魔法を唱えて、魔力で光の盾を形成した。

 魔力で編み込まれた光の盾は、レティシアの上級剣技をしっかりと受け止めた。

 一撃も通すことはない。


 それを見て、レティシアが唖然とする。


「ちょっとハルッ、なによそれ!?」

「なに、って……レティシアなら知っているだろう? 初級防御魔法だけど」

「上級剣技を完全に防ぐ、初級防御魔法なんて、あってたまるもんですか!」

「そんなことを言われてもな……」

「くっ、ハルのバカみたいな魔力量を侮っていたわね……! まさか、ここまでやるなんて。ふんっ、雑魚のくせになかなかやるじゃない。足の爪先の欠片くらいは、ハルのことを認めてあげなくもないわ。でも、ハルのような雑魚があたしに勝つなんて、無理、不可能、ありえないわ。今から土下座して泣いて謝るなら、許してあげなくも……」

「ファイアッ!」

「ぴゃあああああぁっ!!!?」


 紅蓮の炎が渦を巻いて……

 レティシアは悲鳴を上げつつ、再び全力で回避した。


「惜しい」

「惜しい、じゃないわよぉおおおおおっ!!!? 何度も言うけど、あんた、私を殺すつもりっ!!!?」

「レティシアだって、俺の手足を切り落とすとか、物騒なことを言っているじゃないか」

「私はいいのよっ!」


 レティシアは胸を張って言う。


 理不尽すぎる。

 俺の物はレティシアの物、私の物は私の物……なんてことを言い出しそうだ。


「くらいなさいっ、ソードダンスッ!」


 不意を突くように、レティシアは踊るような剣舞を披露した。

 超速の斬撃が迫る。


「シールドッ!」

「きぃいいいいいっ! だから、防ぐんじゃないわよ!? っていうか、おかしいでしょ!? 上級剣技を初級防御魔法で防ぐなんて話、聞いたことないわ!?」

「そんなことを言われても……」

「ホントにもう、ハルは……そのふざけた力があるせいで……だから、私はっ!!!」

「っ!?」


 ゾクリと背中が震えた。


 レティシアは表情を消して……

 冷たく凍てつくような殺気をまとう。


 今までは本気じゃなくて、様子を見ていた……というわけか。


「ハル……先に謝っておくわ。死んだらごめんなさい」

「……レティシア……」

「でも、あんたの勝手な行動は絶対に認められないから……殺してでも、ここで止める! 私の本気で、ハルを制圧してあげるっ!!!」


 レティシアは剣を構えた。

 恐ろしいほどの闘気が収束されていく。


 レティシアは覚悟を決めたのだろう。

 なら……俺も覚悟を決めよう。


「じゃあ、俺も全力でいくぞ」

「……え?」

「どうなるかわからないから、魔力を温存しておきたかったんだけど、後のことを考えている場合じゃなさそうだな」

「えっ……いや……えっ? ちょっ……ま、まちなさい、ハルッ! あんた、さっきのファイアとかシールドとか、あれで全力じゃなかったの!?」

「訓練とかレティシアに禁止されてたから、全力を出したことないんだよ。うまくいくか不安だけど……やるしかないな!」

「ちょ、まっ……!!!?」

「ファイアッ!!!」


 ありったけの魔力を込めて、初級火魔法を唱えた。


 瞬間、世界が白に染まる。


 激しい爆音。

 強烈な熱波。

 そして、大火炎。

 それらが一体となり炸裂した。


「ぴぎゃあああああぁっ!!!?」


 豪炎がレティシアを包み込んだ。

 熱と衝撃がとめどなく炸裂して、レティシアの体を蝕んでいく。


 炎が魂を焼いて。

 爆発が体を打ちのめして。

 熱波が心を燃やす。


「う……く……」


 荒れ狂う炎が消えて……

 ボロボロのレティシアが残された。


 たぶん……俺の勝利だ。

 それで、いいんだよな……?


「えっと……大丈夫か?」

「まだ……よ……ハルが、私の手を離れるなんて……絶対に、認めない……認めないんだから……!!!」

「レティシア、お前……」


 どこからその執念が生まれてくるのか?

 できることなら、一度、話をしてみたいが……

 まあ、無理だろうな。


「レティシアは、俺は管理されないとダメだ、って言ったよな?」

「ええ、そうよ……ハルは、ダメダメな……雑魚なんだからぁ……!」

「でも俺は、レティシアに勝った」

「……」

「この結果を見て、まだ同じことが言えるのか?」

「それ、は……」

「俺は……レティシアのものじゃない。俺は……俺だ」

「……」


 返事はなかった。

 レティシアは言葉もない様子で、ただただうなだれている。


「……じゃあな。今日から、俺たちは幼馴染でもパーティーの仲間でもなくて、ただの他人だ」


 最後にそんな言葉をかけて……

 俺は、レティシアに背を向けて街に戻った。


 今度は、声は飛んでこなかった。

本日19時にもう一度更新します。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] レティシアとアリスがごっちゃになってるな
[一言] えっ、これ実はパワハラ幼馴染は実は主人公の事を考えてああいう言動してましたフラグ立ってる?
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