68話 小さな殺し屋
「っ!?」
速い。
矢が放たれたかのように、シルファは一気にこちらとの距離を詰めてきた。
その加速の勢いを拳に乗せて、まっすぐに撃ち放つ。
「ええいっ!」
上体を後ろに反らすようにして、ギリギリのところで拳を回避する。
いつだったか、
「ハルは今から木人よ! 私の攻撃の練習台になりなさいっ」
なんてことを言われて、レティシアにスキルを雨のように叩き込まれたことがある。
その経験が活きているおかげで、なんとか避けることができた。
ただ、二度目はない。
「甘いよ」
「ぐっ……!?」
シルファの姿がふっと消えた。
魔法? スキル?
思わず慌ててしまう。
その直後、足を払われてしまい、地面を転がる。
早く起き上がらないとまずい。
こんな状態だと、攻撃され放題だ。
焦り、行動に移ろうとするが……それよりもシルファの方が早い。
踵落としが振ってくる。
単なる反射で、頭を横に傾ける。
シルファの踵がものすごい勢いで落ちてきて、頭のすぐ横の床を砕く。
もしも直撃していたら、骨なんて一瞬で砕けていただろう。
「シールドッ!」
「あうっ」
二人の間に不可視の盾を展開して、シルファの小さな体を弾き飛ばす。
傷つけたくないとか考えていたけど……
これはもう、そんなことを言っていられない。
シルファは、本気で俺を殺そうとしている。
だからといって、シルファを殺したくなんてないけど……
でも、傷つけずに無力化、制圧というのは不可能だ。
やれる限り、こちらも応戦しないと!
「フレアソードッ!」
右手の炎の剣を生成する。
俺は剣をメインに使うわけじゃないから、これでシルファを捉えることは難しい。
というか、オーバーキルで、直撃したらそのまま両断してしまうだろう。
なので、これで戦うつもりはない。
ただ単に、脅し、牽制の材料として使うのみ。
「っ……!?」
こちらの思惑通り、シルファはビクリと震えて、後ろに跳んで距離をとる。
「それは……なに? 炎の剣?」
「俺の魔法だよ」
「魔法? そんな魔法、聞いたことないよ」
「まあ、俺のオリジナルだから」
「魔法を……作った? そんなこと……」
珍しくシルファが驚いていた。
彼女のそんな顔を見るの、もしかして初めてじゃないだろうか?
「いくぞ!」
「っ!?」
こちらから前に出ると、シルファは迷うように足を止める。
受け止めるか避けるか……どうすればいいか、判断に困っているのだろう。
シルファほどの相手なら、未知の魔法を前に、最大限の警戒をすると思っていた。
ただ、そこに隙が生まれる。
「シールドッ!」
「えっ」
炎の剣を消して、代わりに不可視の盾を作り出した。
その状態でシルファに突撃する。
「うあっ!?」
ガンッ、と不可視の盾がシルファを撥ねる。
それなりの攻撃を受け止めることができる盾だ。
防御として活用するだけではなくて、体当たりをすることで、攻撃にも転用することができる。
とっさの思いつきだったけど、なかなか効果的だったらしい。
まさか防御用の魔法で攻撃されるとは思ってもいなかったらしく、シルファが吹き飛ばされる。
「むうっ……そういう突拍子のない攻撃はずるいよ!」
「なっ!?」
吹き飛ばされたシルファは、猫のように、宙でくるりと回転。
壁を蹴り、その反動で逆に突撃をしかけてきた。
すでに防御魔法は消えている。
今の俺は無防備なわけで……
「くっ……シールド!」
なんとか、防御魔法を再び展開することに成功。
しかし、シルファはこちらの常識の上をいく。
「崩拳っ!」
ギィンッ! とシルファの拳が防御魔法を撃ち抜いた。
そんなバカな!?
上級スキルも受け止めることができたのに。
シルファの攻撃は、上級スキル以上の威力が……?
「続けていくよ。双竜脚っ!」
滞空したままのシルファは、さらに体を捻り、独楽のように回転。
落下しつつ、いくつもの蹴撃を繰り出してくる。
上下左右。
ありとあらゆる角度から、逃げる間を与えないように攻撃が迫る。
逃げるのは不可能。
ならば、
「ファイアッ!」
「っ!?」
威力を絞り、至近距離でカウンターを叩き込む。
数発、痛い攻撃を受けてしまう。
でも、それ以上を許すことはなく、シルファを吹き飛ばすことに成功する。
今度は、壁を蹴って反転……なんていう曲芸師みたいな真似はできず、シルファは背中から壁に叩きつけられた。
肺の空気が全部抜けるような、ヒュッ、という音。
シルファは地面を転がり、うつぶせに倒れる。
「シルファ?」
「……」
返事はない。
気絶しているのか……それとも、やりすぎた?
みんなが俺の魔法はやばい、おかしい、非常識とか言うものだから、それなりに威力を絞ったんだけど……それでもダメなのか?
「えっと……し、シルファ? 大丈……」
「っ!」
突然、シルファが、がばっと跳ね起きた。
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