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67話 仕事だからごめんね?

「シルファ! よかった、無事だったのか。合流できてよか……」

「にゃん」

「……にゃん?」


 なぜ、猫の鳴き声が?

 不思議に思い、よくシルファを見てみると、彼女は頭の上にシロを乗せていた。


「なんでシロがここに?」

「最初から連れていたよ? 一人で留守番させるのは、ちょっと不安だったから」

「いたっけ?」

「シルファの服の中に、こんな感じで、入れていたから」


 胸元にシロを入れる。

 ひょこん、と頭だけが飛び出す形になり、その状態で、シロがもう一度にゃあと鳴く。


 なるほど、こんな状態だったのか。

 外ほど明るくないから、気づかなかった。

 あと、ダンジョンに猫を連れてくるなんて人はいないだろうという先入観もあったと思う。


「ま、まあいいや。なにはともあれ、無事でよかった」


 猫を頭に乗せている以外、シルファにおかしなところはない。

 怪我をしている様子もないから、ひとまず安心していいだろう。


「ハルはなにをしているの?」

「他のみんなの場所がわからないから、ひとまず、上層への階段を探そうと思っていたんだ。あ、シルファは最初いなかったから、知らないか。はぐれた時は、そこで合流するように約束していたんだよ」

「なるほど。他のみんなはいないんだ」


 シルファが考えるような顔に。

 今の言葉を受けて、いったいなにを考えるというのだろう?


「イヤなんだけどな。でも、やらないわけにはいかないよね。仕方ないよね」

「シルファ? なにをぶつぶつ言っているんだ?」

「ハル、ちょっとこっちに来て」

「うん?」


 ちょいちょいと手招きをされる。

 何事かと不思議に思いつつ、言われるままシルファの近くへ。


「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

「お願い? どんな?」

「……死んで」

「え?」


 シルファは、やはり淡々とした口調で言う。

 そのままこちらに手を伸ばして、首に触れて、その奥の骨を……


「っ!?」


 ものすごい悪寒を感じて、慌ててシルファの手を振り払い、さらに後ろへ跳んだ。


 バクバクと心臓が鳴る。

 今の……そのままでいたら、首の骨を折られていた。


 なぜ? という疑問が湧き上がるのだけど、勘違いなのでは? という疑問は出てこない。

 間違いない。

 今、俺はシルファに殺されかけた。


「すごいね。ああやって、なにもないフリをして攻撃すると、大抵の人は防げなくてそのまま死んじゃうんだけど。シルファの攻撃を防いだの、ハルが初めてかも」

「シルファ、お前……」


 静かな殺気を感じた。

 鋭く、寒気を覚えるほどの、凍てつく感情。


 その殺気を放つのはシルファ。

 その殺気を向けられているのは、俺。


「どうしてこんなことを……!?」

「ごめんね、ハル。なんとなく、ハルは殺したくないんだけど、でも、仕事だから」


 仕事というと……殺し屋?

 なかなか信じられなかったことだけど、事実だったということなのか。


 でも、どうして俺が?

 殺し屋に狙われる理由なんて、心当たりが……


「……もしかして、レティシア絡み?」

「誰?」

「あ、違うんだ」


 シルファがきょとんとする。

 演技をしているわけではなさそうだ。


 レティシアじゃないとしたら、いったい誰が?

 ますます謎が深まる。


「仕事をするために、俺に近づいてきたのか?」

「ううん。知り合ったのは、ホントに偶然。まあ、その後一緒にいたのは指示を受けたからだから……あれ? やっぱり、ハルの言うとおりになるのかな?」


 こんな時でも、とことんマイペースな子だ。

 本当に俺を殺そうとしているのか、疑いたくなってしまう。


 でも……それは楽観的な希望。

 シルファから放たれている静かな殺気は本物だ。

 間違いなく、俺を殺すつもりだろう。


「どうして、俺を殺そうとするんだ?」

「さあ?」

「さあ、って……」


 あまりに気の抜けた回答に、こちらもついつい脱力してしまう。


「シルファは、ハルを殺せ、っていう命令を受けただけ。そこに理由は求めないよ。言われたから殺す、それだけなんだ」

「そんなことで人を殺すなんて……」


 おかしい。

 絶対に間違っている。


 でも、シルファに罪悪感は見られない。

 ごはんを食べるように、散歩をするように。

 なんてことのないことをするように、とても自然体だ。


 殺しをなんとも思っていないのか……

 それとも、普通の人が当たり前に感じる感情が麻痺しているのか。

 あるいは、できるなら考えたくないんだけど、殺しを楽しんでいるのか。


 どれだ?

 シルファがどのパターンなのかわかれば、もしかしたら、説得することができるかもしれない。


 ただ、シルファの心を、考えていることを分析する時間がない。

 また、それを知るだけの付き合いもない。


「シロはまっててね」


 シルファは頭の上のシロを地面に下ろした。

 シロは一つ鳴くと、避難するようにダンジョンの隅に移動する。


 それを確認した後、シルファはこちらに向き直り、拳を構える。


「いくよ」

「まった! 俺はシルファと戦いたくなんて……」

「問答無用だよ」


 シルファは地面を力強く蹴り、こちらに突撃してきた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] やはり、殺し屋=職業とは認識できないか…当然っちゃあ当然だケド…シルファはプロに徹しているな… それに比べて、事前に聞いていたくせにまだ割り切れないハルは…この辺りの甘さが、レティシアとどこ…
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