６４話　トラップ

　先頭がサナ。

　その次に、俺とアリス。

　続けて、アンジュとナイン。

　最後尾にシルファ。

　そんな構成で陣を組み、ダンジョンの探索を行う。

　途中、魔物が現れるものの……

「うりゃ、っす！」

「えいやー、っす！」

「一昨日来やがれ、っす！」

　現れる魔物全部、サナが拳一発で粉砕していた。

　さすがというか、とても頼りになる。

「えへへー、師匠、どうっすか？　自分、すごいっすか？」

「えっと……うん、すごいすごい」

「ふへへー」

　頭を撫でると、サナは満足そうに、にへらという笑みを浮かべた。

　魔物を倒す度に、こんな感じで褒めてほしいとせがんでくるので、なかなか先に進むことはできない。

　ただ、頼りになっていることは確かなので、できる限り応えようと思う。

「ダンジョンというから身構えていたのですが……ハルさまもサナさんもいますし、大きな困難に直面することはなさそうですね」

「お嬢さま、油断してはいけません」

　軽いことを言うアンジュを諌めるように、ナインが厳しい口調で言う。

「まだ一層なので、敵のレベルも大したことはありません。しかし、奥に進めば進むほど、敵のレベルは上がり、さらに数も増えていきます」

「数も増えるんですか？」

「はい。下層に進めば進むほど、人の手が入りにくくなりますから。討伐される魔物が減り、必然的に数が増えることになります」

「なるほど……」

「それに、上層だからといって安心はできません。ダンジョンには、魔物だけではなくて、他に恐ろしいものが存在します」

「恐ろしいもの……そ、それは？」

「はい、それは……」

「ぎゃーっ！？」

　サナの悲鳴と、ドカンッという爆発音が響いてきた。

　何事かと前に視線を戻すと、小さな爆炎が。

「サナっ！？　大丈夫か！？」

「ごほっ、けほっ……だ、大丈夫っす」

　ほどなくして煙が晴れて、傷一つついていないサナが見えてきた。

　今の爆発、規模は小さいのだけど、そこそこの威力があったように見えたけど……

　それでも無傷だなんて、さすがドラゴン。

　とんでもない耐久力だ。

「いったい、なにが起きたっすか……？　いきなり地面が爆発したっす」

「おそらく、それはトラップでしょう」

「トラップ？」

「ダンジョン内に設置されている罠のことです。落とし穴や毒針、そして今の地雷のように、色々な種類のトラップが存在しています。トラップは上層であろうと下層であろうと、関係はありません。踏むと即全滅してしまうような、凶悪なトラップが上層にあるということもあります。故に、油断禁物なのです」

「なるほど……わかりました、ナイン。どのような状況になっても対応できるように、しっかりと、そして慎重に進んでいきたいと思います」

「さすがお嬢さま。私の言うことを理解していただき、そうおっしゃってくださると思っていました」

　アンジュとナインの間で信頼が深まるのだけど、

「あのー……自分を教本代わりに利用しないでほしいっす」

　爆発で髪の毛の先をチリチリと焦がしたサナが、不満そうに言う。

「サナ、大丈夫？」

「シルファが先頭を歩こうか？」

「いやいや、大丈夫っすよー」

　心配してくれる二人に対して、サナは明るい顔を見せる。

　それから、傷なんてついていないとアピールするように、ポーズをとる。

「そこらのチャチなトラップで自分を傷つけられるわけがないっす！　自分を傷つけられるのは、師匠くらいなものっす！」

「まあ……ハルはおかしいからね」

「うん、ハルはおかしい」

　そこ、おかしいおかしいって重ねて言わないでくれるかな？

「そんなわけで、自分は大丈夫っすよ！　心配してくれてうれしいっす」

「それならいいんだけど……」

「早く先に行くっすよー！　地雷の一つや二つで、自分は止められないっす！」

　サナがえいえいー！　とやるように拳を突き上げて、一人、先に進む。

　そして、カチリとなにか硬い音が響いて、

　ドドドーンッ！

「ぎゃーっ！？」

　複数の地雷が同時に炸裂して、再び、サナが爆炎の中に消えた。

「……また地雷を踏み抜くって、あの子、どんだけ運が悪いのかしら？」

「シルファ、知っているよ。さっきの発言がいけないんだよね？　フラグっていうんだよね？」

　サナなら問題ないだろうと、二人は呑気にそんなことを話した。

　事実、爆炎が晴れると、軽く焦げただけのサナが姿を見せる。

　プルプルと震えていて、ものすごく苛立たしそうだ。

「うー……」

「えっと……大丈夫？」

「……こんなダンジョン、ぶち壊してやるっす！！」

　ヤケを起こしたサナを止めるのに、五分ほどの時間を費やしてしまうのだった。

「しかし、まいったな」

　広い通路を前に、俺達は足を止めていた。

　通路の向こうに下層に続く階段が見えるんだけど……

　どうやら、通路一帯が地雷原になっているらしい。

　そうでなければ、立て続けに地雷を踏むなんてこと、ありえるわけがない。

「迂回路はないのかしら？」

「隠し通路があるかもしれません」

　アリスとアンジュがキョロキョロと周囲を見るのだけど、そうそううまくいかなくて、なにも発見できない。

「師匠、師匠。安心してください。自分が先頭をいくから、後をついてきてください。そうすれば、問題ないっすよ」

「それって、サナが何度も地雷を踏むハメになるんじゃあ……？」

「大丈夫っす。あれくらいの爆発、ドラゴンである自分にはなんてことないっすからね。ちょっと驚くくらいっす」

　確かにダメージはなさそうなんだけど……

　でも、髪はしっかりとダメージを受けていて、このままだとチリチリクルクルになってしまいそうだ。

　女の子であるサナに、そんなことは酷だろう。

　さて……ここをどう突破したものか？

　プロの傭兵なら、地面を見れば地雷が設置されている箇所がわかるみたいだけど、そんなスキルは持っていない。

　俺ができることと言えば、魔法を使うことくらいだ。

　その範囲で、この地雷原を突破する方法となると……

「……よし、やってみるか」

「ハル？」

「みんな、後ろに下がってて。ちょっと、荒っぽい方法でいくから」

「え？　荒っぽい方法って……ちょ、ちょっとまって、ハル。その内容を、まずはあたし達に……」

「ファイアッ！」

　アリスがなにか言いかけていたのだけど、よく聞こえず、そのまま魔法を唱えた。

　ターゲットは、地雷原と思われる地面一帯。

　炎が地面を舐めるように広がり……

　ドガガガガガッ！！

　その熱に反応した地雷が、次々と起爆していく。

　熱波と衝撃波が辺り一帯に撒き散らされる。

　思っていた以上に派手なことになったけど……

　でも、これで地雷を一掃することができた。

　うん、なかなかの成果じゃないか？

「よし。みんな、これで先に進め……」

「「「……」」」

　髪がボサボサになり、服が乱れ、土埃で汚れたみんなの姿に、俺は途中で言葉を失う。

　当たり前だけど、ものすごく睨まれていた。

「えっと……」

「「「……」」」

「……俺、もう少し控えるようにします」

「「「よろしい」」」