63話 ダンジョン突入
建物の中に転移魔法陣が設置されていた。
その上に乗ると光に包まれて……気がつけば、ダンジョンの内部だ。
「なるほど、魔法陣でダンジョンに突入するわけか」
「これなら魔物が街にあふれるなんてことはないわね」
「いざという時は、魔法陣を壊してしまえば道を断つことができますし……とてもよく考えられていますね。アーランドで、なにか見習えるかもしれないですね」
ダンジョンに突入したのだけど、みんな、魔法陣の感想を口にしていた。
転移魔法陣なんて、初めて見るからなあ……
珍しくて、本来の目的であるダンジョンは、なんかもう適当な扱いになっていた。
「ひとまず、目標を定めておこうか。いつでも帰れるとはいえ、何日も潜っていられないし」
「そうね……直接、領主と会うためにダンジョンに潜っているわけだから、それ相応の手柄を立てることが一番の目的になるわよね」
「となると、貴重なアイテムを手に入れることでしょうか? とはいえ、アイテムはランダムに配置されて、内部構造も時間と共に変化するらしいので、一筋縄ではいかないと思いますが」
「最下層を目指すという方法もあると思います。現在の記録は23層。それ以上を進むことになれば、大きな手柄と言えるのではないかと」
「レアな魔物も徘徊してるらしいっすよ。そいつらを倒して、素材を持って帰るっていうのもいいと思うっす」
「ダンジョンは時間と共に変化するけど、罠や地形などの情報はそのまま引き継いで使えることができるよ。だから、そういう情報は貴重。新しいものを見つけたら、いい手柄になるかな」
「へぇ、なるほ……シルファ!?」
いつの間にかシルファがいて、しれっとした顔で会話に参加していた。
他のみんなも気づいていなかったらしく、一様にぎょっとした顔になる。
「えっ、いや……えっ!? シルファ、いつの間に……?」
「なんで驚いているの?」
「いやいや、驚くから! いきなり消えたかと思えば、突然現れて……」
「あとでね、って言ったよね?」
確かに言ったけど、魔法を使ったかのようにいきなり現れるなんて聞いていない。
というか、どうやって追いついてきたのだろう……?
シルファと別れた時点では、ダンジョンに潜るなんて、一言も言っていないんだけど。
それと、どうしてこのタイミングで突入することがわかったのか?
……もしかして、みはられている?
まさか、と思う一方で、シルファならありえるかもと考えてしまうのだった。
「……まあ、いいや。無事に合流できたから、それでよしとしようか」
シルファのことは気になっていたから……
どうして? と考えるよりは、素直に合流できたことを喜びたい。
「ま、まあ、人手は多いほうがいいからね。それで……ハル、どうする?」
「うーん」
少し考えてから、言葉を続ける。
「レアアイテムやレアな魔物を探しつつ、最下層を目指す……っていうことでどうかな? 新しい情報を得るにしても、ここに来たばかりの俺たちは判別がつかないから。なので、色々と探しつつ下層を目指す。途中でなにか見つかれば、そこで探索終了、っていう形でいいと思うんだけど」
「うん、それでいいと思うわ」
「はい、私も異論はありません」
ナインとサナとシルファも、それで大丈夫と言うように頷いた。
「それじゃあ……さっそく、探索開始といこうか!」
これだけの大規模なダンジョンに潜るのは初めてだ。
他に目的があるんだけど、でも、ちょっとだけワクワクした。
「ねえ、ハル」
ダンジョンをゆっくり歩いて探索していると、アリスが隣に並ぶ。
肩を並べるくらいの距離で、前を見つつ話をする。
「ダンジョン探索は初めて?」
「レティシアと一緒にいた時、何度かダンジョンを探索したことはあるけど、ここまで大規模なのは初めてかな。それまでは、深くても5層とか、そんなところだったから」
「そっか。初めてじゃないなら、魔法を使っちゃダメとか、そういう基本は教えなくても平気そうね」
「うん? 使ったらいけないの?」
「え?」
「え?」
どうも話が噛み合わない。
俺とアリスの中の情報、食い違っている……?
「あっ!? ハルさん、アリスさん。気をつけてください、魔物です!」
曲がり角からゴブリンとスライムの群れが現れた。
下級の魔物とはいえ、油断はできない。
攻撃でダメージを受けることはないと思うけど、衝撃を受けて倒れて、よからぬ角度で頭を打ちそのまま……なんていうケースもあるらしい。
要するに、油断大敵っていうこと。
どんな相手であれ、しっかりと対処することが必要だ。
俺は、魔法使いとしてはまだまだだから、どんな相手であれ全力で挑まないと。
魔力を練り上げて、魔法を……
「ファ……」
「ハルっ、ストップ!!!」
なぜか、アリスに全力で阻止された。
「え? なに?」
「こんなところで、ハルみたいな人が魔法を使えば……」
「よーし、やるっすよー! 大活躍して、師匠に褒めてもらうっす!」
二人で話をしている間に、サナが前に出た。
口を大きく開けて、
「うりゃあああああっ!」
ドラゴンらしく炎を吐く。
その熱は千渡を超えて、鉄さえも溶かすと言われている。
そんな炎を浴びせられて、ゴブリンやスライムが無事でいられるわけがない。
一瞬で黒焦げに。
そして……
「あちゃちゃちゃちゃっ!?」
洞窟内で炎が反射して、サナのところに舞い戻る。
自分で自分の炎を浴びて、サナが悶絶していた。
そりゃそうだ。
ドラゴンだからといって、炎に対する絶対耐性があるわけじゃない。
そこらの普通の炎なら問題ないけど、強烈な熱を持つブレスだ。
自分で浴びたとしても、とても熱いだろう。
「……こういうところで大規模な攻撃をしたら、ああやって自爆する可能性が高いわ」
「……なるほど」
サナは、身を持ってそのことを教えてくれたのか。
ありがとう、サナ。
そして、安らかに眠れ、サナ。
「自分、まだ死んでないっすよ!?」
「いや、ごめん。ついついノリで」
「ハルさんってば、意外とおちゃめなところがあるんですね……そんなところも、なんだかかわいらしいです」
涙目で訴えるサナを、魔法で癒やしてあげるのだった。
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