60話 次の目的は?
アリスと二人でしばらく待ってみたところ、アンジュ達と無事に合流することができた。
シルファのことが気になるけれど……
さすがに往来のど真ん中で、領主がどうのこうのなんて話はできない。
アンジュがあらかじめ宿を予約していたらしく……
そちらへ移動した。
手際のよい行動に感謝だ。
「それじゃあ、情報の整理をしようか」
宿の一室に移動して扉を閉めたところで、そう言う。
なんとなく、流れで俺が話をしきることになっているのだけど、みんな、特に不満はないらしくなにも言わない。
それならばと、そのまま話を進める。
「まずは、俺達から。俺達が冒険者ギルドで得た情報は……」
紅の牙のこと。
領主の黒い噂のこと。
端折ってはいけない部分だと思い、少々長くなってしまうものの、丁寧に説明をする。
「紅の牙ですか……私達の方でもちらりと噂を耳にしましたが、厄介な相手みたいですね。そんな部隊の隊長に目をつけられてしまうなんて……私、ハルさんの力になりますからね!」
「領主の噂に関しては、こちらでは耳にしませんでした。積極的に聞いて回らなかったということもありますが、街の人々は、その話を避けている傾向にあり……噂を聞くことはできませんでした」
得た情報にばらつきがあるみたいだ。
二手に分かれて正解だったかな?
「それじゃあ、私達の番ですね。私達は、主に街とダンジョンについての情報を集めていました。その結果、非常に興味深い情報を得ることができました。もしかしたら、領主に直接会うことができるかもしれません」
「えっ、それは本当に?」
「可能性の話なので、断定はできないんですけど……ただ、実際に領主に会えたという前例がいくつかあります」
「その方法は?」
「ダンジョンに潜ることです」
アンジュ曰く……
迷宮都市はダンジョンと共にあり、そこから得られるもので街が発展していく。
故に、領主はダンジョンの攻略の支援を行っているらしい。
踏破記録を更新、あるいは最下層にたどり着いた者には、領主から直々に報奨が与えられる。
あるいは、ダンジョンにて貴重な財宝を得た者に対しても、直々に報酬が与えられる。
この制度は代々の領主が引き継いでいて……
現在の領主も行っていて、何度か、冒険者達と顔を合わせているらしい。
「なるほど、そんな方法が……」
「この方法なら、領主と問題なく面会することができます。また、報奨ももらえるので、一石二鳥ですね!」
「うん、そうだね。こんなことを調べてくれて、ありがとう」
「ふわっ」
普通にお礼を言っただけなのに、なぜかアンジュが赤くなってしまう。
俺、変なことは言っていないよな……?
「うぅ……ハルさんに褒められてしまうと、とてもうれしくなって、ドキドキして、勝手に顔が熱くなってしまいます。私、どうしたんでしょうか……?」
「……無自覚な想いに振り回されるお嬢さま、とてもかわいらしいです」
アンジュがあたふたと慌てて……
その後ろに控えるナインが、とても幸せそうな顔で主を見ていた。
なにをしているのか、まったくわからないのだけど……
でも、深くツッコミを入れない方がいいような気がして、見なかったことにしておいた。
「うーん」
サナが小首を傾げていた。
喉に魚の小骨が刺さっているような感じで、どこかもどかしそうだ。
「どうかした?」
「なんていうか……うまく言葉にできないんっすけど、なーんかイヤな感じがするっす」
「イヤな感じ?」
「ゾワゾワってするというか、ブルブルって震えるというか、むにゃにゃにゃーんって甘えるというか……」
むにゃ……三番目はどういう意味?
「なんか、落ち着かないっす。イヤな感じがするっす。勝手に震えてしまいそうになるっす」
「それって……もしかして、怖い、っていうこと?」
「あっ、そんな感じかもしれないっす!」
アリスの指摘に、それだ! というような感じで、サナが強く言う。
「師匠に魔法をぶちこまれた時と、ものすごく似ているっす。ただの人間と思いきや、魔王のようなとんでもない魔力を持っていて……いやー、あの時は、自分、本気で死んだかと思ったっす」
「ちょっとタイム」
色々とツッコミを入れたいところはあるんだけど……
ものすごく見過ごせないことを聞いた。
「つまり、サナは今……死ぬかもしれないっていう恐怖を感じている、っていうこと?」
「そうっすね」
「なんで?」
「なんでっすかねぇ……自分でもよくわからないっすけど、イヤーな感じがするっす」
サナの言葉を受けて、アリスと顔を見合わせる。
「どう思う?」
「普通に考えるなら、ドラゴンであるサナが恐怖を感じるような存在が、この街にいる……っていうことになるわよね」
「だよね……」
「他の意味合いが隠されているのかもしれないし、サナの思い過ごし、っていう可能性もあるわ」
「うーん……いや、そう考えるのは危険だよ。ドラゴンのサナが恐怖を感じる……そんな相手が本当にいた場合、甘く考えていたら取り返しのつかないことになるかも。いると仮定して、最大限に警戒して動いた方がいいと思う」
「そうね……ええ、了解よ」
ドラゴンであるサナが怯えるような相手。
いったい、どんなヤツなのか?
そして、どこにいるのか?
この街にいる間は、気を抜けそうにないかもしれない。
「情報の共有、整理としてはこんなところかしら? その上で、次の目的を決めておいた方がいいと思うんだけど……どう思う?」
アリスの視線が、まずはアンジュとナインへ。
考えるような間を挟んでから、二人が順に口を開く。
「アーランドで得た情報。そして、この街で得た情報を総合すると、やはり領主が怪しいという結論になると思います。このまま調査を重ねつつ、できることなら、直接、話をする機会を得たいところです」
「そこで私から提案させていただきますが、ダンジョンに潜るというのはいかがでしょう? 最下層に到達する、あるいは、類まれなる財宝を手に入れる。難しいかもしれませんが……」
ナインが俺を見た。
次いで、アンジュもこちらを見る。
「ハルさまがいれば、なんとかなるのではないかと」
「そうですね。ハルさんがいれば大丈夫ですね」
なにその、謎の信頼感?
ものすごいプレッシャーを感じるんだけど……
「アリス、なんとか……」
「そうね、ハルがいれば問題なさそうね」
言ってほしい、という台詞の途中で、アリスまでそんなことを言う。
サナは……目をキラキラさせて、こちらを見ていた。
味方は……いない。
「あー……ということは、ダンジョンに挑むということでいいの?」
「いいんじゃないかしら? 他に領主に会う方法は、なかなかに難しいだろうし……ダンジョン内なら、あの紅の牙に絡まれることもないんじゃない?」
言われてみれば、その通りだ。
うまくいくかどうかはともかく、成功した場合、一石三鳥くらいになる。
「ありといえば……ありかな?」
他にうまいことは思い浮かばない。
のんびりしているわけにはいかないし……
ダンジョンに挑戦してみてもいいかもしれないな。
「じゃあ、次の目的はダンジョンの攻略ということで」
「「「おーっ!」」」
みんな、元気のいい声を響かせるのだった。
それにしても……
シルファのこと、どうしよう?
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