554話 新しい旅へ
数日後。
天井都市から場所を変えて、地上の、なんてことのない平凡な街。
そこの宿の一室で、俺達は挨拶をしていた。
「うぅううう、師匠ぉおおおおお……」
「ほらほら、そんなに泣かないで。別に、一生の別れになるわけじゃないんだから。それに、今回のことはサナから言い出したんじゃないか」
「そうっすけどぉ、でもでもぉ……」
師匠のように、自分も見識を広げたい。
そのために、一人で旅をしてみたい。
サナがそんなことを言い出して、パーティーを離れることになった。
これが最後の別れなんて思っていない。
一時的なもので、また、一緒に楽しく旅をする時がやってくると思う。
でも、サナはとても寂しいらしく、いざ当日を迎えると涙をぼろぼろ流していた。
ついでに、俺のことをぎゅーっと抱きしめる。
ちょっと痛い。
「というか、自分で言い出したことじゃないか」
「そうっすけどぉ、やっぱりぃいいい、いざとなるとぉおおお、びえぇえええええ!!!」
「あー、もう。よしよし」
なんか、サナがわんこに見えてきた。
どうにかこうにか、なだめて。
別れをして……
そして、次はアンジュとナインの番だ。
「うぅ、ハルさん……」
「今まで、大変お世話になりました」
「ううん、こちらこそ」
アンジュとナインも、ひとまずアーランドに帰ることになった。
いい加減、聖女としての旅を再会しなければならない。
それに、アーランドを長期間空けていたせいで、色々とやらなければいけないことがあるという。
そんな催促が飛んできて……
アンジュは迷ったものの、帰郷を選んだ。
サナと同じように、ものすごく迷っていたけど……
「私は、私の務めをそろそろ果たさないといけませんから」
と、晴れやかな顔で決断した。
ただ、ちょっと困ったことがある。
えっと……
告白の件だ。
まだ返事をしていないから、それをなんとかしたいんだけど……
「ハルさん」
「あ、うん」
「……あの話については、また今度で」
「えっと……それでいいの?」
「はい。また会う時までに、もっともっと好きになってもらえるようにがんばります」
「お嬢様、成長されて……」
アンジュの決意にナインが泣いていた。
主に対しては、いつも甘いメイドさんだ。
「ハル」
くいくいと服が引っ張られる。
見ると、シルファがこちらを見上げていた。
彼女とも、ここで一度お別れだ。
クラウディアのことが気になるらしく、手伝いたい、と言い出した。
最初は、自主性なんてまるでなかったシルファ。
でも今は違う。
シルファはシルファらしく。
『我』というものをしっかりと確立していた。
フランみたいだ。
「えっと……」
「うん」
「その……」
「うん」
「……んー?」
シルファは小首を傾げた。
別れの挨拶をしようとしていたみたいだけど、うまい言葉が出てこなかったみたいだ。
訂正。
まだまだシルファは成長しないといけないかもしれない。
でも、それは、色々な余地を残しているということで……
これからがとても楽しみだ。
「シルファ」
「うん?」
「またね」
「うん、また」
別れの挨拶はこれくらい簡単なものでいい。
だって、これが最後じゃないんだから。




