550話 終着点
「コネクト」
この時のために、ゼロから開発した魔法。
この状況を打破するために、まったく新しい発想で開発した魔法。
それをデミウルゴスに使う。
「っ!?」
キラキラとした小さな光。
それが、ゆっくりとデミウルゴスの中に吸い込まれていく。
それだけ。
巨大な爆発が起きるとか。
あるいは、空間がねじ曲がるとか。
そんな派手な効果が現れることはない。
ただ、光が吸い込まれただけだ。
「これは……なんだ……これは!?」
デミウルゴスの動きが止まる。
かといって、ダメージを与えている様子はない。
どちらかというと、困惑している、という感じだ。
「私の中に、なにかが……私の知らないなにかが広がっていく……これは、毒? 毒なのか?」
「そうだね。あなたにとって、俺がやったことは毒かもしれないよ」
「なにを……なにをした!?」
今までにないほどデミウルゴスは慌てていた。
動揺を見せていた。
うん。
成功したみたいだ。
「えっと……これは?」
「ハル、どういうことよ?」
デミウルゴスの変貌に、みんなも驚いている様子だった。
相手と同じように攻撃の手を止めて、説明を求めるような目をこちらに向ける。
「強制的にだけど、俺達のことを『わかって』もらったんだ」
俺が抱いている想い。
人間の心。
知識として蓄えてきた歴史。
そして、今までの旅で見てきたこと、知ったこと。
それらの想いと記憶を、魔法でデミウルゴスと共有した。
簡単にまとめると……
こちらの考えていること、想い、無理矢理に感じろ。
というところかな?
「なんていうか……ハルさんらしい魔法ですね」
「ええ。そういう、常識外の魔法を考えるところは、本当にめちゃくちゃよ」
褒め言葉、って考えておこう。
「でも、なんでそれで……こうなるのよ?」
レティシアは困惑した様子で、動きを止めているデミウルゴスを見た。
デミウルゴスは己を抱くようにして、わずかに震えていた。
時折、小さなうめき声を漏らしている。
「私がいい例なんじゃないかな」
「フランが?」
「天使だって、変わることができるんだよ。私は、お兄ちゃんと一緒にいることで変わることができた。だから、神様も……ママも変わることができる。ただ、そのためのきっかけというか、要因が薄かったからなかなかうまくいかなくて……」
「でも、ハルさんの魔法で人間のことを今まで以上に深く『知り』、変わった?」
「うん、そんなところだと思う」
「洗脳みたいね……」
「ちょっと、レティシア。物騒なこと言わないでよ」
人聞きが悪い。
この魔法は、あくまでも俺の感情や記憶を伝えるだけ。
その後、相手がどう思うか、そこまでは制限をかけることはできない。
「洗脳とか、そんなことはなくて……彼女は、今度こそ、ちゃんと理解してくれたんだと思うよ。そのための方法が、ちょっと強引だったのは認めるけどね」
ただ、これで戦いが終わりかどうか、まだわからない。
やはり俺達のことを認められない、という結論に至るかもしれない。
いつでも動けるように身構えつつ、デミウルゴスの反応を待つ。
ややあって……
「……そういうこと、なのですね」
小さなつぶやき。
それと同時に、デミウルゴスから光の粒が散る。
巨体がゆっくりと分解されていき……
デミウルゴスは元の姿に戻った。




