54話 旅の夜にて
三日後。
街の人達が用意してくれた馬車を使い、俺達は宿場街を後にした。
ミーシャは何度も頭を下げていて、別れの時には涙まで見せてくれた。
アーランドに帰る時は、ぜひ、ひだまり亭に寄ろう。
みんなでそう決めた。
そんな感じで、再び迷宮都市アズライールを目指して旅立ったのだけど……
「今日は風が気持ちいいね」
「にゃん」
シルファとシロという、新しい同行者が増えていた。
なんでも迷宮都市に行く用事ができたらしく、せっかくだからと、一緒に行ってもいいかと尋ねてきた。
俺達としても、シルファと別れるのは寂しいと思っていたのでちょうどいい。
ちなみに、シロは正式に飼うことにしたらしい。
シルファの頭の上が定位置になっているらしく、一人と一匹、仲睦まじい様子を見せている。
「師匠、師匠」
「うん? どうかした?」
「退屈っす……」
「あはは。それは、我慢してもらうしかないかな」
「うー、ヒマっす……馬車旅だと体を動かせないから、退屈極まりないっす……おや?」
ふと、サナが馬車の先を見る。
「これ……魔物の気配っすね」
「「えっ!?」」
俺と御者の驚きの声が重なる。
「師匠! 自分、やっつけてきていいっすか? ちょうどいい運動になるっす」
「えっと……じゃあ、お願いするよ」
「はいっす!」
魔物が現れたというのに、サナは満面の笑みで飛び出していった。
ほどなくして、馬車の前方から魔物の悲鳴らしきものが聞こえてきた。
どことなく哀愁を感じられるのだけど……
魔物も、まさかこんなところでドラゴンに襲われるなんて、思ってもいなかっただろう。
「いやー、助かりますよ」
御者がニコニコしながら話しかけてきた。
「宿場街を救ったお客さん達がいれば、魔物も盗賊も、なにも怖くないですからね。宿場街の人から運賃はもらっていますが、むしろ、こちらが払いたいくらいですよ。どうですか? 帰りもウチの馬車を利用しませんか? もちろん、その時は護衛料を払いますよ」
「うれしい話だけど、どれくらい滞在するかわからないから」
「そうですか、残念です……ですが、もしも機会があれば、その時はよろしくおねがいします」
こんな時でも、しっかりとセールスを忘れない。
ちゃっかりとした御者だなあ、なんて感想を抱くのだった。
――――――――――
迷宮都市アズライールには、途中で二つの街を経由して、そこで補給と休憩を行う。
ただ、一日でたどり着けるわけじゃない。
街に到着するまでは、基本的に野宿となり、みんなで火を囲むことになる。
基本的に、火の番は、御者と客、みんなを含めての交代制となる。
御者が全てを管理するところもあるけど、今回は違う。
人手不足で、俺達も協力することに。
ただ、こういうことは助け合いが必要だと思うから、特に問題はない。
「……ふわぁ」
パチパチと燃える火をじっと見つめていると、眠気に襲われてしまう。
交代する前に6時間は寝ておいたんだけど……
焚き火を見ていると、なんか眠くなるんだよね。
眠気を誘うような、そんな催眠波が出ているのかもしれない。
夕方に調達した薪をぽいっと放り込む。
一瞬、火が激しくなり……
再び、ゆらゆらと落ち着いたものになる。
「ハル」
「うわっ!?」
振り返ると、いつからそこにいたのかシルファの姿が。
気配どころか足音もしなかった。
心臓に悪い……
「えっと……どうしたんだ? 交代、そろそろだっけ?」
「ううん、違うよ」
「なら、どうして? まだ先なら、寝ていた方がいいんじゃない?」
「……」
「シルファ?」
顔をぐいっと寄せてきて、こちらを覗き込んでいる。
じーっと、圧すら感じる視線がぶつかる。
「えっと……?」
「ハルはもう寝るの?」
「え? いや、どうしよう……時間までは、ちゃんと番をしようと思っているけど」
「なら、お話しよう。ハルとお話したいな」
「そうだな……うん、それもいいか」
深夜……焚き火で温まりながら、のんびり話をするというのも楽しい。
シルファは隣に座り、再び、じっとこちらを見つめる。
「俺の顔、なにかついている?」
「目と鼻と口が」
「あはは、ベタなギャグを……」
「二つずつ」
「二つ!?」
こんなことを言うなんて……なかなか侮れない子だ。
「ハルはなにをしている人なの?」
「あれ? 冒険者って言わなかったっけ?」
「詳しく知りたいな」
「詳しいと言われても、大したことはないんだけど……」
誰彼話すようなことじゃないけど、シルファならいいか。
そう思い、レティシアとのことを話す。
「ハルは、勇者と一緒にいたんだ。なるほど、すごいね」
「そうかな?」
「普通はパーティーに参加できないと思うよ」
「俺の場合、レティシアが幼馴染だったからね。まあ……参加したことは、今となっては後悔しているんだけど」
「大変なんだね。よしよし」
シルファが膝立ちになり、俺の頭を撫でる。
「えっと……」
「よしよし」
無表情のままなんだけど、でも、どこか優しい感じがする。
そんなシルファに癒やされるところもあり……
「よしよし、ハルはがんばったよ。よしよし」
しばらくの間、そのままシルファに撫でられるのだった。
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




