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544話 最後の対話

「……」


 気がつけば知らない場所にいた。


 暗い。

 明かりがまったくない。

 広がるのは黒だけ。


 上下の感覚も曖昧だ。

 浮いているのか。

 それとも、沈んでいるのか。

 どちらなのか判別がつかなくて、それと、前に進んで歩くことができない。

 もちろん、後退することも。


「なんだろう、ここは……?」


 考えて……

 ふと、心当たりが思い浮かぶ。


「そういえば……」


 以前、魔王の魂と対話をした時があった。

 その時の光景によく似ている。


「俺は……」


 どうなったんだろう?

 もしかして、死んでしまったのだろうか?


「安心しろ」


 ふと、そんな声が響いてきた。


 聞き覚えのある声。

 もう二度と聞くことはないと思っていた声。


 その声が形を作り、一人の人間が浮かび上がる。


「あなたは……」

「久しぶり、というべきか」

「……魔王……」


 人の形を取るもの。

 それは、俺の中に眠るもの。

 そして、俺が引き継いだ魔王だった。


「消えてなかったんだ。あれで最後、みたいなことを言っていたけど……」

「最後のつもりではあった。ただ、あまりにも不甲斐ないのでな。こうして、ちょっかいを出しにきたというわけだ」

「不甲斐ない?」

「神を相手に、なんだ、あの無様な戦いは? 圧倒されているではないか。まるで打開策を見いだせていないではないか。情けない」

「だって、それは……」


 あんな化け物を相手に、思うように戦えるわけがない。

 そう反論しようとするけれど、魔王が先に言葉を紡いで、封じる。


「迷っているだろう?」

「それは……」

「やらないといけない。やると決めた。そんなことばかり心に並べて、自分に言い聞かせるようにして……それが証拠だ」

「……」

「覚悟を決めたつもりでも、まだ、迷いは完全に消えていない。心のどこかで、これで本当にいいのだろうか? と悩んでいる。だから、あんな無様な戦いになる」

「そう、かもしれないけど……でも、だけど……」


 反論しようとして。

 しかし、言葉は出てこない。


 魔王の言う通りだ。

 俺は……わずかなものだけど、迷いを抱いている。


 神様が正しいとは思えない。

 でも、人間が支えられてきたことも確かだ。


 話は決裂した。

 戦うしかないと思った。


 でも……


 ふと、思ったのだ。

 こうして力で解決しようとする俺もまた、神様と同じことをしようとしているのではないか、と。


「つくづく甘いな」

「し、仕方ないだろう。なんでか知らないけど、そう思っちゃったんだから」

「まあ、貴様らしいといえばらしいか」

「……わかったように言うんだね」

「貴様が産まれてからずっと、貴様の中にいた。故に、それなりのことはわかるつもりだ。我がこう評するのもなんだが……貴様は優しすぎる」

「……」

「神は独善的ではあるが、それなりの功績を立ててきた。そして、悪気があるわけではない。星と人間を救うという使命を持ち、それを一番に考えている。方法はともかくな。それを『悪』と呼んでいいのか? 力でねじ伏せていいのか?」


 心を見ているかのように、俺の考えていることを言い当ててくる。


 まあ、当たり前か。

 魔王は、もう一人の俺のようなもの。

 彼に隠し事はできない。


 みんなの前では、なにもないような顔をしていたけど……

 魔王が今言ったように、俺は迷いを抱えていた。

 本当にこれでいいのか? という、小さな棘が心に刺さっていた。


「迷う必要なんてないものを」

「それは……」

「もういい。我がやる」

「え?」

「体のコントロールを渡せ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 力があれば、神にも悪魔にもなれるか?(ʘᗩʘ’) なら神が善で悪魔は悪か?(ب_ب) そんなのは只の幻想なり(-_-メ) 今すべき事、やらなきゃいかん事があるなら迷ってられん(⇀‸↼‶) …
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