543話 最後の戦い・その6
デミウルゴスは黒炎をものともせず、四枚の翼を大きく広げた。
それと同時に、やつに絡みついていた黒炎が一瞬で消える。
「っ……!?」
思わず攻撃の手を止めてしまう。
その隙をデミウルゴスは見逃さない。
ヤツが唱える魔法は、初級のファイアーボール。
デミウルゴスが開発したものだから、使えて当然だ。
ただ……
火球の大きさは通常の10倍ほど。
そして、星のように数えきれないほどの火球が浮かんでいた。
「堕ちろ」
デミウルゴスの合図で一斉に火球が降り注いできた。
豪炎。
爆発。
それらが連続で繰り返されて、場が炎で埋め尽くされていく。
「きゃあ!?」
「アンジュ!? 今、そっちに……あうっ!?」
「くっ、こんなデタラメな……!!!」
「とにかく避けて、防いで!」
被害はみんなの方にも及んでいる。
俺だけを目的としていない。
全員を一度に攻撃するためのもの。
殲滅するための魔法。
そして……
これでもまだ、デミウルゴスは本気を出していないのだろう。
いや。
本気は出しているのかもしれない。
でも、切り札は隠し持っているはずだ。
対するこちらは、出せるものは出し尽くした。
アリスの精霊。
レティシアの魔人化。
アンジュの聖女としての力。
フランの天使の力。
そして、俺の魔王の力。
ありったけのものを出して、一気にたたみかけて……
これ以上ない火力で押し切ろうとしたけど、でも、現実は、さらに圧倒的な火力を返されて痛いカウンターを受けている。
これは、どうすれば……
『絶望』の二文字が心に広がる。
「……まだだ」
弱気になりそうな心を必死に奮い立たせる。
諦めたらいけない。
心を折るわけにはいかない。
神に抗うことにした。
定められた道を歩くだけじゃなくて、自由に未来を決めることができる。
それを証明すると決めた。
「俺は……俺は!」
以前は、なにも知らなくて、まったくの無知で……
でも、今は違う。
まだ完全とはいえないけれど、それでも、それなりに世界を知ることができた。
同時に、世界の歪みを知ることができた。
なら、責任がある。
歪みを正さないといけない。
そして、なによりも……
「俺は、俺らしく生きる!」
そのために戦う。
どこまでも抗ってみせる。
「アルティウム……」
「無駄だ」
「っ!?」
ヤツの攻撃の方が早い。
太陽を彷彿とさせる、巨大な炎。
それなりの距離があるはずなのに、ちりちりと肌が灼けるかのようだ。
太陽が落ちてくる。
視界が赤に染まる。
そして……
「ハルッ!!!」
誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。




