539話 最後の戦い・その2
「……」
レティシアがふらりとよろめいて……
「っ……!!!」
しかし、倒れることなく、踏みとどまる。
デミウルゴスを睨みつけて。
ただ、それ以上の攻撃は控えて後ろに下がる。
よかった。
あのまま攻撃を続けていたら、さらに酷い目に遭っていたかもしれない。
退いた、という判断は正解だ。
「レティシア、大丈夫!?」
「なんとか……ね」
「すぐに治すから……ヒール!」
幸い、そこまで酷い怪我じゃない。
俺の治癒魔法でもなんとかなった。
「どういうこと? 確かに、手応えはあったのに……」
「あたしも、レティシアの攻撃は、確かに届いていたように見えたわ」
火力不足じゃない?
「みなさん」
後ろからアンジュが声を飛ばす。
「もしかしたら、とんでもなく高い再生能力を有しているのかもしれません」
「再生能力?」
「えっと、常に治癒魔法をかけ続けている状態、っていいますか……だから、小さな傷はすぐになくなってしまうのかな、と」
なんて厄介な。
「なら……再生が追いつかないほど、一気に叩く!」
「レティシア!?」
「はぁあああああ! マルチウェイっ!!!」
レティシアが再び突撃する。
そして、一度に十を超える剣閃を放つという、上級剣技を叩き出した。
右から、左から、下から、上から……
ありとあらゆる角度から刃が襲う。
さきほどとは段違いの攻撃だ。
しかし、デミウルゴスは避けようとしない。
防ぐことも考えない。
さきほどと同じように、なにもせずに受け止めた。
「なっ!?」
どこかでこうなる可能性を考えていたのだろう。
レティシアは驚きつつ、反撃を恐れ、すぐに距離を取る。
「私の攻撃を防いだ? ううん……そんな素振りは……」
「再生しているわけでもなさそうね」
「ご、ごめんなさい。私が適当なことを言って……」
「ううん、アンジュは悪くないよ。なにもわからない相手だからこそ、色々なことを考えて、可能性を提示して、それを一つ一つ潰していかないと」
それが一番有効な戦い方だ。
ただ……
「朽ち果てよ」
デミウルゴスの翼が輝いて……
それと呼応するかのように、炎の槍が生成された。
いや。
槍というか、巨人の槌と呼ぶべきか?
直撃したら、一瞬で骨まで燃え尽きてしまいそうだ。
「俺の後ろに!」
アンジュとフランを背中にかばう。
アリスとレティシアも、なにも言わず、すぐ後ろに隠れた。
防御魔法を……
いや、ダメだ。
「フレアブラスト!」
炎に炎をぶつけて相殺した。
「うそっ!? ハルの魔法と同じ威力なの!?」
「しかもあいつ、まるで詠唱をしていないわ」
レティシアの言う通り、デミウルゴスは詠唱をしていない。
魔力を練り上げている様子もない。
それでいて、高威力の俺が知らない魔法を使う。
どういうことだ?
なにもかも俺達と違う。
こちらの常識が通用しない。
「無駄だ」
デミウルゴスは余裕を見せて、攻撃の手を止めた。
「お前達が使う剣技、魔法……それが私に通じることはない」
「なんだって?」
「それらを作り出したのは私だ。なればこそ、セーフティーをかけておくことは当たり前のこと。私の作り出したもので私を傷つけることはできない」
それじゃあ……
こちらの攻撃は全て通用しない?




