表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/547

53話 依頼

「「「かんぱーいっ!」」」


 夜。

 街で一番大きな宿で祝宴が開かれた。

 集まる人々はみんな笑顔で、たくさんのお酒を飲んでいる。


 そんな宴の中心にいるのは……俺達だ。


「ありがとうっ、本当にありがとう! 兄ちゃん達は、この街の恩人だ。兄ちゃん達がいなかったらと思うと、ゾッとするよ」

「この街の宿の名物料理、全部揃えたからね。たんと食べておくれ! ああ、もちろん、酒も色々と用意したよ。高級酒じゃないけど、この街で作ってるのもあって、どれもオススメだからね」

「よかったら、冒険譚とか聞かせてくれませんか!? 英雄様達の色々な活躍を聞きたいです!」


 街の人々に囲まれるようにして、あれこれと接待を受けていた。


 魔物の群れを掃討したことで、街の危機は去った。

 そのことを感謝した街の人々が宴を開いてくれたんだけど……


「う、うーん……」


 なんていうか落ち着かない。

 こんな風に歓待を受けることなんて、今まで一度もなかったからなあ。


 レティシアは勇者として活動をする時に、何度も歓待を受けていた。

 しかし、俺はその度、外へ追いやられていた。


「ハルも参加したい? はぁ? なに言ってんの? キングオブ雑魚のハルは、なーんにもしてないでしょ。功労はゼロ。っていうか、マイナス。そんなハルが、宴に参加するなんておこがましいにもほどがあるんですけど。すっごい笑えるー」


 なんて感じだったからな。


「ハル……苦労しているのね」

「今日は、ハルさんが主役ですからね! 思う存分に楽しんでください!」


 アリスとアンジュに過去の話をすると、二人は涙ぐむような顔になり、次いで笑みを向けてきた。

 今日は楽しんで、と言うように酒と料理を勧められる。


「ハル、このお酒、スッキリしてて飲みやすいわよ。飲んでみて」

「ハルさん。このお肉、ピリ辛なところがおいしいです。食べてみてください」

「えっと……自分で飲めるし、食べられるんだけど」

「ハルは主役なんだから、ここはあたしらに任せて」

「そうですよ。ハルさんは一番の功労者なんですから」

「……ナイン?」

「ふふっ、両手に花でございますね」


 ナインはにっこりと笑う。

 そのまま素直に二人の歓待を受けてください、と言っているような気がした。


「はぐはぐはぐっ! あむっ、あむっ、あむぅううう!」

「おーっ、竜の嬢ちゃん、いい食いっぷりだねえ」

「ほら、こっちにも肉があるよ。たんとお食べ」

「肉ばかりじゃなくて、野菜も食べた方がいいぜ。ほら、俺のところの畑でとれた野菜だ」

「肉も野菜も、全部うまいっす! 最高っす!」


 サナの元気で気持ちのいい食べっぷりに、街の人々が癒やされるような顔をしていた。

 正体がドラゴンだということを知りながらも、みんなであれこれと与えて甘やかしている。


 サナは元気でとても素直な性格をしているから、たぶん、孫と接しているような感覚になるだろうな。

 そんな魅力に骨抜きになっている様子で、街の人々はだらしのない笑みを浮かべている。


「あれ?」


 シルファの姿が見えない。

 宴が始まった当初は、マイペースに料理を食べていたような気がするんだけど……

 気がついたら姿を消していた。


「どこに行ったんだろう?」


 気になるんだけど、


「ハルぅ……! 前々からぁ思っているんだけどぉ、ハルってば、自己ひょーかが低すぎなのよぉ。もっと自信を持ちなさい、自信をっ!」

「うぅっ、ぐすっ……すみません、ハルさん。私、ダメな聖女ですよね、ダメダメですよね……もっとがんばります。虫くらいは役に立てるようにがんばります、ぐすっ」


 説教魔と化したアリス。

 そして、泣き上戸となったアンジュに挟まれているせいで、シルファを探しに行くことはできないのであった。




――――――――――




 ひだまり亭の二階から見える湖。

 その近くに広がる森にシルファの姿があった。


 頭の上にシロを乗せて、その状態で、骨付き肉を頬張っている。

 頬についているソースが、ちょっと間抜けである。

 時折、頭の上のシロに肉をおすそ分けしていた。


 場所が場所でなければ、微笑ましい光景だったかもしれない。

 しかし、人一人いない夜の森でそんなことをしているシルファは、かなり不気味だった。


「……お前はなにをしている?」


 不意に声が響いた。

 いつからそこにいたのか、シルファの後ろに影が現れる。


 深いフードを被っているため、顔は見えない。

 ただ、声から男であることが推測できた。


「ごはんを食べているよ」


 シルファは動揺することなく、肉を食べながら淡々と答えた。


「なにを呑気なことを……お前はやる気はあるのか? 我らの主に対する忠誠は、ちゃんと持ち合わせているのか?」

「あるよ? だから、この前も、ちゃんと仕事をしたよ」

「まあ、ジンという裏切り者を始末した手腕は、さすがの一言に尽きるが……やれやれ。そのマイペースなところを治せば、ナンバーワンの実力者になれるかもしれないというのに」

「それは別に興味ないかな。実力とか、どうでもいいよ。シルファは、生きていくためにこの仕事をしているだけだから」

「好きにしてくれ。どちらにしても、俺のような連絡役には関係ないことか」

「それで、どうかしたの? あなたの気配を感じて、話がしやすいところに移動したんだから。話があるなら、早くしてほしいかな。でないと、ごはん、なくなっちゃうよ」

「本当にマイペースな小娘だな……まあいい」


 影は仕切り直すように咳払いをしてから、言葉を続ける。


「新しい仕事だ」

「早いね。もうしばらく、ここで待機するのかと思っていたよ」

「主の命令だ」

「ふーん……いつも通り、殺せばいいの?」

「ああ、そうだ。それが我ら暗部の仕事だ」

「ターゲットは?」

「ハル・トレイター」

「……」

「最近、一緒にいるそうだな? ヤツの素性は知っているか?」

「詳しくは知らないかな」

「ジンが下手打ったのも、ヤツが深く関わっているらしい。故に、我らが主は危惧された。念のために、災いの芽を摘み取っておくことにした……というわけだ」

「なるほどねー。条件は?」

「報酬はいつも通り。殺し方は任せる。時期についても、これも任せる。お前が最適と思うタイミングで行動して、確実に仕留めろ」

「うん、了解」


 シルファはコクリと頷いた。

 ハルを殺す依頼を持ちかけられたというのに、特に迷うことはない。

 それが彼女の本来の顔……殺し屋の姿なのだろう。


「任せたからな」


 影はそう言い残して、姿を消した。

 最初から存在していなかったかのように、なんの痕跡も残っていない。


 一人になったシルファは空を見上げる。


「次のターゲットは、ハルなんだ」


 淡々とした口調だ。

 相変わらず、なんの感情もこめられていない。

 ただ、シルファは胸にチクリとした感情が差すのを覚えた。


「なんだろう、これ?」


 しかし、その正体がわからず……

 深く考えることなく、さらりと流してしまう。


 夜空では、月が静かに輝いていた。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ハルをやれるか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ