538話 最後の戦い・その1
「ハル、あたし達もいることを忘れないでね」
アリスが精霊を剣に宿す。
輝く剣を向ける先は、もちろん、神様だ。
「勇者の私が斬るのは、本来なら悪魔だけど……まあ、神様を斬るのも楽しそうね」
レティシアは不敵に笑い、アリスと同じように剣を抜いた。
これまでにない強敵と戦うことになるのだけど、怯んでいる様子はない。
「ハルさん、フランさんのことは任せてください。絶対に助けてみせます」
アンジュはフランの治療を続けている。
絶対に成し遂げてみせる、という強い意思を感じた。
「愚かな」
神様の顔から感情が消えた。
人形のように冷たく。
仮面のようになにも感じ取ることができない。
「私の統治に間違いはありません。あってはならないのです。そして、それを阻害する者……あなた達を、最大の脅威と認定します。本来ならば守るべき人間ではありますが、今は例外。敵として、全力で排除いたしましょう」
神様が黒い光に包まれた。
それは数倍に膨れ上がり……
中にいる彼女は異型の存在に変貌を遂げていく。
天使のように綺麗で、しかし、漆黒の翼を四枚。
同じく、腕も四本。
身長は10メートルほどで、化け物としか言いようのない姿ではあるものの、でも、どこか神々しさは残っていた。
「私の名前は、デミウルゴス……世界を管理する、調停者なり。世界の調和を乱す者よ、消えるがいい」
そして、神様が……デミウルゴスが動いた。
――――――――――
四枚の翼を羽ばたかせて、宙に舞う。
その状態で二本の腕を前に突き出して、魔力を収束。
魔法らしきものを放つ。
黒に輝く雷撃だ。
それは蛇のようにうねり、食らいつこうとする。
防御魔法を……
いや、ダメだ!
「アリス! レティシア! 避けて!」
言いつつ、俺は横に大きく跳んだ。
直後、雷撃が襲い来る。
ゴォッ! という轟音と共に破壊の力が撒き散らされて、さっきまで立っていた場所を焦がす。
幸いというか、攻撃範囲は狭い。
避けることは簡単だ。
防ぐこともできただろう。
ただ……
「第二撃!」
間髪入れず、次の雷撃が放たれていた。
それも避ける。
そして、すぐに三撃目が。
もしも防いでいたら、そこで足を止められていた。
何度も何度も攻撃されて……
いずれ、力尽きていたかもしれない。
「このレベルの魔法を連発するとか、無茶苦茶ね……!」
「そういうのを相手にしているんじゃない、今更よ。ダブルスラッシュ!」
攻撃は最大の防御。
そう語るかのように、レティシアが前に出て剣技を放つ。
神様……デミウルゴスは、避けるのではなくて、防ぐでもなくて。
ただ、なにもせずに受け止めた。
「なっ!?」
レティシアの剣は確かに通った。
通ったはずなのに、傷一つついていない。
「その程度の武器、その程度の技……私をどうにかできるとでも?」
単純に、攻撃が届いていない?
火力不足なのか!
「滅びよ」
「ぎゃん!?」
至近距離で雷撃が放たされて、レティシアがそれに撃たれて……
「レティシア!!!」




