535話 果てに
「ここが昇降機だよ」
小さな部屋に似た、箱のようなもの。
その上を見ると、管のようなものが伸びていた。
どこまでも、どこまでも……
果てが見えず、空の彼方に消えていた。
「えっと、私のIDは……うん、使える。よかった、まだ消されていないみたい」
「これで、神様がいる展望台に?」
「行けるよ。ただ、使うには私のIDが必要なんだ。それを使うと使用履歴が残って、私達がここにいるよ、っていうことがバレちゃうから。IDが停止されちゃうと思う」
「……つまり?」
「一方通行、って思って」
実にわかりやすい話だ。
でも……
「さ、行きましょ」
まっさきに動いたのはレティシアだ。
なんてことのない表情で昇降機の中に入る。
「こんな時になんですけど、ちょっとワクワクしますね」
「わかる。ここから上に行くっていうことは、景色もいいだろうから」
アンジュとアリスも笑顔で続いた。
そんなみんなを見て、フランがぽかんとする。
「えっと……私の話、聞いていた? 一方通行で、戻ってこられる保証はないんだけど……」
「大丈夫。みんながいれば、なんとかなるわ」
「ま、いざとなればハルになんとかしてもらうわ。それくらいはやってもらわないと」
「ふふ。レティシアさん、それ、ひどいです」
「……」
フランは、再びぽかんとして、
「……くす」
小さく笑う。
「これが人間の強さ……なのかな? やっぱり、お兄ちゃん達は間違っていないみたい」
「フラン?」
「行くよ、お兄ちゃん」
「うん」
俺達も昇降機に乗る。
フランが手をかざすと扉が閉まり、ガコンと昇降機が動き出した。
ふわりとした感覚と共に、昇降機が上昇する。
一部がガラスになっているため、外の様子が見える。
「わぁ……」
こんな時になんだけど、昇降機から見える景色に感動してしまった。
高く、高く……どんどん上に。
天上都市が小さく見えてしまうほどに。
それでも昇降機は止まらず、さらに上昇を続けて……
ふと、周囲が暗くなってきた。
夜になる時間じゃないのに、深い闇に包まれていく。
「お兄ちゃん、気にしないで。宇宙に近づいているだけだから」
「えっと……?」
「なんて言えばいいのかな? 空気のない場所で、ふわふわっとしてて……星の外に出ようとしているの。世界の外、って言い換えてもいいかな」
「外に……」
改めてガラスの向こうを見る。
その先に……世界が広がっていた。
大地が見える。
海が見える。
空が見える。
世界が……見えた。
「これが、俺達の世界……」
初めて見る光景に心躍り。
初めて知る世界に感動して。
「……っ……」
どうしてなのか、ふと、涙がこぼれそうになってしまうのだった。




